141 みんなが手を取り合う為の、大激戦㉜

 ヴァレドリオン、力を貸して――!


 大きく状況が傾いた今を逃す気はない――吹き飛んでいくアリサへと向けて地面を蹴った瞬間、私はしかと握り締めた私の武器――魔循兵装・原型たるヴァレドリオンに呟いた。


 最後の最後、彼女を殺す事なく無力化するには、一緒に鍛えた――魔力衝撃で相手をノックダウンさせる技が必要不可欠だからだ。


 ヴァレドリオンは私の意のままに力を貸してくれている。

 私を所持者と認めてくれているからこそだという事は、これまでの鍛錬や今使っている感触でなんとなく分かる。

 だからこそ、その信頼に胡坐をかくような事はしたくない。


 親しき仲にも礼儀あり。

 ヴァレドリオンに私を認めてくれる確かな意志があるのなら、それを蔑ろにはしたくなかった。


 だから私は心の内でお願いする。

 貴方と私でアリサを助けたい、だからその為の力を――と。


 その願いの下で私は魔力をヴァレドリオンに注ぎ込む。

 そんな思いを込めた魔力にヴァレドリオンは即座に応えてくれた。

 

 半身、後ろ手気味に構えていたヴァレドリオンの刀身から魔力が放出……それにより私は空中で超加速すると同時に回転開始。

 掌底で弾き飛ばしたアリサの頭上に到達した瞬間に私は叫び――


新技しんわざ――! 旋廻一閃せんかいいっせん!!」 


 ヴァレドリオンの魔力放出による回転を限界まで高めた勢いと瞬時に高めた魔力の両方が込められた刃を叩き付ける――!!


 穿孔一貫せんこういっかんが私の必殺技であるなら、旋廻一閃せんかいいっせんはヴァレドリオンの力がなければ成立が難しい――の必殺技だ。

 そんな、ヴァレドリオンに頼るのではなく、共に戦う形を模索した一撃は――


「――!!」


 ギリギリで反応して構えたアリサの魔循兵装――即座に魔力を収束させ、より硬度を高めた光刃を……

 その際、激突の――いや、こちらが放った技の威力が上回った余波で、彼女の纏う鎧の一部も砕かれていく。


 彼女の武器を壊してしまって心が軋む……だけど、今は――!


 罪悪感を抱きながらも重荷にしないように歯を食い縛り――そうして心身の体勢を整えた上で、決着をつけるための追撃を放とうとする私。


 だけど、アリサはそうはさせじと私が魔循兵装を破壊した直後に、その瞬間起きた衝撃に紛れて両手から魔力を放出。

 複合された衝撃に私が吹き飛ぶ中、今度は自ら大きく弾き飛ばされる事で私との距離を取った。


 アリサの放った魔力の力場は距離を取る為のものだったので、私への影響は少なかった。

 一瞬だけ炙られたような感じの衝撃をどうにか我慢しつつ身を翻し着地。


 距離を取られてしまったのは失敗だけど、多分――

 正確に言えば、最初から装備していた細身の剣を腰に下げているけれど、私を殺さずに捕まえるような命令を受けているのか、魔循兵装を破壊されて尚抜こうとはしていなかった。


 であるならば、申し訳ないけれどこちらが有利だ。

 意識がある状態なら降伏を申し出る所だけど、おそらくそれは難しい。

 ゆえに、心苦しいけれど、このまま決着をつける……私がそう考えて再び駆け出そうとした時だった。


「な……!?」


 視線の先に立つ、無表情のままのアリサは両手を大きく振り上げ――そこに凄まじい魔力を収束していた。

 形成されていくのは蒼く輝く光が柱のようになった魔力の大剣。


 捨て鉢になった――? いや、違う。

 私とヴァレドリオンの力を計算した上で、魔循兵装を失った自身に出来る――私達をギリギリ殺さない最適解を取ってるんだ。

 多分、魔循兵装の機能そのものを模した最大威力の魔力衝撃の一撃を放とうとしている。

    

