第七十二話 研究対象
「「おかしい?」」
ディアンと顔を見合わせ、そして再びシーナさんを見た。
シーナさんは腕を組み、顎に手を当て、バレイラシュをじっと見る。同じようにバレイラシュに目をやるが、元々のバレイラシュを知らないため、こいつが異常なのかどうなのかすら分からない。まあ明らかに大きさが異常だというのは俺にも分かるが。
「こいつの大きさが異常なのはもちろんだが、なんだろうな、何か臭うんだよな」
「え? 焦げ臭いのはヤグワル団長の炎で焼けたからで……」
「違うわい!!」
思い切り手刀でおでこを叩かれた。いってー……。
「誰が焦げ臭いことを言った!! アホか!」
ディアンが横で笑ってやがる。なんだよ、くっそー!
「なにか分かったのか?」
ヤグワル団長がいつの間にか横に並んでいた。デコが痛い……。
叩かれたデコをさすりながらシーナさんの言葉を待った。
「分からん!」
「分からんのかい!」
あ、やべっ、また突っ込んじゃった。しかしシーナさんはそんなことどうでも良かったらしい。いや、そもそも聞いてないのか? 何事もなかったかのように話を進める。
「私はこいつを研究するため、しばらくここに残るぞ。持って帰ることが出来たら良いのだがな、なんせデカすぎる。帰りは適当に帰って来るから心配はいらない!」
「いや、それはまあ心配はしていないが……」
苦笑しながらヤグワル団長が続ける。
「そもそも港に放置していくわけにもいかんしな。こいつをどうするかキアフス殿と相談してからだ」
「ちっ」
「おい」
ヤグワル団長にすら態度が変わらないシーナさんに苦笑しながら、明日からの予定を相談するためにもキアフス邸へと戻ることになった。
竜騎士と竜の治療を終え、シーナさんたちを連れて来た竜騎士も一緒にキアフス邸へ。港のバレイラシュは竜騎士たちが交代で見張ることとなった。
「まずは、今回のバレイラシュ討伐、本当にありがとうございました。皆様がご無事で本当に良かったです」
キアフスさんは全員に向かって丁寧に礼を述べた。朝からの出発、そして討伐に治療にと、結局夕方近くまでかかっていた。昼食を食べている時間もなかったため、早めの夕食準備をしてくれていた。
各々着替えや、のんびりと休息の時間を与えられ、そこから食堂へと皆が集まった。シーナさんたちも、その三人を連れて来た竜騎士たちも一緒だ。
前日と同じく豪華な料理を用意してくれていた。シーナさんが「なんだこれ!」とかうるさい……さすが鋼メンタル……全員が苦笑している……。
ヤグワル団長はとりあえず今回の討伐内容をキアフスさんに伝えていた。そして研究のためにシーナさんが残りたいという話も。当人のシーナさんは全く話は聞いておらず、ひたすら料理に突っ込みながら食事をしているだけだが……。
結果、シーナさんが一人で残り、ヤナにいる間はキアフス邸で過ごすことに。今後貿易を再開したいため、バレイラシュをそのまま港に放置するのは邪魔になるため、引き上げ作業を行い近場の平原まで運べないか、ということだった。
その日は皆、緊張も解けた状態で眠りに就くことが出来た。翌朝からバレイラシュの引き上げ作業に入る。
「解体すりゃ早い話なんだがな」
ヤグワル団長が愚痴をこぼしながら、チラリとシーナさんを見た。
「このままの状態で研究しないと意味ないだろうが!」
シーナさんは当然だとばかりに仁王立ち。ヤグワル団長の溜め息が響き渡る。
「仕方ない……やるか」
ヤグワル団長の指示で竜騎士たちは捕縛用の魔導具を持たされ、バレイラシュの周りを飛んだ。
海中を動かすには一つの魔導具で十分だったようだが、さすがに持ち上げて平原まで運ぶ、ということは一つの魔導具では無理だろう、との判断だ。
四方に散らばった竜騎士たちはゆっくりと上昇していく。するとバレイラシュの身体は徐々に持ち上げられ、港の海水が激しく波打つ。
ザバァァァァアアアア!!
音を立てて次第に持ち上がっていくバレイラシュ。海水が激しく波打つたびに港に停泊している船が大きく揺れる。
完全に持ち上げられたバレイラシュから大量の海水が滴り落ちる。竜騎士たちはゆっくり慎重にバレイラシュを運んで行った。
無事に平原へと降ろし終えると、早速とばかりにシーナさんがバレイラシュに近付き、あちこちさわさわと触り出した。な、なんか俺を触ってたときと一緒の動き……。微妙な気分になるのは何故だ。
シーナさんは途中でニヤリとしながらもバレイラシュを堪能……いや、違う、研究と称して……、いやいや、ちゃんと研究だよな、そ、そうそう、研究としてバレイラシュを手で触り確認していくのだった。
しかし平原で見るとなおさらデカいな……、ちょっとした小山だ。
シーナさんはバレイラシュを堪能中だが、俺たちはというと今日一日だけ休息を理由に自由行動、ヤナの観光が許された。
やった! 他の街の観光なんて初めてだ!
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