act.38「シスター契約」

「――それで、能力評価試験に出るって言っちゃったんだ! 面白っ!!」


 後日、訪れた生徒会室で、事の顛末を聞いた綾瀬会長は嬉々とした表情でそう言った。


 面白っ!! じゃないですよ……こっちは本気で困ってるのに。

 

 どうやら俺はあの日、風紀委員長の三峰先輩に対してとんでもない約束をしてしまったらしかった。

 それからというもの、なぜか珠々奈の機嫌が悪い。

 ここにくる前に済ませてきた便所掃除でも、一言も口を利いてくれなかった。

 確かにタッグマッチってことを知らずに安請け合いした俺も悪いけどさ……そこまでキレることか?


 そしてケタケタと笑っている会長の横で、利世ちゃんが感心したように頷いていた。


「それにしても、三峰先輩もやるよねー。熱くなりやすい悠里ちゃんのことを一瞬で見抜いて、簡単に罠に嵌めるなんてさ――」


 え?

 俺って罠に嵌まったんですか? 全然自覚は無いんですけど?


「――と言っても、私も三峰先輩のことはよく分からないんだけどね。薫姉は、どんな人か知ってる?」


 利世ちゃんに尋ねられた会長は、迷わず即答した。


「まー、まず強いよね。めっちゃ強い」


 ……そりゃ、数えるほどしかいないSランクのうちの1人なんだから、強いのは当然だろう。


「強いって、薫姉よりも?」

「んー、直接闘ったことはないから分からないけど……少なくとも苦戦はするだろうね」

「へー」

「主に電撃系の魔法が得意技で……『雷帝』なんて二つ名で呼ばれたりもしてる」


 雷帝……か。

 聞くからに強そうだ。

 出来れば手合わせは遠慮したいものだが……。


「……ちなみにそれって、薫姉が勝手にそう呼んでるだけ、とかじゃないよね?」

「失敬な! これはちゃんと呼ばれてるよ!!」


 プンスカと怒る会長を適当にあしらっていた利世ちゃんに、俺は尋ねた。


「……ところで、能力評価試験っていうのは、どんな試験なの?」


 今のところ能力評価試験について俺が分かっているのは、魔法少女同士で闘うということと、それがタッグマッチであるということだ。

 まぁ、文字通り魔法少女の能力を評価するものなのだろうけど。

 最初は珠々奈に聞こうとしたが、機嫌を損ねた珠々奈は、『みんなに聞いたらどうですか』とまともに取り合ってくれなかった。

 だから珠々奈の言う通り、みんなに聞くことにしたのだが……。


 俺の問いに利世ちゃんは答えた。


「能力評価試験っていうのは、今の魔法少女ランクが適正かどうかを判断する試験のことね。各学期ごとに開催されるの。エントリーは自由で、トーナメント形式でエントリーした魔法少女が闘うんだけど……その活躍に応じて、現在のランクが実力相当かどうか審査されるんだ」


「なるほど……」

 勝ち上がった魔法少女のほうが魔法少女としての実力も高い。単純な話だ。


「普通の決闘よりもポイントの増減が大きいから、上のランクに行きたい子たちが参加するんだけど……エントリーするためには、ひとつだけ条件がある」


 つまり、それが……。


「誰かとタックを組まないといけないってこと?」


「そういうこと」


 だが残念ながら俺にはまだパートナーと呼べる相手はいない。

 つまり俺はいきなり壁にぶち当たってるってことだ。


「私、パートナーなんていないけど……」

「まぁ、エントリー自体は正式なパートナーである必要はないよ」

「そっか、良かった――」


 それなら俺にも、勝ち目があるか。

 だが、次に利世ちゃんが言ったのは、こんな言葉だった。


「――でも、結局強いのは、ちゃんとしたパートナーがいる魔法少女なんだよ」


「……え? なんで?」


「えっと、それは――」


 すると言葉に一瞬迷った利世ちゃんに変わり――会長が答えた。


「――シスター契約だよ」


「……シスター契約?」


「そう。堅い絆で結ばれた2人の魔法少女が、魔力を何倍にも増大させる現象――それがシスター契約。そして高ランクの魔法少女には必ずと言っていいほどその相方――『姉妹シスター』が存在するのよ」


「ということは、成田さんにも……?」


「成田……ああ、風紀委員のあの子か。確か一年生にあの子のシスターがいたはずだけど」


 一年生ってことは……あの時にいた、花音って子か。

 そう言われれば確かにあの時、『アタシのシスターにちょっかいかけるんじゃねぇ!!』みたいなことを言われたような気がする。

 でも、シスター契約は絆で結ばれてないと出来ないんだろ? あんな大人しそうな子が、あの喧嘩っ早い成田さんとシスター契約を結んでるなんて、ちょっと信じ難いんだけど……。


 ……って、ちょっと待てよ?


「あれ? もしかしてみんなもシスター契約してるの?」


 俺がそう問うと、会長は頷く。


「私は……利世ちゃんと!」


 そう言って会長は、利世ちゃんに抱きつく。


「ちょ、薫姉、おもっ……!」

「重いとはなにごとだ! 私は軽いほうだぞ! 平均体重よりもちょっとな! 悠里ちゃんもそう思うよね?」


 ハハハ、ソウデスネ……。


 でも、会長と利世ちゃんがシスターなのは、やっぱりな、って感じだ。

 仲良いし、元々幼馴染って言ってたからな。


 そうなると、葛城芽衣、美衣姉妹も……。

 俺は双子のほうに視線を移した。

 俺の視線に気付いたのだろう。双子の元気なほう――姉の芽衣が答えた。


「私たちもシスター契約してるよ? ね、美衣」


 その問いかけに、妹の美衣のほうも頷く。


「ん……。姉妹でシスター」


 うん。知ってた。

 となると、残るは珠々奈だが……。


 俺は、珠々奈にも同じことを聞いてみた。


「ちなみに珠々奈は、シスター契約ってしてるの?」


 すると珠々奈は、ムスッとした表情を浮かべながら答える。


「別にしてませんけど? ……今は、ですけど!」


 あっ……。

 どうやらこれ……聞くべきじゃなかったっぽい。

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