 魔循兵装を失った状態で普通に戦闘を続ければ敗北確定。

 ゆえに、ここから自身の目的を――私を捕まえる事を達成するにはと判断したんだ。 


 魔力形成による刃と魔循兵装の光刃。

 見た目こそ近いかもしれないが、その『中身』はまるで違う。

 魔循兵装を通して形成される刃は、普通に形成するよりもずっと魔力が圧縮・収束されている。


 つまり、ヴァレドリオンを持つ私に対抗する為に、アリサは自身に放出可能な魔力を全て注ぎ込んだ魔力刃で対抗しようとしているんだ。

 だけどそれは、大きく自分自身の魔力を消耗する。

 【ステータス】で確認出来るアリサの魔力放出限度値は高く、それを振り絞ればヴァレドリオンに匹敵する収束は可能かもしれない。

 だけど、一度それを形成した後、同じ魔力刃をもう一度作りあげる程の魔力はアリサには残らない。

 

 戦闘中のリスクを避けてきた彼女が計算の末出したのは、これを外せば終わりという最終手段だった。

 それはすなわち、リスクを避けられないほどに彼女が追い詰められているという事に他ならない。


 さっきとは逆に10%、20%を拾わなければならない立場になったアリサ――多分、はじめくんがこの場にいたら『皮肉だな』と呟いていただろう。


 だけど――申し訳ないけれど、を拾わせるわけにはいかない。


「フゥゥゥゥ……ハァァッ!!!」   


 裂帛の気合と共に、私は全速力で駆け出した――今放つべき技はただ一つ……!


「必殺……! 穿孔一貫せんこういっかんっ……!!」

「――――!!」


 一足飛びに間合いを詰めつつ私が解き放った一撃にピタリと合わせ、アリサもまた光刃を振り下ろす――いや、違う。

 今回は


 前回の決闘の――最後の激突を、私は覚えている。

 本来、模擬戦用の魔循兵装に備蓄された魔力のみの戦いであるはずだったけど、私達は双方ともに魔力を外側から追加――その上で繰り出した技を激突させていた。


 その時の私は、まるで歯が立たなかった。

 正面激突すれば刃を砕かれて終わる――だから穿孔一貫せんこういっかんめぐりへと切り替えて、刃をずらす事しか出来なかった。


 だけど、その時と今では違う事がたくさんある。 

 

 その時に患っていた大物食いの病は克服した。

 あの日から再度アリサと戦う事を想定して鍛え上げてきた。

 私の手に握られている武装が、他でもない――愛槍たるヴァレドリオンだ。


 何より――負けたくない想いと負けちゃいけない理由が、ここにある。


 本来の形じゃないアリサには負けたくない。他でもない、アリサ本人に申し訳が立たないから。  

 そして……こんな形の再戦じゃなくて、ちゃんとした、対等の条件の決闘をやり直さなくちゃいけないからね、うん。 

 

 だから抱えた心は痛むけれど……迷う理由は何もない。

 だから――私は、負けないよ……アリサ!!


「――めぐりぃっ!!」

 

 激突の瞬間、白刃と蒼刃が火花を散らし拮抗する――だけど、ほんの一瞬だけ。

 私はヴァレドリオンの光刃を穿つカタチドリルへと変形、限界まで高速回転させると共に全力で押し込んだ。

 直後、ヴァレドリオンの白く輝く穿刃は……アリサの振るう巨大な刃、その先端を僅かな抵抗感と共に無慈悲に抉り穿った。


「……っ!!」


 驚愕ゆえかアリサが小さな息を吐く中、ヴァレドリオンの穿刃は瞬く間に彼女の放つ刃を真っ二つに砕いていき――


「セイ、ヤァァァァァッ!!」


 煌めく魔力の破片が周囲に舞い散る中、最後まであがこうと彼女がさらに注ぎ込もうとした魔力もろとも打ち砕いて――


「……痛くして、ごめんね」


 思わず呟いてしまった言葉と共に、アリサへと確かに到達した――――。

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