第4話 アレフレアの街


 冒険者の始まりの街と呼ばれるアレフレアの街。付近にそれほど強いモンスターは出現せず、物価や宿代も安くて生活もしやすい。その上、大きな冒険者ギルドがあって治安も良いため、この国では駆け出し冒険者に一番優しい街としてとても有名らしい。


 ここまでの道のりでロイヤ達からいろいろと聞いて得た情報だ。物価が安く、街の付近にそれほど強いモンスターが出現しないのは、現在無一文の俺にとっては好都合だ。どうやら少しずつ運が上向いてきたらしい。


「止まれ、通行証か身分証を提示せよ」


「はい、俺達の冒険者証。こっちの人は森で道に迷ってゴブリンに襲われていたところを偶然助けたんだ」


「テツヤと申します。遠くの国から来たのですが、森で迷ってしまい、危ないところをこの人達に助けてもらいました」


「ほう、Eランク冒険者なのにそりゃお手柄じゃないか! それに兄さんも災難だったな。あの森は広いから助かっただけ運が良かったよ。悪いが身分証か通行証がないなら、簡単なチェックを受けてくれ」


「はい」


 ロイヤ達から聞いていたが、この街に入る時には身分証か通行証が必要となる。もしどちらもないなら、門番による簡単なチェックを受けなければならない。逆に言うと通行料とかは取られないので、俺にとってはとてもありがたい。


「それじゃあテツヤ、またな。もし困った事があったら、冒険者ギルドに来てくれれば会えるからな」


「それじゃあね、テツヤ。お昼美味しかったわ」


「この街にいればまた会うこともあるだろう。またな」


「ああ、3人とも本当にありがとう。また改めてお礼しに行くよ!」


 ロイヤ達とはここでお別れだ。無一文の俺にお金まで貸してくれようとしたお人好しだったが、さすがにそこまでしてもらうわけにはいかないので断った。その代わりにおすすめの商業ギルドのある場所を教えてもらった。


 3人に出会わなければ、あのままゴブリンに殺されていたか、遭難していた可能性も高い。それに街まで案内してもらったし、命の恩人であることは間違いない。あんな昼飯くらいで恩を返したことにはならないから、また改めてお礼をしよう。




 無事に門番のチェックを終えた。簡単な質問に答えたり、持ち物を確認するだけであった。持ち物や服装についてはかなり怪訝な顔をされたが、遠い日本という国から来たと言ったら、とりあえずは納得してくれた。俺には分からないが、魔法や魔道具のある世界だし、知らないうちに何か確認されていたのかもしれない。


「それじゃあ兄さん、改めてようこそアレフレアの街へ。何か困ったことがあったら、相談くらいは聞いてやっからな」


「はい、ありがとうございます」


 門番の人も俺のことをすごく心配してくれた。たぶんこの人も良い人なのだろう。


「おお〜!!」


 城壁の中にはこれこそ異世界と呼べるような景色が広がっていた。門の前には大勢の人々や荷馬車が所狭しと行きかうほど余裕がある広い道。その道を行きかう人々の格好も様々であった。


 大きな荷物を背負った商人のような人、農作物をたくさん持った農民のような人、プレートアーマーを身につけた騎士か冒険者のような人。


 そして頭から耳を生やし、長い尻尾をパタパタと振っている猫の獣人、ほとんど犬の姿のまま二足歩行しているような犬の獣人、毛むくじゃらの髭面をした少し背の低いドワーフなど、人族以外の様々な種族がこの街には存在しているようだ。


「これはテンションが上がる。さて、とりあえず無一文のこの状況をなんとかしないとな」


 とりあえず今は完全に無一文だし、食料も残りは非常食くらいしかない。まずは持っている物を売って、当面の生活費を確保しないと。




「ここがロイヤ達の教えてくれた商業ギルドか」


 少し市場を歩いて市場調査をしてから、ロイヤ達から教えてもらった商業ギルドにやってきた。かなり大きな建物で人の出入りも激しい。この街の商業ギルドなら、初めて物を持ち込んだお客さんでも、買い叩かれる可能性はほとんどないらしい。


 カラン、カラン


 扉の上部に取り付けられた鐘が鳴るが、誰もこちらの方を見たりはしない。中はだいぶ忙しく、多くの人で賑わっていた。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」


「あ、品物の買い取りをお願いしたいのですが」


「はい、それではこちらの列に並んで少々お待ちください」


 職員さんの案内で列に並ぶ。前に並んでいた人達は商人というよりは村人や冒険者といった風貌の人が多かった。ここは始まりの街って言っていたし、たぶんちゃんとした商人達は別の大きな場所で取引をしているんだろうな。


「次の方、こちらにどうぞ」


「はい」


 キョロキョロと新鮮な光景を眺めていたら俺の番が来た。カウンターの方へ進むと、そこには美人な商業ギルドの職員さんがいた。うん、やっぱり男として接客してもらうなら、綺麗な女性の方が嬉しいのは仕方のないことである。


 目の前の女性は赤みのかかった長い茶色い髪を三つ編みにしている。瞳の色も若干茶色いようで、顔立ちはとても整った美人さんであった。


「本日は商業ギルドにお越しいただきまして、誠にありがとうございます。本日はどのような品物をお持ちいただけたのでしょうか?」


「はい、これらの香辛料の買い取りをお願いします」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る