#4 魔眼の女

男の太刀をその身に浴びようと、さぁ来いと言わんばかりに魔王は両手を広げた。

黒いマントが広がり、その様子は大空を舞う蝙蝠のようだった。


男の剣が魔王の体をすり抜けるかと思われたその刹那、

ズザザザッという肉を切り裂くような大きな音がした。


「ゔ・・・」


男の剣が魔王の右肩から左下に向けて裂け目を作り、腰の辺りで止まっている。

その裂け目からは赤い血が滝のように溢れ、魔王の口からも血が滴り落ちた。


「何故お前の剣が当たる?」


魔王はつぶやくようにそう言ったが、

その闇色の赤い目は、体を裂いたままの剣を握る正面の男の顔ではなく、

その少し背後に立つ生贄の娘の顔を見ていた。


「その目は魔眼か・・・お前、魔族か。人間ではないのか。。。」


魔王の視線の先に立つ生贄の娘は、

いつの間にか目を覆っていた布を外し、右手に握っていた。


その目はルビーのように赤く、そして妖しい光りを放ち、魔王をずっと見据えていた。


魔族の目は赤く、魔力が強いほどその赤みも強く闇に近くなる。

また、魔力の強い一部の魔族は特殊な能力を持つ『魔眼』を持つ。


「その通りよ。私はこの娘に憑りついているの。」


魔眼の女はウフフッと笑いながらそう言った。

そして妖しく光る自分の目を指差しながら続けた。


「私のこの目には特殊な力が宿っていてね、

この目が捉えた全ての生き物を、強制的に今いる世界の次元に引きずり込むの。

例えそれが天族であろうと魔族であろうとね。

つまりあなたは今、無力な人間となんら変わらないの。」


アハハハハと大きな声で笑いながら言った。

そして、


「この力に目覚めた時には使い所の無い無用の力だと思ったけど、、、

思わぬ所で役に立ったわね。」


魔眼の女はニヤリと笑いながら言った。


「死ね、魔王!」


男はそう言いながら更に力を入れ、

腰の辺りでかろうじて繋がっていた魔王の体をまっぷたつに裂いた。


男の目も僅かに赤く光って見えた。

どうやらこの男にも魔族が憑りついていたようだ。


(この者達は何故同族である私を殺すのか。。。いや、魔族は元々自分勝手な生き物だ。

同族などという考えは無いな。そんな考えは人間的であるな。)


魔王の口元は軽く微笑んでいた。そして少しずつ意識が遠のいていくのを感じた。

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