第五十二話「人の力、信頼の強さ」

 緊急任務:パンサーと名乗る怪盗を逮捕、シンデレラ宮殿の象徴「スタニッシュリング」を奪還


 遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、武刀正義、エレイナ、錦野蒼乃、涼宮凪沙、桐谷正嗣、桐谷優羽汰、桐雨芽依

 犠牲者:???


 シンデレラ宮殿1階 中庭――


 2階でパンサーがいるにも関わらず、ここ1階の中庭でも激しい抗争が繰り広げられていた。


「……チェックメイトです、アースラ」


 その言葉の終わりと同時にアースラの頭に氷の弾丸が埋め込まれる――



「……この時を待っていたんだよ」

「え……」


 突然氷の床にヒビが入り、徐々に広がって割れた。そこから無数の黒い帯が出現し、蒼乃さんの全身を締め付ける。


「っ――!」

「あっははは! ただの氷で私の動きを止めようだなんて、ネフティスも馬鹿なものね。それに貴方、No.2なのね。そうだったら私に禁忌魔法は通用しないことは分かってたはずよ?」


 禁忌魔法が……効かないっ……!? 


「良いねぇその絶望しきった顔。眺めがいがあるなぁ……!」

「っ……」


 このままでは……約束を……!


「でも、私はこれからあの黒ずくめの子を始末しないといけないからねぇ……あんたにはここで死んでもらうよ?」


 無数の黒い帯が螺旋状らせんじょうに回り、一つの円錐形の剣を作り出す。


「本当はここで『裁き』を使いたかったんだけどねぇ……もうこの身体じゃ使えなくなったんだよ」


 アースラが話している間にも帯は剣へと集まっていく。蒼乃さんを縛り付けていた帯も混ざっていく。


「はぁ、はぁ……貴方……宮殿ごと破壊するおつもりですね……?」

「いや、むしろこの地球を破壊するつもりだよ? あっははは!!!」


 帯が一つになった剣は、正しく乖離剣かいりけんの如く回転力と共に威力を増していく。


「世界諸共消し去りな!『神怒之流星ゼノム・メギド』!!」


 頭上に掲げたアースラの右手の乖離剣かいりけんが振り下ろされる。刹那、回転したまま帯が一直線に宮殿を破壊し、シンデレラ宮殿を真っ二つに斬り裂く。


「……!!」


 蒼乃さんはギリギリでアースラの動きを読んで右に転がって避けた。が、その後剣は水平に薙ぎ払われる。


「くっ……アースラめ、あれほど余計な事をするなと……!」

「まぁまぁ数珠丸くん、後はアースラちゃんに任せましょう」

「おい待ててめぇらっ……」

「そこの君、アレスに伝えておいて。『ハロウィン戦争でまた会おう』ってね」


 ゼラートは政経の肩を貸しながら思い切り両足を踏み切ってパリの夜空へと消えていった。


「ハロウィン……戦争……何だそりゃ」

「正義さん、そっちに来ます!」

「なっ……!?」


 しかし、気づいた時にはもう避けられる距離では無かった。幸い亜玲澄は宮殿の奥の支柱に倒れているので当たらずに済むが、正義はもう避けられそうにない。


「おやおやこれはあの時の赤ガキだねぇ? お前もついでに殺してあげるよ!! 大丈夫さ、この剣は誰も逆らえない……つまり、このまま君は死ぬ未来しか与えられないんだよ!!」

