第六十五話「期待の新星」

 2005年 4月6日 渋谷区転送装置前――


 シンデレラ宮殿での任務から約一週間の休暇を過ごし、俺達はいよいよ金星へと向かう。

 服があまりにもボロボロだったので、全員が前に貰ったネフティスの制服を着ていた。男性は蛍光色けいこうしょくの青に肩に黒いラインが入っており、女性は同じ蛍光色けいこうしょくのピンク以外は男性のと同じだ。また、左胸にあたる所にネフティスのエンブレムがつけられている。


「うおおっ……こいつはすげぇ! 服着てねぇのかってくらい動きやすいぜ!!」

「確かに軽いね……こういうのも結構新鮮かもっ♪」


 正義とエレイナはこういう服を着るのが初めてなのか、軽く身体を動かしたりして制服の軽さを堪能たんのうしている。余程気に入ったのだろうか。


「よし、じゃあ行こうか。忘れ物は無い?」

「亜玲澄……お前も随分と学生気分だな」

「ん? 逆に大蛇は乗り気じゃないな。どうせ行くなら楽しもうぜ!」

「そうだぜ黒坊! 学生なんて青春の塊だからな!!」

「そうだよ〜! 新しい学校で新たな恋をしちゃったりするかもよ?」

「はぁ……」


 お前ら、どんだけ楽しみなんだよ。特に正義なんて前までだるそうにしてたのにどういう風の吹き回しなのだろうか。


 これからやって来る青春に胸を踊らせる亜玲澄達とそこまで乗り気ではない俺は転送装置の中へと入っていく。全員が入ってすぐモニターの電源がつき、画面から凪沙さんが現れた。


「みんなぁ〜! これから養成学校行くんだって!? 楽しんできてね〜! 実はうちと蒼乃はそこで会ったんだよ〜!! だから皆も新しい相棒見つかるといいね♪ じゃあ頑張ってね! 土産話ちゃんと持ってきてね、大蛇君♡」

「は、はぁ……」


 何で俺だけ指名なんだよ。あれか? 乗り気じゃないから青春しないで帰ってくる事を予測してるのか? まぁ当たりだけれども。


「ちゃんと持ってこないときつ〜いお仕置きがまってるからね〜♪ くふふふ〜っ!!」


 ……これはやばいやつだ。死ぬより屈辱的なお仕置きが待ってるやつなので俺なりに土産話を持って帰るとしよう。


 突然モニターの画面が消え、足元に魔法陣が展開する。徐々に光りだし、ブラックホールのように俺達を吸い込んでいく。視界が真っ黒に染まり、何も見えなくなった。


 俺達を待つのは青春か、はたまた地獄か。未知なる学園生活が始まろうとしていた――







 学園惑星ソロモン ネフティス附属アルスタリア高等学院――


 水星リヴァイスよりも地球から遠い惑星……金星ソロモンに位置するネフティス附属の養成学校、『アルスタリア高等学院』。そこの敷地内だけでも一つの都市のような広さを誇り、金星ソロモンの学園の中でもトップクラスの大きさだ。

 学園の本体は時計塔のような形をしており、そこを囲うように似たような建物が並ぶ。その建物一つ一つが『教室』であり、今日も数多くの生徒がそれぞれの教室に入って授業を受ける。全てはネフティスメンバーに抜擢ばってきされるために。


 そして今年も新たな新入生が入学する。高校を卒業して一般受験で受ける者もいれば様々な惑星から来る者も少なからずいる。中には大蛇達のようなネフティス側から推薦で入学してくるケースもある。


「さて、今年の新入生はどんな子が来るのだろうか……」


 黒髪に白銀の鎧をまとった青年……ベディヴィエル・レントは新入生の履歴書を一人ずつ確認していた。


「今年はどれも魅力的な生徒ばかりだ……王国出身の子や騎士や魔女の血を引いた子、更に一般の子もネフティス推薦で入学する。これは期待だな……!」


 ベディヴィエルは素直に喜んだ。前までこのアルスタリア高等学院は親から無理矢理行かされた子や過去に罪を犯した問題児などで溢れており、過去にはそういう問題が多発し続けて廃校にするよう学園政府から指示を喰らった事もあった。

 だが、今年は違う。人数も多い上にそういった子があまりいない。そして個性でありふれている。


「これはもしかしたらネフティス副総長レベルの子が出てくるんじゃないか……!?」

「今回は推薦の子がかなりいるからね……今年は少し期待しても良いんじゃないかしら」

「……カペラか」


 突然この生徒会室に入ってきた赤いローブを纏った女性。彼女の名はカペラ・レイネス。『獄炎の行使者インフェルノ』の異名を持つ、この学園では最強の火属性魔法使いの魔女だ。


「私もかなり久しぶりに鍛え甲斐のある子を見つけたの」

「へぇ〜、君がそう言うなんて珍しいではないか。一体どんな子なんだ?」

「『アカネ・ミレイナ』。学園では初めての光属性魔法使いよ」

「そんなすごい子までいるのか……」

「私が見る限り期待値が高いのはその子を入れてこの7人ね。そのうち4人はネフティス推薦だわ」

「4人も推薦されるのか……!?」


 これは前代未聞だ。ただでさえネフティス側から推薦で来る子は多くない。いても2人くらいなのだ。なのに今年はすごすぎる。これはあの若手嫌いで有名なカペラも期待を膨らませるわけだ。


「『オロチ・クロガミ』、『アレス・シラカミ』、『セイギ・ムトウ』。そしてアカネちゃんを入れてこの4人が推薦か……」

「それと私的に気になるのはこの王国出身の3人ね」

「どれどれ……『カルマ・レーズヴェルト』、『エイジ・アストレア』、『セシリア・アフェムストム』。す、すごそうだな……」


 これは大いに楽しみになってくるな。今年の学園祭は過去一盛り上がるのではないだろうか。


「入学式は明日か。是非一度会ってみたいな……!!」

「まぁ、腐る人は腐るだろうけど……期待する価値はこれまで以上にありそうね」


 ベディヴィエルは明日の入学式に胸を膨らませながら窓に映る青空を眺めていた。

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