第五十話「極限の頂」

 緊急任務:パンサーと名乗る怪盗を逮捕、シンデレラ宮殿の象徴「スタニッシュリング」を奪還


 遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、武刀正義、エレイナ、錦野蒼乃、涼宮凪沙、桐谷正嗣、桐谷優羽汰、桐雨芽依

 犠牲者:???



 シンデレラ宮殿1階 中庭――


 2階でパンサーがいるにも関わらず、ここ1階の中庭でも激しい抗争が繰り広げられていた。


「次は刎ねるぞ……お主の首!!」

「へっ、やれるもんならやってみろジジイ!!」


 互いに刀の柄に手を置き、突進すると同時に地を蹴って鍔迫り合いになる。


「おらあっ!!」

「ふっ……!」


 鋼同士が交わり、甲高い音を宮殿内に散らしていく。


「くそっ……力では勝てねぇのか! なら速度で補ってやらあっ!!」


 俺――武刀正義は刃先を斜めにずらして滑らせ、勢いで爺が前のめりになったところを左足で回し蹴りをする。その回転に乗りながら左下から斬り上げる。

 しかし、爺は年齢にそぐわない程の身体能力で全身を捻り、斬撃を受け止めた。


「そんなものか! お主の力は!!」

「こいつ……バケモンかよ!」


 徐々に爺に押し出され、今度は俺の刀が弾かれて無防備になる。その一瞬の隙を逃さず、爺は神速に等しい速度で三連撃を俺に与える。


「『三式さんしき六結晶アスタリスク』」

「がっ……」


 ……何だよその技。聞いたことねぇよ。どこ発祥の剣術だ。このジジイは何者なんだ。


「この数珠丸政経じゅずまるまさつねの剣術を舐めてもらっては困るぞ、若造!」

「んなっ……数珠丸だと……!?」


 数珠丸。そう、あの天下五剣の一刀……数珠丸恒次じゅずまるつねつぐのそれだ。


「ちっ、どうりでここまで傷が深くなる訳だ!」


 斬られた3箇所から血を流しながらも、俺は政経の左肩めがけて斬り払うべく上半身を左に撚る。しかし、政経は左上から俺の首めがけて刀を振り下ろすのが見えた。


 くそっ、あのジジイ左利きなのかよ! 左利きの奴とはやり慣れてねぇんだよ!! 


「うっ――!」


 政経の刃が通る前に俺は体制を低くして避け、両足で地を蹴ると同時に政経の右脇腹から左肩にかけて斬り上げる。


「ぬぅっ……!」

「こんなんで終わんねぇぜ!」


 斬り上げた直後、空中で一回転しながら右肩から左腰にかけて振り下ろしてすぐに真横に振り払う。


「喰らいやがれジジイ!『六剴殺刀ろくがいさっとう恋鐘之舞こがねのまい』!!」

「何っ……!?」


 俺の刀が桃色の光を帯びながら、剣の軌道に合わせて迸る。


「こいつはおまけだ!『三剴抜刀さんがいばっとう傍若無人ぼうじゃくぶじん』!!」


 俺は桃色の……恋鐘の光を刀に纏いながら至る方向に斬撃の波動を放つ。


「やはりその技……お主、鬼丸の後継者か!!」


 政経は細い両目を見開き、俺の斬撃を全て受け流す。


「天下五剣の後継者がまだ生きていたとは……お前も奴らと同じ様に葬ってやろう!」

「てめぇに斬り殺されるなんて一生の恥だぜ!」


 刹那、政経は地を蹴って飛んで一瞬にして正義を壁まで押し付ける。再び鍔迫り合いとなる。しかも先程よりも力を増している。政経の刀が徐々に俺の顔に近づいていく。


「その桃色の光……恋鐘こがねは数多の刀剣の頂に君臨するもの。お主程度の者が何故この光をっ……!!」

「うあっ……!!」


 ついに押し切られ、俺は左目を斬られた。視界が真っ二つに斬られた。元々あった左目から鮮血が止まらない。意識が徐々に遠のいていく。


五式ごしき龍宮之牙りゅうぐうのきば

「うがっ……」


 たった一振りなのに、通常の5倍程の激痛が俺を襲った。ついに吐血し、俺は刀を突き立てて膝をついた。桃色の光も元に戻っている。


「はぁ……、はぁ……」


 ……あーくそが。黒坊以外の奴にこんなにボコボコにされたの初めてだぜ。今までずっと最強気取ってたが、上には上がいるって事を思い知らされる。不愉快だな、本当に。上がいるって不愉快だ――





