第五十九話「光闇の姉妹」

 緊急任務:『黒花』レイアの討伐、シンデレラ宮殿の象徴「スタニッシュリング」を奪還


 遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、武刀正義、エレイナ、錦野蒼乃、涼宮凪沙、桐谷正嗣、桐谷優羽汰、桐雨芽依、パンサー(一時加勢)

 重症者:黒神大蛇、白神亜玲澄



「やべぇ……おいやべぇぞこれ……!」


 王室を喰い荒らすように迫る剣が逃げる正義を飲み込もうとしていた。近づくたびに細かな切り傷ができる。


「舞い踊るように……一人残らず消してあげるわ!!」

「痛てぇ……この竜巻みてぇなやつが近くなるほど痛みが増してきやがる! 今の足じゃ絶てぇ飲まれるぞ……!」

「うっふふふ、存分に味わいなさい! そして神の指輪を私に授けなさい……!」


 絶望が近づく。カウントダウンは残り5秒を切ったところだろうか。大蛇を抱えながら逃げる正義に乖離剣かいりけんが少しずつ確実に迫ってくる。


「させないよ!『雷機一穿パルスラウド』!!」

「邪魔が来るのも台本通りだわ!!」

「ぐっ……!」


 凪沙の槍も魔力が籠もった花びらにせき止められる。更にそれは凪沙だけでなく、全員の動きをせき止めていた。


「くそっ、行き止まりかよ!」


 無論正義もその一人だった。壁となった花びらの後ろには暴竜と化した剣が迫ってきて――






「死ぬのはまだ早いぜ侍さんよおお!!」


 刹那、乖離剣の動きがピタリと止まり、頭上から一人の青年が正義の前に現れた。白髪に白のローブ。時計の針のような形をした剣を持つその姿は心当たりは亜玲澄あいつしかいなかった。


「心配かけちまってすまねぇな侍。俺としたことが相当お昼寝しちまったからなぁ……この借りはここで返すぜええ!!」


 亜玲澄は思い切り地を蹴り、時を止めて動けなくしたレイアに剣を振りかざす。


「おらああ!!」


 亜玲澄の剣はしっかりとレイアの左肩から斜めに斬り裂き、それと同時に時が動き出す。斬られた部分から大量の鮮血が宙を舞って床に落ちる。


「まだ終わんねぇぜ!!」


 再び時が止まり、浮いた状態の2つのレイアの半身に迫りながら目に見えない速さで剣を振る。白く輝く剣の軌道はレイアの身体をポリゴンのように一瞬で斬り裂いた。


「『刃閃之雨霰ディヴィジョン・ザ・レイ』!!」


 再び時が動く。その瞬間、レイアの身体が鮮血を吹き出しながら四散する。


「へっ……二重人格、舐めんじゃねぇぞ!」

「あまりレディを舐めない方が良いわよ、二重人格さんっ」

「何っ――!?」


 嘘だろ。今さっきバラバラに斬ったってのにもう回復したのか。いや、バラバラの身体は床に散らばっている。なら何でだ……


 刹那、何かが亜玲澄の腹を貫通した。よく見ると黒いつるが一本の槍の如く背中から貫かれていた。


「残念だったわね、あれは偽物よ」

「がはっ……」


 腹と口から血をこぼし、あまりの激痛に膝を突く。


「白坊!」

「正義、慌てるな。このまま出しゃばればお前もやられるぞ」

「でもよぉ……!」

「気持ちは分かる。だが今は待て。あいつの動きが読めるまではな」


 優羽汰は正義の気持ちを心の中で噛み締めながらも必死に止める。これ以上犠牲を出すわけにはいかない。あいつを倒す方法が分かるまでは。


「がっ……くそ、気持ち悪ぃなこのウネウネが!!」

「うふふふ! 動けないでしょう? それもそうよね。だって今もつるは貴方の身体に張り付いて乗っ取ろうとしてるんだもの。5分もしないうちに貴方もこのつるの仲間入りよ……!」

「はぁ……!? ぜってー嫌だね! この俺がウネウネの仲間入りなんざ真っ平御免だぜ!!」

 

 しかし、つるは確実に亜玲澄の腹に空いた穴に張り付き、徐々にむしばむ。


 くそっ、これじゃマジでウネウネの仲間入りになっちまう! 痛すぎて身体動けねぇし魔力切れで禁忌魔法も使えねぇ……。あいつらが助けにきたところで俺と同じ目に遭うだけだ。


「うっふふふ! さぁ喰らいなさい! むしばみなさい! 後にあの黒い子も同じ様にしてあげるから安心してね……? うふふふ!!!」

「てっ……めえええ!!」


 この際俺はウネウネになってもいい。だが、大蛇だけはこんなザマにさせねぇ。あいつは今後の未来を背負っていると言っても過言じゃねぇ存在だ。

 ……つまり、あいつが死ねばこの世界の未来は終わるようなものなんだ。だから何としてでもあいつを死なせねぇ。


 この歪んだ運命を変えられるのは、大蛇あいつしかいねぇんだからよ――




「お兄ちゃんは……殺させないよ!!」


 刹那、白い光が雨のように降り注ぐ。正義達をはばむ花びらが一瞬で塵となり、つるに命中しては浄化されるかのように消えていく。そして部屋中に生えてた黒い百合は光に触れてすぐに枯れた。 


「次から次へと何なの……!」


 壊れた王室の入口に立つ一人の女性。それはエレイナであった。


「アースラの幻影も、この宮殿をここまでめちゃくちゃにしたのも、パンサーを巡るこの事件の元凶は貴方だったのね……レイア」

「へぇ〜、いつの間に『』って言わなくなったのかしら。昔はよく私に懐いてくれてたのに、残念だわ」

「……もう昔の幼い私とは思わない事ね。今の貴方は私の敵。殺すべき敵なの。この世界に生かしておけない凶悪な存在なの」


 互いに向かい合って睨んでは白と黒の稲妻がバチバチと鳴り合う。


「凶悪……ねぇ。確かに私は凶悪かもしれないわ。でも、そういう貴方こそ昔は恋人を殺そうとしてたじゃない。それこそ凶悪だわ」

「それはもうこの時代の話じゃないわ。それに、私と大蛇君の別れを切り出したのも貴方って事も知ってるわよ。だから待ってたの。貴方をこの手で殺す時を」

「へぇ……貴方に私を殺せるのかしら? なら、やってごらんなさい!!」

「言われなくてもそうするつもりよ!!」


 両者共に右足を前に踏み込み、それぞれ光と闇で生み出した剣を交わらせる。


 エレイナとレイア。実の姉妹である2人の喧嘩ころしあいが始まろうとしていた――


 

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