71 ささやかにして大きな変化、そして蠢く何か
「あ、みんな」
私・
一応主催者の養女の立場上、皆さんに話しかけにいった方がいいよねぇと思いつつ、陰キャ気質ゆえに私ちょっと躊躇っておりました。
そんな中、この中では特に馴染みのあるクラスメート達『
なので、私はホッとしつつ皆へと向き直った。
皆の格好は、鎧やらなにやらの装備を外した他は普通の衣服――この世界の冒険者的に――だった。
でも、その中に色やら仕立てやらに皆のこだわりが垣間見える……ような気がした。
ちょっと自信ないけど、多分。
「いやー! 紫苑ちゃん、ドレス似合い過ぎでしょ!
……っていうか滅茶苦茶に綺麗可愛過ぎない? マジで」
「いや、その、私的には全く自信ないんだけどね……でも、ありがとう」
正直に言うと、コルセットちょっとキツイです。
でもまぁ、慣れるように、って何度か付けてたから、初めての時よりは我慢できております。
言葉どおり私自身は、この素敵なドレスに全然見合ってないと思うんだけど……
以前守尋くんもそうだったように、今の翼くんみたいに真っ直ぐかつストレートに褒められると正直照れます。
……私は生憎分からない所もあるんだけど、皆が思ってくれてるように似合ってるといいな。
「……納得は出来ます。
貴女は主催者の養女、来賓を応対する立場ですからね……でも、納得できません――!」
「おい、澪。一瞬で矛盾してるぞ」
フルフルと身を震わせつつ声を上げるのは
その声に
「だって、こんなパーティーだったら着飾りたいじゃないですか……
なのに、わたくしはこんな、粗野な格好しかできず――いや、わたくしなりに気に入っておりますが、ケースバイケースというものでっ!」
「まぁ気持ちは分からなくはないが、それを八重垣に言っても仕方ないだろ」
元の世界ではお嬢様だった阿久夜さん的に色々と思う所はあるんだろうなぁ。
それを思うとちょっと申し訳ないです、はい。
「あはは、その、ごめんね? えっと、私と服を交換する?」
「そんなことできるわけないでしょう――そのドレス、貴女のためにしっかりと仕立ててあるのは一目瞭然。
仕立てに携わった方々の為にも、冗談でもそういう事を言うのはお控えなさい」
「うん、そうだね。ありがとう、気を付ける」
申し訳なくてなんとなくの提案――それに対しての阿久夜さんの言葉はただただ正しかった。
納得と共に御礼を告げると、阿久夜さんは恥ずかしげに視線を逸らした。
――と、そこに。
「っていうか、着替えた所で一部がブカブカになるんじゃねぇか?」
これには寺虎くんの友達である、
「寺虎お前なぁ――今の時代そういうのはどうかと思うぞ?」
「最低です」
「最低だな」
そんな寺虎くんに、翼くんが問題を指摘、阿久夜さんと正代さんが若干冷たい視線を向ける。
すると――
「いやいや、俺は事実を言っただけだぞ――って、わーったよ、悪かったって」
寺虎くんはあっさりと引き下がり、謝罪の言葉を口にした。
正直ちょっと意外だった。
以前の、少し前の寺虎くんだったら引き下がる事も謝罪もしなかったんじゃないだろうか。
少し不思議に思いつつ視線を向けると、寺虎くんはこちらに顔をを向けつつ破顔一笑した。
「皆仲良く、そうだろ。八重垣」
「――!」
「俺は正直言えば甘っちょろ過ぎると思ってるけどな。
だが、俺に真正面から勝ちやがった奴の言葉だ……多少は取り入れてやらんでもないさ」
「――っ」
寺虎くんの言葉に、私は思わず胸が熱くなった。
以前寺虎くんと――『
そうするしかないと決めて行動した事だから、後悔はないけれど……決して本意じゃなかった。
出来れば争う事なく仲良くしたいと思っていたから。
だから、その事はずっと胸につかえていたけれど……今の寺虎くんの言葉で、その大部分が取れたような――そんな気がした。
そんな思いもあって――私は心に浮かんできた気持ちそのままを、寺虎くんに伝えた。
「――寺虎くん、ありがとう」
「……。いいってことよ」
そうして、私達は笑い合った。
なんというか――不思議な気持ちだ。
