第6話美空

「梛様。俺が剝きますので、やり方を見ていて下さい。人間になりすます為です…」


「ぐぬぬ…」


梛様は、最初は不服そうに目を眇めたが、やがて遥斗がキレイに剝いていく様子を熱心に凝視した。


以外と…


神様は容姿に似合わず、真面目なのかも知れないと遥斗は口角が少し上がった。


そして遥斗は、卵を見ながら呟いた。


「ここのゆで卵、美味しいんですよね」


すると梛様は、フンっと鼻を鳴らして言った。


「ゆで卵など、誰が茹でても同じだろうが…」


「いいえ…梛様。ゆで卵は、茹で加減で黄身に大差が出ますし…ここのは本当にちょうどいいです。以外と料理って普通の事程難しいんですよね。本当に。さぁ、ハイ、どうぞ、梛様」


遥斗は、梛様にキレイに剥き終わった卵を差し出す。


「あー」


てっきり手で受け取ると思った梛様は、大きな口を開けて、遥斗に食わせろと催促してきた。


(本当に…なんなん?この神様…しかも、なんで神様とは言え、こんな朝っぱらから野郎にそんな事しないといけない訳?)


遥斗は、心の中で壮大な溜め息をつきながら呟いたが…


「塩は、どうします?」


性分で丁寧に尋ねてしまう。


「うーん…塩分控え目がよかろうな…」


(神様に健康とか関係あんのか?しかも、言う事ジジ臭い…)


遥斗は、もうツッコむのがしんどくなってきた。


だが仕方なく、テーブルサイドの小さなガラスの小瓶の中の塩を振り、梛様の口に卵を持っていく。


カプっと梛様は半分食べた。


本当に子供や、自分の弟みたいだと…


遥斗はなんだか、胸に妙にズキッときた。


そこに…


カラン、カラン…と、ドアベルが鳴った。


そして…


「きゃー!超イケメンの外人さん!」


絶叫して遥斗達の席に飛んで来たのは、ここの孫娘の美空(みく)だ。


遥斗より5歳年上の23歳の美人で、この喫茶店を手伝っていた。


「ぐっ…グッドモーニング…」


やはり血の繋がりだろうか?


美空は、恥ずかしがりながら小声で、自分の祖母と同じ挨拶を梛様にした。


「日本語を喋れ…」


梛様は、美空を目を眇め見て命令口調。


遥斗は、めちゃくちゃ焦り誤魔化すのに必死になった。


「あっ、あの…美空さん!すいません…ちょっとあのこの人、外国人で、日本語が少し、いや、かなりおかしくて…偉そうに…本当にすいません…」


「いいの…こんな絵に書いたみたいなブロンドのイケメンなんだもん…イケメンは正義なの…」


美空はふわふわした表情で、完全に梛様しか眼中に無い。


「あの…少し横に座っていいですか?」


そして、いつも遥斗や他の客にはもっとサバサバした態度なのに、美空はやけに乙女になる。


「よかろう…私の暇つぶしに座る位なら許す。近う寄れ」


そう言うと梛様は、美空の腕を引っ張り横に座らせると、体を引っ付けて肩を抱いた。


それを見た遥斗は、目眩がした。


(ヒー!!!ここは、キャバクラかよ?!)


「なっ、梛様…それはいくらなんでもやり過ぎです!すいません!美空さん!」


遥斗は立ち上がり、2人を引き離そうと向かいに行こうとした。


だが…


「いいの…こんなイケメンとこんな近くでお話出来るんだもん…あーあっ…私にカレ氏がいなかったら、梛様の女になりたい!」


完全にセクハラの域なのに、美空は嫌がる所か喜んでいる。


「あっ…美空さん、やっぱカレ氏いるんですね。カレ氏、こんな所見たら怒るんじゃないですか?」


遥斗がおずおずと尋ねる。


「さぁ…どうだか?もう、5年も付き合ってるけど…私より6つ年上だからもう結婚して欲しいんだけど…なんか…本当、煮えきらなくてさ…最近、本当に私の事好きなのかなって…思うんだ…」


美空が、急に寂し気にしゅんとした。


そこに…


「あら…みーちゃん。来てたの?」


おばあちゃんが、台所から出てきた。


かわいい孫娘がよくわからん外国人風の男に肩を抱かれてる姿を見るなんてヤバいだろ!と遥斗は又焦るが…


「あら…みーちゃん。梛様ともう仲良くなって」


おばあちゃんは、ニコニコ笑う。


「はー…」


おばあちゃんが大らかで良かったと…遥斗は深い息を吐いた。


すると…


「美空とやら…お前、近々良い事があるぞ…」


梛様が突然、美空を見てそう言ったので、又訳の分からん事をと遥斗は焦る。


「良い事?それ、何?梛様!」


美空は、梛様の彫りの深い顔を又ぼーっと見て呟いた。


「良い事は、良い事だ…私と会って話し、私に触ったのだから…」


梛様はそう言い、いたずらっぽくニッと笑った。


次の日。


遥斗は、神社に来た美空から、美空がカレ氏から昨日の夜プロポーズされ、結婚が決まった事を聞いた。


美空の左手の薬指には、カレ氏から贈られた、某高級宝飾店の婚約指輪が光っていた。




























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