 ――『正義よ。お前は一度、『恋鐘こがね』の音色を聞いた事があるか?』


 ……何だそれ。っていつも言ってたけど、俺が習得した技の中にそんな名前のやつ入ってたな。さっきも使ってたし。


 ――『いいか正義よ。恋鐘の音色にはあらゆる逆境を覆す力があるのだ。たとえどれほど打ちのめされようとも、その音を脳が覚えれば必ず超えられる……』


 へっ、親父はそういう都市伝説的なもの好きだからな。どんなに嘘っぽいものでも好きだった。だから今までもずっと信じられねぇって思ってる。


『目を閉じ、耳を済ませ、正義。これが恋鐘の音色じゃ……』


 チリーン……チリリーン……


 ――親父はあの時……俺が一人前の剣士になる試験の前日に、俺の耳元でその恋鐘ってやつの音を聞かせてくれた。それは鈴のような形をしていて、鳴らすと風鈴と鈴の音がバランス良く混ざっていて聞き心地が良かった。


――正義よ、聞こえたか。





「――へっ、バッチリ聞こえたぜ」

「お主……まだ生きておるのか、鬼丸の後継者」


 ――もしいつか打ちのめされた時に、必ずこの音を思い出すのだ。


「……んなとこで死ねるかよバーカ」


 俺はよろめきながら両手で刀を持ち、何とか踏ん張って両足で立つ。左腕から流れる血が刀身を伝っていた。


「天下五剣の後継者……おまけに恋鐘の音を聞きし者よ……覚悟!!」


 政経は周囲から禍々しいオーラを解き放ち、鬼火のようなものが刀に付着し、青い炎を纏った。


「我が数珠丸の奥義、刮目せよ!!」


 政経が勢いよく満身創痍の俺に迫る。


 ――必ず思い出せ、恋鐘の音を。


「ふぅ……」


 徐々に血塗られた刀が再び桃色の光を取り戻す。そして炎の如く輝きを増す。


 ――それを思い出した時、お前は極限の頂へと至るのだ!!!


「おおおあああああああ!!!!!」


 右目を思い切り見開いた刹那、桃色の光が全身を纏い、地を蹴った途端に一筋の閃光と化す。


「はあああああああ!!!!」


 正反対の光は互いの刃を交らわせる。そして宮殿内に連撃の衝撃波を発生させる。


無式むしき死光閃血しこうせんけつ!!」

恋鐘之刀こがねのとう天馬烈光てんまれっこう!!!」


 互いに宮殿内を走りながら斬り裂く。交わる度に俺の耳から恋鐘の音が鳴り響く。


 ……くそっ! アドリブで生み出したが故に一撃の代償が半端ねぇ! 一回振っただけで身体が重くなりやがる!!


「ジジイイイイイイイ!!!!」


 俺は雄叫びを上げながら政経の首元めがけて恋鐘の刃を振るう。同時に政経も俺の首元に青い炎を纏った刃を振る。


「終わりだ、若造!!!」

「それはこっちの台詞だぜ、ジジイ!!!」


 互いに距離をとり、すぐに正面衝突する。この一撃で決着をつける。鬼丸と数珠丸。天下五剣の後継者による、最後の剣撃が終わりを迎えようとする。


「うおおおおおおおお!!!!!!」


 相反の光は互いの首を穿ち、鮮血を散らす。その痛みすら忘れ、二人は目を見開きながら顔を見合う。


「おおおおああああああああ!!!!!!」


 チリィィィンッという音と同時に大量の血が中庭を赤く染めた。

 

 天下五剣同士の戦いは静かに幕を閉じるのであった――

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