第七十九話 出産!

「!!」


 振り向いたロキさんは驚いた顔になり、番部屋まで走った。そのあとをハナさんと俺と続く。戻る途中でディアンもちょうどやって来ていたため、番部屋へと一緒に向かう。


 戻った番部屋に入ろうとすると、入口付近でロキさんに止められた。


「今は入るな! バルに襲われるぞ!」


 唸り声を上げ、威嚇したままのバル。その背後でミントは荒い息。

 みな入口付近で見守る。しかし特に変化はない。


 しばらく全員で見守っていたが、特に変わった様子もなく、しかしミントはずっと荒い息だ。


 赤ちゃん竜の世話もあるため、ロキさん、ハナさん、俺、と三人で交代しながら様子を見に来ることになった。


「今日はもう産まれんかもしれんな。お前はもう上がれ」


 ロキさんにそう促されたが気になって仕方ない!


「俺も残ったら駄目ですか?」

「残ってもいつ産まれるかは分からんぞ」

「はい、でも気になって」


「…………フッ、分かった。寮で食事だけしたら事務所を借りて休め」


 あ、初めてハッキリと笑った顔が見えた。ロキさんの笑顔! レアだな! ふんわり笑った顔はいつもの睨み顔とは違い、とても優し気だった。


「はい! ありがとうございます!」


 なんだか嬉しくなり、寮に急いで夕食を食べに戻ると、再び急いで番部屋まで戻ったのだった。




 ディアンにも連絡が行ったらしく、番部屋に戻るとロキさんとともにディアンがいた。


「ディアンも来たんだ」

「あぁ、俺も一緒に事務所で待機させてもらうことになったからよろしく」


「ロキさん、様子どうですか?」

「ミントの様子がかなり辛そうになってきているから今夜産まれるかもな」

「「おぉ」」


 ディアンと二人で顔を見合わせ、二匹の竜に目をやった。


 ミントは荒い息のまま、しきりに立ち上がったり身体をよじったり、何度も座る場所を変えたりと落ち着きがない。

 バルはひたすら唸り声を上げながらこちらを睨む。



 それからはロキさん、ハナさん、俺とディアン、で交代しながら様子を見た。それ以外のときは事務所で皆で雑魚寝。

 ちゃんと仮眠を取っておけってロキさんに言われたけど、やはりドキドキしてしまいなかなか寝付けない。それはディアンも同じだったようで、ハナさんが横で眠るなか、小声で話しながら気を紛らわす。


「今日産まれるかな」

「あの様子だったら産まれそうな気はするがどうだろうな。今いる番は初めての出産なんだろ?」

「うん、らしいね」


 何度も出産を経験している番なら、出産にもそれほど時間がかからなかったり、落ち着いていたり、とそれなりに余裕があるらしい。

 しかしバルとミントは今回初めての出産で本人たち……、いや、本竜たち? って、いや、そんなのなんでもいいんだが、初めての出産に二匹の竜はそれなりに緊張していたらしい。

 俺にはそんな素振り見せなかったが、ロキさんには色々話していたようだ。ま、俺じゃ頼りにならないだろうしな……。地味に凹む……。


 そんなことをボソボソと話している間に眠気もやってきてうつらうつらしていると、激しい咆哮が聞こえて来た。



『グォォォォァァァアアアアアア』



「「「!!」」」


 事務所で眠る俺たち三人は飛び起き、慌てて番部屋へと走った。


 入口でロキさんが見守る。


「ロキさん!!」

「しっ!!」


 思わず大きな声で声をかけてしまい、ロキさんに制止される。慌てて口を噤み、二匹に目をやった。


 ミントは唸り声を上げ、立ち上がっていた。そしてぐるぐるとその場を回っている。

 バルはそんなミントを見守る。



 頑張れ! ミント!



 祈るように皆が見詰めるなか、激しく動き回るミントは動きを止めたかと思うと再び咆哮を上げた。



『グォォォォァァァアアアアアア』



「「「「!!」」」」



 ミントは大きな卵を産み落とした。



 白いシーツの上に転がる大きな卵。ミントは荒い息を上げながらその卵を眺めると、安堵したかのように大きく息を吐き、卵を守るように座り込んだ。卵に身体を添わせるように丸くなると呼吸を整えつつ目を閉じる。


『やった……やったぞ!! 産まれたー!!』


 バルは喜びの雄叫びを上げた。


『うるさい』


 その瞬間ミントから突っ込みが入る。


『あ、すみません』




 ブッ。ミントに突っ込まれたじたじなバルに笑ってしまった。


「よし、とりあえずは無事に産まれたな、良かった」


 ロキさんもホッと息を吐き、笑顔だった。


「よ、よ、良かったですぅぅ!!」


 ハナさんは号泣しながら小声で喜びの声。ハハ、涙と鼻水でぐしゃぐしゃ。


「ほんと良かった」


 ディアンも嬉しそうだ。


 二匹に目をやると、バルは労うようにミントに擦り寄り、ミントもそれを受け入れ二匹は鼻を摺り寄せていた。




 そして無事朝を迎えたときに、一人の竜騎士の焦ったような叫び声で目が覚める。



「ロキ殿はおられるか!?」



 ね、寝不足なのに!!

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