#17 呪術師の娘1
私は15歳になる年、魔王への生贄に選ばれた。
私の生まれ育った村は、大陸の南にある国から更に海を渡った島にあり、
村の近くには魔界への入り口と言われる大きな次元の裂け目があった。
そんな私の生まれ育った村には、100年に一度、若い娘を生贄として捧げる風習があった。
次元の裂け目近くの岩山に作られた生贄の祭壇に赴き、魔王へと捧げられるのだ。
そんな生贄の風習は、これまで数百年に渡り続いており、
天変地異を収めるために必要なものだと、村では小さい頃から子供達に教えていた。
だから、もし生贄に選ばれたならそれはとても光栄な事で、
村の人々、
そして今回、その生贄に私が選ばれた。
私の覚悟は決まっていた。
孤児である私を可愛がってくれた愛する村の人々のため、
私一人の犠牲で平和が訪れるならば、こんな名誉な事はない。
小さい頃からそう教えられてきたし、その時は本当にそう思っていた。
生贄として捧げられる日を迎え、
生贄の祭壇へ行くために岩山に足を踏み入れた時、急に私の意識は遠のいた。
うっすらと意識がある半覚醒の状態だが、体は自分の意志では動かせない。
ぼんやりとしたような感覚で、他人の目を通して視界を共有しているような感じだった。
気付いた時には既に生贄の祭壇におり、いつの間にか私の目には目隠しがされていた。
何やらやりとりしている声の内容から、目の前の玉座に魔王がいるのがわかった。
そしてあの事件が起こったのだ。
私と、もう一人の村の若い男が、目の前の魔王を殺したのだ。
血まみれになった魔王の身体は暫くすると黒い灰のようになり、やがて風に飛ばされていった。
そしてそこには初めから何も無かったかのようにただの岩肌だけが残っていた。
そんな光景をぼんやり見ていたが、
自由の利かない私の体は、魔王を切った村の男に瞬時に近づくと、
その男から剣を奪い、憑りついている魔族ごとそのままその男の腹を刺した。
「ご苦労様。あなたがいると後々邪魔になるから、ここでおねんねしていてね。」
と、その場に倒れ込んで動かなくなった村の男に私の口から言葉がこぼれでた。
私は倒れた男から段々流れ出てくる血溜まりを眺めながら、人を殺した衝撃で頭が真っ白になっていた。
「ふふふっ。じゃぁね」
という女の声が頭に響いたかと思うと、私の体はようやく元のように自由になった。
目の前で行われたあの光景と、魔王と交わした言葉の内容と、自由に動くようになったこの体から、
私の体に憑りついていた何かが抜けていったのだとわかった。
私は、血で汚れ、震えが止まらない手を必死に抑えながら、事の顛末を伝えるために村へ戻った。
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