第十六話「『裁き』其の一 〜守れなかったもの〜」
『生きとし生けるもの全ては罪を犯す時、相応の裁きが下る』―――――
緊急任務:『海の魔女』アースラの討伐、レイブン城に侵略
遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、武刀正義、マリエル、カルマ、エイジ
犠牲者:0名
…………。
…………………。
………………………………。
――真っ暗だ。何も見えない。何も聞こえない。何も感じない。
喪失感で満ち溢れた空間だ。あぁ、これが俺――
……でも、もう俺はそこにはいけない。なんたって死んでるからな。
まるで宇宙空間のようにふわふわした感覚だが、どんどんと体が沈んでいくように感じる。
重力がある宇宙空間。神すら笑ってしまう程の矛盾空間。恐らくここは死後の世界だろう。
「…………か!」
少しだけ誰かの声が聞こえた。マリエルか? でも、今はあいつと一緒にいるはずだ。まさかあいつもいるのか……?
「……じょ………で……すか!!」
何を言ってるのか分からない。だが、俺を呼んでいる人が泣いている事は分かった。途中で鼻を
一体誰なんだ。泣きながら俺を呼んでいる人は……
「だ……丈夫………ですか!!!」
あぁ、そうか。「大丈夫か」って言ってるのか。ここまで聞こえてようやく理解できた。
その瞬間、腕が引っ張られる感覚がした。同時に重力が背中を押し上げる。ここまで来れば
(なっ、なんだ……!? 体が……上に引っ張られる……!?)
突如身体が謎の力で上に持ち上げられる。俺はもうとっくに死んだはずだ。この
だが、途中で全身の感覚を失い、俺の意識はここで再び途切れた。
――。
全身に力が入らず、ただ上に引っ張られる。しばらくすると上から少しばかり光が見えてきた。
「……お兄ちゃん!!」
「っ………!!?」
あれは……幻影か? でも、見たことはない。でも、知っている。
俺はあの子を知っている。いつの記憶だろうか、全く分からない。
「君は………」
「お兄ちゃん!」
少女のような明るい声で再び呼ばれた時、急に頭が真っ白になった――
◇
ある日の記憶。いつかは分からない。だけど、確かに存在した記憶。かけがえのない記憶。決して忘れてはいけない記憶。
そして、恐らく今の俺が在るための記憶――
「お兄ちゃんっ! 今日も一緒に遊ぼうよ!!」
天使のような可愛らしい羽根を生やし、一人の女の子が俺に遊ぼうと誘ってきた。
「あぁ。今日は何して遊ぼうか」
今日も俺は素直に女の子と遊ぶ。そしてそこには見覚えのある黒髪の青年がいた。
「ねぇ、黒いお兄ちゃんも一緒に遊ぼうよぉ〜っ!!」
「……敵と遊ぶなど愚かの極みだ」
『黒いお兄ちゃん』……間違いない、
「別にいいでしょ〜っ! っていうか今の黒いお兄ちゃんは仲間だよ?」
「……俺はただ家族を裏切り、敵であるお前らの居場所に居候しているだけだ」
「……!!!」
そう、そうだった。俺は思い出した。ここは初めて俺が神族の一人として生まれた時の世界の記憶だ。それにしても、俺にも前世というのがあったんだなと思うと何故か少し嬉しくなる。
……ということは俺のことを『お兄ちゃん』と呼んでいたあの女の子は……
「もうっ! 素直じゃないんだからぁっ!! ……お兄ちゃん! 早く遊ぼう!!」
「お、おう!」
――俺の妹、
2年後――
「オロチ君! 恥ずかしがってないで、早くこっちおいでよ〜!」
「……俺がそっちに行く理由はない」
「もうっ! なら無理矢理こっちに来てもらうからね! お兄ちゃん手伝って!!」
「……アレス。この状況で俺はどうすればいい? 逃げるべきか? それともおとなしk」
「オロチ君はおとなしく私に捕まってればいいの〜っ! ほら捕まえたぁ〜っ!」
「……おい、やめろ!」
「ふふ〜ん、顔真っ赤だよ〜っ? もしかして照れてるの〜っ??」
「おい馬鹿っ、そんなんじゃねぇ!!」
「全く……、仲良さそうで何よりだ」
俺はこのやりとりが好きだった。こうやって互いの種族が和解するきっかけになって、いつか共に平和な日常を送れたら……と思っていた。
だが当然、叶う
それはあの大蛇が天界を、そして地上にある地方一つを焼き払った事だった。その後大蛇は何者かに討伐されたとの事だが、まさかあいつがエレイナ諸共世界を殺すとは思わなかった。
だからとてもショックだった。大切な存在が死ぬというこの気持ち悪い感覚をもう味わいたくないと思った。
もうこの世界は残酷だ。大事な人がいない世界なんかいっそ消えてしまえば良かったのに。何なら俺が消し去ってやりたい。
――こんな運命を認めたくなかった。
「はっ……!!」
………あぁ。戻ってきた。また引っ張られる感覚が蘇った。あの事を思い出したんだ。
でもあれは幻覚だ。過去の出来事……
俺はここで死ぬわけにはいかない。いつまでも過去の運命に弄ばれる訳にはいかない。もう過去は過去として受け入れたんだ。
(………頼む、このまま俺を引っ張り上げてくれ)
次第に白い光が大きくなっていく。近くなっていく。もうすぐ現世に戻れるのだろう。俺はただその時を待つだけだ。今度こそ大事な仲間を死なせない。かつての平穏を取り戻すために……
「……大丈夫ですか!!!」
――あぁ。もう大丈夫だ。だからもう泣かないでくれ。
今そっちに行ってやるから、少し待ってろ。
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