第二話 俺の秘密

「リュシュ! なにやってんの? 今日の訓練するよ?」


「う、あ、はーい」


「リュシュ」というのは俺の名前。俺を呼んだのは姉のラナカ。


 呼ばれて外に出ると金髪金瞳のきらっきらの女の子が長剣を片手に待ち構えていた。その女の子がラナカだ。

 ラナカは女の子らしからぬというか、白いシャツに黒いパンツを履いた凛々しい姿。まあこの国では女の子だからスカートを履くとかはないし。


 強さがものを言う国で、スカートなんてものは流行らない。戦うときに邪魔だから。

 普段はスカートを履いていたにしても、訓練など戦うときにはズボンに着替える。だからひらりと風に舞って「いやん」とかは決してないのだ。

 いや、俺はそんなスカートなんてどうでも良いけどね。スカートに対して熱く語ってる訳じゃないよ。それはまあ……うん……。



 うちは父親母親、ラナカと俺の四人家族。それなりに大きい村「カカニア」。そこで父親は村長をしている。ちなみに俺はまだ八歳。姉のラナカは二歳年上の十歳だ。


 俺以外の家族はみんな金髪金瞳。なぜか俺だけが漆黒の髪。なんでだ! ともう少し小さいころは悩んだりもしたし、捨て子だろうとからかわれたこともあった。

 しかし、俺の家族はみんなとても優しく仲が良かった。幼いころに俺はこの家の子じゃないのか、と聞いたら、絶対母さんが生んだんだ! と泣きながらめちゃくちゃ怒られた。


 それ以来、捨て子だとか髪の色を気にした発言とかはしたことがない。どうだって良かったからだ。もし本当に捨て子だったとしても、この家族と一緒に暮らせられるのなら、俺はなんでもする、と思ったからだ。それだけ家族のことは信頼していたし、愛していた。


「ボーっとしてどうしたの? 熱でもあるの?」


 ラナカが心配して聞いてくる。ほらな、こうやって俺を大事にしてくれる。俺にはそれだけで幸せだった。


「ううん、なんでもない、で、今日は剣の訓練だっけ?」

「そう、大丈夫?」

「んー、まあやってみる」


 ラナカが心配する理由は単に体調とかの問題ではなかった。


 俺が捨て子だとからかわれていたもう一つの理由。それは俺が「弱い」からだ。


「じゃあいくよ?」

「うん」


 子供用の長剣を持つが、これだけで重さに耐えられず構えられない。


「はぁぁあ!!」


 ラナカが思い切りこちらに走り込み、長剣を振りかぶったかと思うと、それを俺に向けて振り下ろした。


 咄嗟に長剣を目の前に振り上げ、ラナカの剣を受け止める。

 ガキン! と金属音が鳴り響き、俺は後ろに吹っ飛ばされた。長剣も手から離れ、背中から倒れ込んだ俺を心配し、ラナカが駆け寄る。


「リュシュ! 大丈夫!?」


「いてて、う、うん、大丈夫……」


 俺が捨て子だとからかわれていたもう一つの理由。それは俺が「弱い」から。


 この国は強さが全て。男だけでなく、女も子供もそれなりに強い。

 だが俺は……弱い。


 なぜなのか、身体能力も低ければ、力も弱い、魔法もなぜか全く使えない。

 この国の人間は幼いころから己の属性魔法に目覚め、少なからず誰しも魔法が使えるようになる。それは大勢の敵を一気に倒すほどの強大な魔法から、生活に使うくらいの小さい魔法のように様々だが、しかし、必ず使えるのだ。


 だが、俺はなぜか全く使えない。


 身体能力も低く、力もなく、魔法も使えない。まるで一番最初の人生の人間のようだった。あの国には魔法なんてものはなかったしな。しかも病弱だったから力なんて何もなかった。

 ただ一つ前の前世がドラゴンだからか、身体だけはやたらと頑丈だった。風邪をひくこともなかったし、重い病気にかかったこともない。ラナカとの訓練でどれだけ激しいことをしても、大した怪我をしたこともない。まあ何の役にも立たないんだけど。


 その前世のせいなのか、俺は家族とは全く違っていた。


 本来村長である父親の跡を継ぐには強さが必要だ。だから俺はラナカに頼んでこうやって必死に訓練をしている。

 でも一向に強くはならない。全くだ。このままじゃ俺は跡を継げなくなってしまう。


 さらに必死さに追い打ちをかけたのは、ついこの前交わされた一つの契約だった。

 所謂「許嫁」。


 村長の息子である俺に、父親の補佐をしている男の娘が許嫁としてあてがわれた。

 その娘は俺と同い年で少し暗めの金髪に翡翠色の瞳、とても優しい顔立ちで美人というよりは可愛い感じの女の子だった。


 その子も俺に力がないことを知っている。申し訳なかった。こんな俺の許嫁にされるなんて。

 だから俺はその子に恥じないよう必死に訓練した。

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