第87話 室長の訪問




「私有名人!!」


修学旅行から帰宅して数日後。

平日の夕方、私はあの件が気になってスマホで検索をしていた。

そしたら出るわ出るわ私の動画。


それの一つをスマホで再生し、リビングでくつろぐ姉の下へと走った。


「なんだね、草むしりマスター優奈君」


「知ってた。 お姉ちゃんは知っていた!! 私にも教えておいてよ!!」


「美人姉妹の姉こと私がですか?」


体勢を起こし、髪をかき上げなんだかよく分からないポーズを決める姉。


「気に入ってるね、なんでお姉ちゃんが美人戦乙女で私が開墾マスターなの?!」


「アスファルト砕いてたからね」


「そうだけれども!!」


自分の行いのせいだった。


「荒れ地の草を毟り自らの足で耕す。 優奈って人間耕運機か何かかな?」


「違うけれども!! その表現があってて……否定できないのが悔しい!!」


キーと地団駄を踏む。 かなりソフトにマイルドに。


「あははは、ごめんごめん。 でも優奈力加減上手になったね、凄い凄い」


「本当?! 私頑張ったもん」


「それと私の為に怒ってくれてありがとうね。 お姉ちゃん優奈が口悪くなるなんてビックリしちゃったよ」


「ぬぁああああー忘れて!! あれは忘れてよー!!」


何だろうこの黒歴史を暴かれた感。

めっちゃくちゃ恥ずかしいよー!!


そんな感じでお姉ちゃんと戯れてたら玄関のチャイムが鳴った。




「?」


「?」


お姉ちゃんと顔を見合わせて互いに首をかしげる。


「何か通販頼んだ?」


「私は頼んでないよ? お姉ちゃんは?」


「私も頼んでない。 お母さんかな? 取りあえず出るか」


そう言ってお姉ちゃんが玄関に来客を確認しに行った。


私はその間に飲み物を飲もうとキッチンへと向かった。


「室長?!」


「へ?」


モニターを確認した姉が突如声を上げた。

室長って……お姉ちゃんが言う室長とはあれかな? ダンジョン探索室かな?

なんか忘れものでも届けに来たのかな?


あ、来客ならお茶居るかな?


そんなのんきなことを考え、自分のコップにお茶を注いだ。


室長室長……なんか忘れているような。


むむむと何を忘れていたんだっけと考えていると私の名前が呼ばれた。





「君が橘君の妹さんだね。 私は亘理、ダンジョン攻略室の室長を務めさせてもらっている、君の姉の上司に当たるよ」


「……はい?」


何やら室長と呼ばれた人はスーツを着た目の下のクマがやばい人だった。

寝不足? 室長って大変なんだな。


玄関先では話が終わらないようだったのでリビングに通した。

私達の前には私がさっき入れた冷たいお茶が置いてある。


姉はというと何やら焦った様子だ。


……あ、そう言えばさらっと私が職持ちって伝えるって言ってたんだった。


それを思い出せて喉に骨が刺さったような、そんなモヤモヤが晴れてスッキリした。


「橘君から話は聞いたよ。 職持ちなんだって?」


「はい?」


「室長その話は済んだんじゃないですか?」


「一応確認さ。 まだ知らなきゃいけない事もあるからね。 その確認からするよ? レベルを教えてもらってもいいかな?」


そう言って亘理さんは持ってきた黒いビジネス鞄からノートパソコンを取り出しテーブルに置いた。


「……レベルですか?」


そう問われて姉を見る。

姉はどこまで話したんだろう、私はどこまで話していいんだろう。


「優奈のレベルは60代です」


「橘君、今は妹さんに聞いてるんだ。 君が答えたら確認にならないよ」


「……64です」


「64だね。 随分レベル高いね、お姉さんが心配するはずだ」


「心配……ですか?」


「あぁ、私の所に来てスカウト班を向けない様に直談判されたよ」


ちらっと姉の表情を盗み見れば分かりやすい位に動揺している。

こんな姉の表情は中々見れないよ。

なんだか私はそれが面白くなった。


「スカウト班ですか?」


「そう。 スカウト班ってなんだか分かるかな?」


「んースカウトするんですか? ……?! 探索者ってスカウトされるんですか?!」


そう言えば姉もスカウトがどうのこうのって言ってたね。

聞き流しちゃったけど。


「スカウトするよ。 今は動画でも職持ちらしい人は確認できるからね」


「どうやって職持ちって判断するんですか?」


「……鑑定持ちを派遣するよ」


そう言ってにこりと微笑みを浮かべた亘理さん。


「……優奈を鑑定するんですか?」


「その前に確認に来たんだ。 ……そう警戒しないでもいい、スカウト派遣するにしても色々大人の事情があるんだよ、だから私が直接来たんだ。 少なくとも悪いようにはしない……ただこちらとしても動き方があるから正直に話をしてほしい」


怖い微笑みから一変させてため息を吐きつつ苦笑する亘理さん。


対して難しい顔をする姉。


「……信用できません。 こうして私との約束を違えてるんですから」


「違えてはないよ。 私預かりにすると言ったんだ。 むしろ他の者を介入させていないところを評価してほしいんだが……」


姉は警戒心丸出しで亘理さんはどうしたもんかと考えあぐねてるみたいだ。

少なくとも私に直接確認に来たし、こんなに顔色が悪いって事はそれだけ仕事をしていそうだ。

そんなに悪い人には見えない。


「お姉ちゃん……私話してもいいよ? 亘理さんなんだか信用できそうだし」


「優奈……」


私がそう言うと亘理さんもくすぐったそうに表情を柔らかくした。

少なくとも悪用しようと考えては無さそうかなと思える。


あと、お姉ちゃんが私と亘理さんの間で困ってるの見たくない。


「あ、ただ私ダンジョンにも潜ってみたいんですけど、その前に学校にもちゃんと通いたいです」


「……え? 私そんな鬼に思われてたのか? ダンジョンにも潜って良いしまず未成年だ。 ちゃんと学校に通ってください」


譲れない部分をちゃんと話しておく。

職業を理由に、スキルを理由にダンジョンに入れなくなるのは嫌だ。

亘理さんは自分がそんな鬼だと思われてると思っていなかったようでショックを受けている。


お姉ちゃんも私の質問の意図を察したのか亘理さんに畳みかけた。


「……本当ですね、男に二言はありませんね。 亘理室長」


「私探索者になってからダンジョン潜りますからね。 あ、ちゃんと録音しておきたいのでスマホに向かって発言してください」


そう言ってスマホを操作し録音アプリを起動させた。


「あ……あぁ? 探索者なら潜れるが……」


「潜っていいんですね」


「あぁ。 ……なんだ? 何かあるのか?」



私と姉はにやりと笑った。

言質は取った。


私の、職業を言う声が入らない様にそっとアプリをオフにした。


「私職業錬金術師なんです。 スキルで鑑定も持ってます」


そしてにっこり笑って言ってやった。







***


次回で第3章終了になります。

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