第六十八話「入学前試験(中)其の弐」

 生徒会からの目を掻い潜り、エレイナと共に外に出ることが出来た。が、建物を見て回っても武器らしきものは無い。他の生徒に聞こうとも思ったが、そもそも外に人気ひとけすら感じられなかった。


「中々見つからないね……」

「ちっ、何でネフティスの養成学校なのに武器一つも無いんだ!」


 一つ文句を言いながらも亜玲澄はひたすら探し回る。僅かな希望を信じて。

 だが見つからない。一体どうやって授業を受けているのだろうか。


「くそっ……もう疲れた……」


 散々走り回ったからか、亜玲澄は近くの建物の壁にドサリと座り込む。その隣にエレイナが座る。


「生徒会め……俺達にわざと負けるように仕向けてたのか……! こうなることを予知した上で校内中のあらゆる武器を撤去しやがって!」

「これを前からずっとやってたってなると流石にね……」


 二人はそれぞれこの試験に対して愚痴ぐちを吐いた。でも、これをしたところで状況は変化しない。分かっている。愚痴を言うだけ無駄ってことくらいは。

 大蛇あいぼうが必死になって己の宿命と戦ってるんだ。それなのにあいつの力にすらなれない自分に腹が立つ。だから今も無駄な愚痴ばかりを吐いている。


 俺は変わらないといけない。二重人格ダブルフェイサーを使わずとも大蛇の力になって……更に己の運命と戦うために。


「はぁ……、晴らしてぇな……この雲がかった心をよ」

「お兄ちゃん……」


 ……お兄ちゃん、きっと辛いんだ。顔に出してないだけで、心の中でずっと辛い思いを抱えてたんだ。


「全く……禁忌魔法も神器も使えねぇ俺はただの弱い人間でしかねぇんだなって改めて思わされちまうな。今までそいつらに頼って生きてきたからな……当たり前が急にその場から失せると人間は何も出来なくなっちまうんだな」

「……」


 これが人間の弱さだ。当たり前の事を当たり前のように頼っては利用して生きている。でも、それが一つでも欠けたら全てが土砂のように崩れていって、ただ己の無力さに歯を食いしばるだけになる。

 

「……それが人間の全てじゃないよ、お兄ちゃん」

「…………。」

「人間って、可能性の塊なんだよ。だからお兄ちゃんはその可能性に頼って生きてきただけ。まだ人間のいいところを使い切れてないんだよ」

「エレイナ……いきなり何を言って……!?」


 刹那、隣にいたはずのエレイナが見知らぬ巫女服姿になっていた。髪も桜色に変化し、エレイナとは正反対のように思えた。


「ほら。私という人間にだって、ただ『本来の自分に戻りたい』って祈っただけで戻れるんだよ。叶うはずも無い祈りの中に眠るほんの僅かな可能性を信じ続けたから出来たんだよ」

「君は……」


 名前を聞こうとした途端に元のエレイナの姿に戻る。あの子は一体何者だったんだ……


「だからお兄ちゃん、小さな可能性でも信じようよ! まずそこから始めないと大蛇君の力には絶対なれないよ! 大蛇君はその小さな可能性に命を賭けているの。なら私達もそれと同等の価値を賭けるべきじゃない?」

「エレイナ……」


 こんなに妹に怒られたの久しぶりだな。いや、励まされたと言うべきか。でも、喝が入った気がして、少しは賭ける気になってきた。


「……くそっ、こんなとこでモタモタしてられねぇ! 行くぞ、エレイナ!」

「ふふっ、それで良いんだよ、お兄ちゃん」


 2人は同時に立ち上がり、武器探しの続きを再開した。

 その時、黒い人影を纏った風が一瞬強く吹いた。


 

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