第4話 また来年のクリスマスに
「じゃあ、そろそろ行くね」
「うん……」
寂しそうなパープルにオリバーが言う。
「来年のクリスマスにまた来るから、欲しい物考えておいて」
「そうよ。すっごく高いのでもいいのよ!」
ひとりと一頭の言葉にパープルはうなずく。
「考えておくから、絶対来てね」
「うん、約束する。また来年のクリスマスに!」
「ええ、クリスマスに!」
オリバーとヴィクセンが夜空の向こうに消えると、パープルは少しだけ泣いた。
「でも、この部屋にはサンタクロースのくれたプレゼントがたくさんあるわ」
魔法のかかったテーブルクロスに、クレヨンと画用紙。ヴィクセンによく似たぬいぐるみ、新しい布団と毛布、着心地のいい服、面白そうな本、それに衝立まで!
その夜、フカフカの布団と暖かい毛布に包まれ、パープルは幸せな気分で眠ることができた。
◇
この世界では、サンタクロースがプレゼントを配るのは、十五歳までと決められている。サンタクロース協会で仕事をしながら、オリバーはため息をついた。
「あと四回かあ……」
「なによ、元気出しなさい! あの子の部屋には窓も煙突もないから、手紙が届かないのよ。どんな願いごとでも叶えられるように、素敵なプレゼントをたくさん積んでいかなきゃ!」
ヴィクセンに角でつつかれ、オリバーが逃げ回る。
「やめてやめて! わかってるよ、パープルの喜びそうな物でしょ。きれいな絵のついた本や着心地のいい服や、可愛いぬいぐるみはもう用意してあるから」
「ぬいぐるみはいらないでしょ。わたしにそっくりさんな子がいるんだから」
ヴィクセンが変なヤキモチを焼く。
「でも、人形遊びとかしたいかもしれないよ?」
「それならしょうがないわね。カッコいいオスのトナカイならいいわ」
◇
そして、次の年のクリスマス。オリバーは、子どもたちのリクエストの他に、素敵なプレゼントをたくさん用意してソリに乗り込んだ。
「行くよ、ヴィクセン! 出発だー!」
オリバーとヴィクセンがコンビを組んで二度目のクリスマス。
パープルのもとへ飛んで行きたい気持ちを抑え、決められたルートで世界中をまわった。お金持ちの家の子どもも、貧しい家の子どもも、この日は平等にプレゼントをもらえる。
「だからクリスマスっていいんだよね」
手綱を操りながらオリバーが言う。
「もうすぐパープルのいる塔だ!」
「やっと会えるわね」
だが、こんなときのためのマニュアル通り、オリバーは自分たちとプレゼントを魔法で
塔に近づくと、窓の向こうでパープルが手を振っていた。
それを見たヴィクセンが猛然とスピードを上げる。
「ちょっとヴィクセン! あんまり勢いつけると部屋が壊れちゃうよ」
「あ、そうね。いけない」
ヴィクセンはスピードを落とし、パープルのいる部屋の窓をすり抜けて静かに着地した。
「オリバー、ヴィクセン!」
「「パープル!」」
ふたりと一頭は再会を喜んだ。
「会いたかったわ!」
パープルは少し背が伸びて大人っぽくなった。
「ぼくも会いたかったよ」
「寒かったでしょ? よかったら温かいお茶をいかが?」
テーブルの上には、去年プレゼントしたテーブルクロスが敷いてあり、その上に古びたティーポットとティーカップが二つ、おまけにクッキーがおいてあった。
「どうしたの、これ?」
「こっそり頼んでみたの。ほら、座って。ヴィクセンには苺をあげるわね」
* * *
“クリスマスのためにティーセットとクッキーが欲しい”
パープルは
それを見た侍女と看守は首をひねった。
「ひとりしかいないのに、なんでティーセットなんて欲しがるのかねえ」
「ままごとでもしたいんじゃねえか? まだ子どもだしよ」
「そうだねえ……かわいそうだし、うちにある古いポットとカップでよけりゃ持ってくるけど、いいかい?」
「うーん……まあ誰も来ねえし、ばれなきゃいいか」
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