第百四十九話 助けられない歯痒さ
フェイ、アンニーナ、ネヴィルは薄暗い階段を降りて行く。ゆっくりと慎重に、剣を構え魔力を込める。細く長い階段の終わりが見えると、薄暗い廊下が現れる。階段に身を隠したまま、廊下の気配を探る。
「誰もいないな」
ネヴィルは少しだけ顔を出し廊下を覗いた。
「本当に不気味なくらい人がいないわね」
「しかも下に降りるにつれ、どんどんと不快な気配が漂っている……」
「あぁ……」
三人は慎重になりつつも、早くこの気配の源を見付けなければと走り出す。
普段は使われていないのか、部屋があるらしき扉に手を掛けようとも、扉が開くことはなかった。全ての部屋に鍵が掛かっていて開けることは出来ない。
薄暗くはあるが扉は大きく威圧感があり、部屋のある廊下も絨毯が敷き詰められ何やら豪華な造りの割には全く人がいないことに不気味さを感じる。
「一体なんの部屋なのかしらね、気味が悪い」
「さあなぁ、お偉いさんたちの部屋なのかもな」
「それにしても誰もいないとか異常でしょ。普通警護の人間とかいるもんじゃないの?」
「だよなぁ」
不気味な空気に耐え切れなくなったアンニーナは口数が多くなる。それに苦笑するフェイだったが、アンニーナが気味悪がるのも理解出来るため止めたりはしなかった。
「しっ。そろそろ外へ出られそうだ」
フェイは外へと繋がる扉の前に立ち、外の気配を探った。
外からはなにやら騒がしい声が聞こえて来た。しかしその声は遠い。
「なんだろう、ここより少し離れた場所でなにか騒ぎになっているようだね」
「それってまさか……」
フェイの言葉にアンニーナが不安そうな顔をした。ネヴィルも眉間に皺を寄せる。
「おそらくリュシュたちだろうね」
「「…………」」
三人はぐっと拳を握り締めた。
「どうする? 様子を見に行くか?」
「…………とにかく先にあの術が行われている部屋を探そう…………きっとリュシュなら大丈夫だ」
なにを根拠に! とフェイ自身そう思ったが、今はそう思わねば先に進めなかった。リュシュならきっと大丈夫だ。そう信じる。そうするしかなかった。
「行こう」
アンニーナもネヴィルもなにも言わなかった。フェイ自身が悔しい想いをしていることは理解をしていたから。何年も共に訓練してきた仲間だ。それぞれがお互いの気持ちを理解し合っていた。
フェイはそっと扉を押し開け、外の気配を探る。そして外に誰もいないことを確認し、壁伝いに進む。
騒ぎのある方向はちょうど自分たちが向かおうとしている棟と同じ。騒がしい気配は奇しくも自分たちが向かおうとしている場所へと向かっているようだった。
多くのナザンヴィア兵が見える。そしてその人垣の中心に一際目立つ黒髪が見えた。
「「「リュシュ!!」」」
三人は小さく叫ぶ。
ドラヴァルアにもナザンヴィアにも黒髪はほぼいない。今まで見たことがない。リュシュだけだ。紛れもなくあの黒髪はリュシュだ。
「捕まっている……」
リュシュよりも背が高く、兵士たちよりも圧倒的に背が高く屈強な姿。濃紺の髪のヒューイの姿も見えた。その横にはヴィリーとロドルガの姿も。
三人は言葉を失くした。
リュシュたちはどこかに連れて行かれるようだ。捕縛されているのか、全員身動きが取れないようだった。
「どうする!? 助けるか!?」
「いや、ちょっと待って」
「目の前にいるのに!!」
アンニーナはフェイに詰め寄る。フェイはそんなアンニーナを落ち着かせようとゆっくり話す。
「今は駄目だ。リュシュやヒューイは魔法で戦える。ヴィリーとロドルガさんも強い。それなのに捕まったんだ。きっとなにかある。僕たちが踏み込んでも、同じように捕まる可能性がある。それでは侵入した意味がなくなってしまう。少し様子を見よう」
「…………」
フェイはアンニーナの肩に手を置いて落ち着かせた。
「幸いリュシュたちが連れて行かれている方向と僕たちが行こうとしている方向も同じようだし」
「うん……分かった」
目の前にいるのに助けられない歯痒さ。それは三人とも同じだった。
しかしそこをなんとか抑え、身を潜めながら兵たちの後に続くのだった。
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