第7話 宝石姫の謀

 太陽は徐々に沈んできて、差し込む夕陽も力をうしなっていきます。

 うつろな部屋で対面する男女は、名匠が描いた一幅の歴史画を思わせる豪奢さがありました。


「貴女のお望みの通り。そうなるでしょう」


「……わたくしは、そのような事を望んではおりません。いくさは人の血を欲する魔物。しかも理由はどうあれ不忠のいくさなど……」


「いや、貴女が望んだ通りだ。あそこで貴女が何も弁明せず立ち去り、周囲を巻き込まなかった瞬間から、全てが動き出したのだから」


「見苦しい弁明はあのような場にふさわしくない、と考えただけでございますよ」


 黒の貴公子は宝石姫をじっと見ると


「貴女がひとこと、違う、と言いさえすれば、偽の証言者どもが次々と現れ、あの場は裁きの場になったはずだ。実際そういう根回しがされていた」


「ですがそうなれば、わたくしの親しい者たちが黙ってはおりません。国王陛下の祝いの場がいさかいの場に。ですからわたくしは――」


「周囲の貴族達が弁護を始めたら、彼ら彼女らも貴女と組んで牝狐にいやがらせをしていた。という証言者までが用意されていたのですよ」


 男は言葉を続ける。


「貴女がたは一味として処分され、彼ら彼女らの実家も、貴女の実家と同じく取り潰される筈だった……あのような理不尽、弁護せずにはいられぬのが普通ですからね」


 宝石姫はうつむき、


「それを察してわたくしが何も言わずに立ち去ったと? わたくしは何もかも見通す神ではありませんわ……」


「貴女が見通していたのは、それではありませんよ。私が兵を挙げたことをです」


「どうしてそう考えるのですか」


「貴女が、あの牝狐のことをしきりと手紙に書くのかが気になっていたのですよ。しかもひとをそしることのない貴女らしくもなく、正体が知れない。悪い予感がすると」


「……わたくしが貴方にあの女のことを調べさせようとしたと仰るのですか?」


「貴女は薄々察していたのでは? 実家が弱小貴族であるにも関わらず、貴女の実家に仇をなそうとするかの行動の裏に何かがあるのでは、と」


 ふけばとぶような男爵家の娘が、国一番の大貴族の娘と張り合うのがどんな危機を実家にもたらすか、わからない筈がないのです。

 それなのに、王太子の婚約者としての地位を奪おうと企む……裏に何かがあると考えるのが自然です。


「そして……その裏を知った私が、今回の騒ぎでどう動くか……予測していたのではありませんか?」


「……準備していたのでございましょう?」


「誰が、何を」


 宝石姫は顔をあげた。そこには笑みさえも浮かんでいた。


「王家に対する反逆をでございますわ。貴方は口実を探していただけだったのではありませんか?」

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