(本文1-4)〝殺人音楽テープ〟

 似たケースは日本にもあった。


「昭和55年11月に起こった神奈川金属バット殺人事件(註12)の犯人の予備校生が、ホワイトハウス(註13)の大ファンだったという話は聞いたことがあります」




  註12 神奈川金属バット殺人事件――

     1980年に神奈川県川崎市で起き

     た、20歳の予備校生が両親を金

     属バットで殴り殺した事件。受

     験戦争が招いた悲劇といわれた。

  註13 ホワイトハウス――イギリスの

     パワー・エレクトロニクス系ノ

     イズ・バンド。インモラルかつ

     扇動的なメッセージで物議を醸

     した。




 そう語るのは、ノイズ/インダストリアル・ミュージック評論家の仁科啓一氏だ。ホワイトハウスは1980年にイギリスで結成されたノイズ・バンドだそうだが、犯人の予備校生への影響については、仁科氏は否定的なようだ。


「当時の日本国内でのホワイトハウスのアルバムの流通量を考えたら、ファーストアルバムがようやく出たばかりですし、しかも世界で限定1250枚ですから、それを犯人が手にしていた可能性は低いと思いますよ。そんな凶悪な事件を起こした犯人なら、ノイズみたいなヘンな音楽を聴いてるに違いない……そんな偏見から生まれた、ただの噂話なんじゃないですかね」


 念のために筆者の立場を明確にしておくと、世にいうところの〝ロック悪影響説〟に与するつもりはない。因果関係が科学的に立証されていないし、マンガやゲーム等、他の娯楽媒体をも巻きこんだ表現規制へと飛び火しかねないからだ。議論するにも慎重を要するだろう。


 とはいえ、川口の事件で囁かれている〝殺人音楽テープ〟には、大いに興味はそそられるというものだ。


 ましてや、そのタイトルが――〝クトゥルー・ノイズ〟と呼ばれているのならば。








 

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