「……へっ、それはこいつを見てからにしておけタコ卒業生!『恋鐘之刀こがねのとう画竜点睛がりょうてんせい』!!」


 正義は両手で刀を握り、刀身から桃色の光を放ちながら黒い帯の渦と交わらせる。


「うおおおおお!!!」

「あっはははは!! 無駄だよ、お前に何の力があろうと抗えないんだよ!」

「それはどうかなタコ女……『竜閃之剣シェムハザ』!!」


 何故か1階に降りてきた優羽汰は背中の竜剣を抜いた途端、刀身が黄金色の光に変わり、一匹の竜へと変貌へんぼうする。竜は口から黄金色の炎を吐き、黒い渦を止める。

「エレイナ・ヴィーナスは一人でも大丈夫だそうですが、ここは少しでもほしいところですかね」

「皆さん……!」


……あぁ、なんて優しい人達なのでしょう。


「生憎俺は女の子が殺される未来なんて見たくねぇからな! 蒼乃ちゃんは俺が死なせねええ!!!」

「エレイナ・ヴィーナスとの約束を破らせるわけにはいかないですよ。必ず会わせます……この身に代えてでも」


 こんな私のためにここまで命を賭けてくださるなんて……


「……なら、このまま黙ってるわけにはいきません!」


 蒼乃さんの足元に再び氷が薄く張っていき、一瞬にして宮殿を凍らせた。


「『死氷血光ヘイルブリザード』!!」


 絶氷銃ジオフロストの銃口から放たれた冷気を纏った光線が黒い渦をてつかせる。


「私の剣が……止められた!?」

「俺様の恋鐘に抗おうなんてなあ! 馬鹿なところは変わってねぇな!!」

「うるさいところは相変わらずだね!!!」


 黒い渦が再び動き出す。3人が力を合わせてもこの地獄の渦は止められない。


「やべぇ……集中力きれちまうぞ!」

「まだだ……まだ終わらせるわけには……!」

「魔力が……無くなって……」


 渦が蒼乃さん達を押し出し、飲み込もうとしたその時、黒い渦が真っ二つに斬られた。


「え……?」

「おいおい……今度は何だ!」

「私の剣を斬った……!? あんた何者なんだい!?」

「Le Héros Noir est mon prix. ...... Vous ne pouvez pas me l'enlever !(『黒き英雄』は俺の獲物だ……てめぇ如きが奪っていいもんじゃねぇんだよ!!)」


 赤い特攻服に白のタスキ。赤茶のオールバックに左手には金色の大剣を持つ男。そう、あの不良軍団の総長サーシェスであった。


「ちっ、何て言ってるか分からないわね……なら言葉じゃなくて武力で語ろうじゃないか!!」

「Ces types qui nous ont réunis, moi et le "Black Hero", je ne les laisserai pas se faire tuer ! Vous, les gars ! Écrasez cette femme noire !(俺と『黒き英雄』を巡り合わせてくれたこいつらは殺させねぇ!! てめぇら! あの黒女をぶっ潰せ!!!)」


 うおおおおっという雄叫びと共に正門からバイクの走行音が鳴り響いた。


「Hyahaha ! Cette femme a l'air de valoir la peine d'être tuée !(ヒャッハー! あの女殺しがいがありそうだなあ!!)」

「Les gars, n'optez pas pour celle qui porte les vêtements de Nephtys ! Je vise la femme pieuvre, espèce de salaud !(てめぇら、ネフティスの服着てる方を狙うんじゃねぇぞ! 狙うはあのタコみてぇな女だぜゴラァ!!)」


 バイクの群れは正義達の横を通り過ぎ、先程サーシェスが斬った帯を踏みつけながらアースラに向かってアクセル全開で走り抜ける。


「ちっ……邪魔だよあんた達! とっとと消えな!!」


 半分に斬られた黒い帯は再び動き出し、不良軍団を一掃する。


 そんな中、サーシェスは振り向いてカタコトの日本語で蒼乃さん達に言葉を残した。


「ココハマカセロ……オロチヲ……タノムゼ!」

「――!!」


 サーシェスはにっと笑って右拳を心臓に当てた。


「……あ、ありがとうございます! ここは任せます! ……行きましょう、皆さん!」


 蒼乃がサーシェスに一礼し、正義達と共に大蛇と芽依、凪沙さんがいる2階へと走っていった。その間に正義が亜玲澄を背中に乗せ、蒼乃さん達の後を追う。

 それを見届けたサーシェスは力強く地を蹴り、バイクの群れに紛れながら大剣をアースラに向かって振り下ろした。


「Heck, ...... Je vais te faire vivre l'enfer, "Sea Witch".(へっ……地獄に落としてやるよ、『海の魔女』)」

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