第10話 護衛依頼


「こりゃすごい……」


 冒険者ギルドの中は大勢の人で溢れかえっていた。金属製の鎧や、魔物の鱗や皮でできていると思われる胸当てや腰当て。弓に槍にロングソードなど、ファンタジー感溢れる光景である。


 そして商業ギルドにいた人はほとんど人族ばかりであったが、この冒険者ギルドにはネコやイヌの獣人、ドワーフ、エルフ、リザードマンなどなど、様々な種族が混在していた。


 俺が冒険者の格好をしていなかったからか、ここが冒険者の始まりの街だからかはわからないが、他の冒険者に絡まれるという定番イベントは起きなかったようだ。


 冒険者ギルドの中には大きな依頼ボードがあり、そこには多くの依頼が貼られていた。おそらくここから自分の受けたい依頼を取っていくのだろう。


 他にも剥ぎ取った魔物の素材の買い取り所や、食事や酒を飲む食堂まである。それに依頼をする側の受付もあるようだ。俺の用があるところはあそこの受付なんだが、その前にちょっと人を探さないとな。




「おっ、テツヤじゃないか!」


「ロイヤ! よかった、人が多すぎるから全然見つからなかったよ」


 昨日俺を助けてくれた冒険者のロイヤ達だ。冒険者ギルド内を探し回ってようやく見つけた。ロイヤ達は食堂で食事をしているところだった。


「あらテツヤじゃない、お金がないって言ってたけど大丈夫だったの?」


「昨日は冒険者ギルドに来なかったということは、自力でなんとかなったのか?」


「商業ギルドで持ち物を少し売ったら、結構いいお金になったんだ。それにおかげさまで商業ギルドに登録もできたから、この街で商人になることにしたよ」


「おお、そりゃよかったな!」


「ああ、これもみんながあの森で俺を助けてくれたおかげだ。これ、少ないんだけど受け取ってくれないか?」


 ポケットの中に手を入れるフリをしてアウトドアショップにチャージしていた金貨を10枚取り出す。


「おいテツヤ!? さすがに受け取れねえよ!」


「そうよ、お礼なら昨日のお昼をご馳走になったわ」


「ああ、あれだけうまい飯をご馳走になったのだ。あれで十分だ」


「いや、みんなが助けてくれなかったら、俺はあのままゴブリンに殺されていたかもしれないし、運良く逃げられたとしても、あの森で遭難していた可能性が高い。みんなは命の恩人なんだからこれでも少ないくらいだ」


 本当はもっと渡してもいいくらいだが、商売の元手も必要だし、今はこれが精一杯である。


「テツヤ、その気持ちはとても嬉しい。でもな、俺達はまだ駆け出しだけどなんだ。少なくとも俺の目指す冒険者は、ゴブリンから人を助けたくらいでこんな大金は受け取らない」


「………………」


 ……まったく正当な報酬だし、遠慮なく受け取ってもらってもいいものなのにな。本当にお人好しなやつだよ。


「わかったよ。じゃあせめて飯くらいは奢らせてくれ。それにみんなには聞きたいこともいくつかある。これなら正当な報酬だろ」


「……ああ、そういうことなら喜んでご馳走になるぜ!」


「やったあ、テツヤご馳走さま!」


「ああ、ありがたくご馳走になるぞ!」




「なるほどねえ、駆け出し冒険者が使いやすそうな道具か」


「ああ、それをメインに売ろうと思っているんだけど、実際の冒険者にも意見が聞きたいんだ。だから普段の冒険者の依頼に同行する、という依頼を出しに来たんだ。そんでもって、できればロイヤ達にお願いしたいと思っている」


「ふ〜ん、そういうことなら明日の私達の依頼についてきてもらえばいいんじゃない? いつも受けてるゴブリン討伐や角ウサギの狩猟じゃなくて、簡単な薬草採取の依頼とかにしてさ」


「だが、今回の依頼だとテツヤの護衛任務も含まれるから、Eランク冒険者の俺達じゃ受けられない可能性もあるぞ」


 そうか、戦闘能力皆無の俺が一緒についていくということは、普段の依頼に加えて俺の護衛任務も追加されることになるのか。


「どうなんだろうな? こういうときはギルドの人に聞くのが手っ取り早いぜ。飯を食い終わってから聞いてみよう」


 飯や酒を飲み食いしながら、今ロイヤ達が使っている道具やあったら便利な道具についていろいろと話を聞けた。ここでの食事代を払ってギルドカウンターへ向かう。3人ともお酒はそれほど飲まないので、金貨1枚もかからなかった。




「……なるほど、それでしたら護衛任務も含まれますので、申し訳ないのですがロイヤ様のパーティではお受けすることができません」


「ああ〜やっぱりか」


「できればロイヤ達に受けてもらいたかったんだけどなあ」


 どうやら護衛任務となると、新人のEランク冒険者が依頼を受けることはできないようだ。


「一応ひとつ方法がありまして、ロイヤ様パーティの他にもうひとりCランク以上の冒険者の方が一緒に同行すれば、この依頼を受注することが可能ですよ。ですがその場合は依頼料が普通よりも高額になってしまいます」


「なるほど、依頼料はいくらになりますか?」


「通常のご依頼に同行する形になりますので、多少は割引されます。冒険者様達に金貨7枚、冒険者ギルドに手数料として銀貨5枚で合計金貨7枚と銀貨5枚になりますね」


「わかりました、それでお願いします」


「おいテツヤ、高いけど大丈夫なのか?」


「ああ、それくらいなら十分予算内だ」


 金貨7枚と銀貨5枚か……割引されても多少高いけれど、安全には変えられない。少なくとも俺ひとりでもう一度あの森に入るのは絶対に嫌だ。ロイヤ達にキャンプギアを渡して試してもらうこともできるが、この世界の冒険者の現場を一度はこの目で見てみたい。


「承知しました。おそらくこの依頼内容でしたら明日の朝に受注される可能性が高いので、テツヤ様、ロイヤ様達共に、明日は冒険者ギルドまで早めにお越しください。もしも昼までに受注されない場合には次の日に持ち越されます」


「わかりました」


 多少お金は掛かってしまったものの、無事に依頼を受けてもらえたようでよかった。どちらにせよロイヤ達に金貨10枚を渡すつもりだったから問題ないだろう。

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