新米サンタクロースと塔に閉じ込められた王女さま

陽咲乃

第1話 オリバーとトナカイ

 聖なる夜、サンタクロースたちは大忙し。

 世界中のあちこちを、トナカイと共にソリに乗って駆け回る。


「メリークリスマース!」

 

 サンタクロースが魔法の呪文を唱えると、大きな袋からプレゼントが飛び出し、子どもたちのもとへ飛んでいった。


 ◇


 新人サンタクロースのオリバーは途方に暮れていた。

 これから自分の相棒となるトナカイを選ぶのだが、放し飼いにされている草原には、年を取ってよぼよぼになったトナカイや、ケガをして足を引きずっているようなトナカイしか残っていなかった。

 

「まいったなあ。どうしよう」

 オリバーが牧場を歩いていると、一頭の若いメスのトナカイを発見した。


「あの子、なんで残ってるの?」

 オリバーは牧場のひとにきいた。


「ああ、そいつはひねくれ者でな。自分の気に入ったやつの言うことしかきかないんだ。若くて元気だからみんな欲しがるんだが、無理に連れていこうとすると蹴りをいれられちまう」

「へえ」


 そのトナカイは、大きくて立派な角を持ち、とびきり綺麗な青い目をしていた。

 オリバーは、ひねくれ者のトナカイに近づいていった。


「初めまして。ぼく、オリバーっていうんだ。よろしくね」

 

 知らん顔をしているトナカイに、オリバーは構わず話しかけた。


「ぼく、どうしてもサンタクロースになりたくて、何度も試験を受けて、やっと受かったんだ。でも、相棒になってくれるトナカイがいないと、子どもたちのところに行くことができないから」


 オリバーは勇気を出して言った。


「だから、ぼくの相棒になってくれない?」


 トナカイはちらりとオリバーを見て言った。


「名前」

「え?」

「わたしに素敵な名前をつけてくれるなら、相棒になってもいいわ」

「ほんと!? わかった。考えるからちょっと待っててね」


 とは言ったものの、女の子の名前なんてよくわからない。

 オリバーはしばらく考えてから、

「じゃあ、ダンサーは? ……プランサー……ヴィクセン」

「ヴィクセン! 素敵な名前ね。なかなかいいセンスだわ」


 トナカイが満足そうにうなずいたので、オリバーはホッとした。実は、今の三つの名前は、初代サンタクロースのソリをひいていたメスのトナカイたちの名前だった。


「覚えてて良かったぁ」


 試験に十回も落ちた甲斐があるというものだ。


 オリバーたちサアミン族は、魔法を使う長命の部族。彼らの中で、試験に受かった者だけがサンタクロースになれる。普通は何度か落ちたら他の職業に就くものだが、オリバーはあきらめずにしつこく挑戦し続けた。


「死んだ母さんと約束したんだ。いつかサンタクロースになるって」

「へえ。良かったじゃない。約束、守れたわね」

「うん。ヴィクセンと会えて良かった」

「そうね。オリバーは運がいいわ」

「どうしてぼくの相棒になってくれたの?」

「名前が気に入ったからよ。そう言ったでしょ?」


(本当はあんたがあんまり必死だったから、かわいそうになっちゃったの)


 ヴィクセンは、困っている子供を放っておけるようなトナカイではなかった。


 * * *


 それから毎日、オリバーはヴィクセンと、ソリをひいて走る練習をした。

 大きな体のヴィクセンは力が強く、手綱たづなを扱うのは難しかったが、次第に息が合うようになった。


 そうして迎えたクリスマス当日。

 新米サンタクロースのオリバーは、慣れない仕事を一生懸命がんばった。

 小さな失敗はいくつかあったが、ヴィクセンに助けられ、なんとか最後のプレゼントを配り終えることができた。


「明日の朝起きたら、みんなびっくりするだろうね。何か国も飛び回ったから疲れたでしょ?」


 オリバーは、ソリをひくヴィクセンに話しかけた。

 

「このくらい平気よ。わたしは強い女なんだか――」


 ガクッ。

 突然、ヴィクセンが止まった。


「わっ! どうしたの、ヴィクセン?」

「聞こえるわ」

「え?」

「歌が聞こえる」

「こんな真夜中に?」

 オリバーは耳をすませた。


「あ、ほんとだ。なんだか悲しいメロディーだね」

「違うわ。この子が悲しんでるのよ」


 ヴィクセンは、いきなり左に大きく曲がった。オリバーが振り回され、慌てて手綱を締めた。


「ヴィクセン! どこ行くの?」

「子どもがわたしを呼んでるの!」


 しょうがないなあ。

 オリバーは、彼女の行きたい方向へソリを向ける。

 クリスマスの夜に悲しんでる子どもがいるなら放っておけない。それはオリバーも同じだった。


 











 

 





 

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