正直に言えば、考え方が大きく異なっていた寺虎くんとこうして和やかに笑みを交わせるとは想像できなかったから。
きっと寺虎くんもそうだと思う。
でもだからこそ、不思議とそれは心地良くて――
「それはそれとして、八重垣よ」
「なにかな?」
「――あー、その、なんだ。
お前、胸前より大きくなってねぇ?」
――その心地良さが一瞬で凍り付きました。
周囲のみんなは改めて何とも言えない表情をそれぞれ浮かべております。
ふふふ、心地良かったんだけどなぁ。
とても爽やかな気持ちだったから悲しみを感じますね、ええ。
というか、少し前の会話を忘れてしまったのだろうか――まぁ、なんとなく
あるいは私だからいいと思ったのかなぁ――ふふふ。
でもまぁ――なんというか、実に寺虎くんだ。
セクハラ的発言を肯定するつもりはまっっったく、これっぽっちもないですけどね、ええ。
そんな訳で私は小さく苦笑いを浮かべた――極々ささやかな怒りを織り込みつつ。
「――多分コルセットのせいでそう見えるだけだと思うよ。
あと、さっきも翼くんが言ってくれたけど――女の人にそういう事は言っちゃ駄目だよ?」
「そうかぁ? あー、なんていうか、良い感じに――」
「寺虎くん? 駄目だよ?」
「ちょっ! わ、わかった! わかったって! 笑顔のまま腕を掴むのはやめろぉ!!
八重垣の関節技マジで怖ぇんだよぉー!!?」
――などと、そんな事がありまして。
結果として少し大きめに騒いでしまった私達は、ちょうど戻って来たメイド長のノーダさんに怒られる事となりました。
うう、お恥ずかしい限りでございます。
「……
「昔からそういう奴だからな」
「ったく……手温いこって」
紫苑達が穏やかで楽しい時間を過ごしていた頃。
魔族領の一角、罪人を封じ込める牢の中で、彼――魔王軍3将軍が一人ダグドは呟いた。
彼は今日の戦いで負った傷を最低限度に治療された後、今いる場所へと追いやられた。
それは彼の上司である魔王軍司令代行・ニィーギと――その上司である魔王の意向であった。
ここは特に強い魔族が罪を犯した時の為の特殊牢。
生命維持に必要でない分の魔力を限界まで削り取る仕組みが施されている。
同様の牢は幾つか同じ階層に存在しているが、今ここにいるのは彼のみであった。
長い歴史の中、自分達が定め、作り上げてきたルールに背く魔族はそう多くはなかった。
魔王配下の高位魔族は特にそうであった。
強いもの、高い魔力を持つもの程思慮深い――民の間でそんな
それゆえになのか、この階層に見張りは常在していなかった。
あるいは先代の魔王自らが敷いた結界の強力さを誰もが疑っていないから、かもしれない。
ともあれダグドは、当然ながら一向に魔力を練れない苛立ちを、舌打ちと鉄格子を睨み付ける事で八つ当たりしつつ呟いた。
「さっさと殺せばいいものをよぉ。いい気なこった」
独り言である事は承知している――しかし、ニィーギや魔王がどこからか眺めている可能性も多少あるだろうという思惑と暇潰しを結び合わせて彼は言葉を続けた。
「人間なんざの言いなりで俺様を活かしやがった事、いずれ後悔させてやるよ」
そうして、結界の敷かれた牢内で言葉を紡ぎ続けていた――そんな時だった。
『その願い、叶えてあげられるかもしれませんよ』
雑音が混じった、作り物めいた男の声が響いてくると同時に――何処からか、それが現れたのは。
すなわち――白と青に彩られた全身鎧の騎士。
彼はゆっくりと歩みを進め――やがてダグドの眼前で立ち止まり向き直った。
鉄格子越しのそれに驚く素振りも見せず、牢の中からダグドは言った。
「……へっ。
じゃあ、一応囀ってみな――興が乗る内容だったら考えてやるぜ」
『そうでないなら?』
「何分、今の俺様は機嫌が悪いんでな――バラバラにしてぶち殺してやるよ」
そうして、ダグドは牙を見せ、獰猛な笑みを形作った。
魔力は尽き、全身の傷も完全には癒えていない……にもかかわらず、その笑みは吐いた言葉を実行出来る自信と意志に満ち満ちていた――。
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