第75話 尻拭い
一方魔族の国……
どちらかというとヨーロッパの建築様式に近い城の中に私たちは居た。
その城の中は静寂に包まれ、足音は私とミーリア、そしてミーリアの補助のみ。
その中の一室でダンジョンの様子を眺めながらミーリアから事情を聞いていた。
「レベル2のダンジョンもクリアできないのカ?」
目の前で不思議そうな顔をする魔族の少女。
「そもそもレベル1のダンジョンの魔物はどの程度なんだ?」
魔族の少女ミーリアの魔法により魔族の国へとやって来た私は、現状の把握がまだできていなかった。
どうやら世界各地に現れたダンジョンは魔族の技術により作られた品物らしい。
ダンジョンコアを作製し世界各地にばら撒いたそうだ。
何故そんなことをしたのかを聞いたら魔王復活の為らしい。
種族丸ごとこちらの世界へ転移するという、力技をやってのけた魔王はそのまま眠りについたそうだ。
もちろんたとえ魔王であろうとも魔力は到底足りず、魔力の高い順、つまりは魔王の側近たちもその魔力を捧げ眠りについた。
眠るだけでも自然と回復するらしいが、いつ目が覚めるのか、どれくらいで回復するのかは未定。
その回復を早めるためにダンジョンを作製しエネルギーを確保しているとのことだ。
そしてそのダンジョンのさじ加減は、側近の中で一早くに目覚めたミーリア次第とのことだ。
他にもいたろう……よりにもよってあほ娘のミーリア次第だと?!
側近幹部一自由な娘。 それがミーリアだ。
いたずら大好き、楽しい事大好き。
替わりに難しい事考えることが苦手な子だ。
比較的若い魔族だからしょうがないと言えばしょうがない。
歳を取ると落ち着いてくるのは人も魔族も一緒なのだろうな。
「レベル1はさわり程度だヨ。 スライムとか羽ウサギとかゴブリンとか」
「それでレベル2は?」
「物によって変えてみタ。 その方が楽しいダロ?」
薄い胸を張り自慢気に言うミーリア。
その言葉には不安しかない。
「ユースケ? だいじょーぶだヨ。 注意書き書いタ。 ミーリア親切だもン」
「……魔族語は読めるのでしょうかめー?」
控えめに話に入って来たのは、羊のような角を生やした背の低い白髪の老大人。
ミーリアの補助をしていて名前はメー爺。
「……魔族語で書いたのか?」
「ん?」
きょとんとする様子は一見愛らしく加護欲を掻き立てられるものだと思うが、私には効かない。 何故ならうちの娘たちの方が可愛いからだ。
メー爺は困ったようにオロオロメーメー鳴いている。 気遣いが出来るこちらの方がよっぽど可愛いと思う私は間違っていないと断言する。
「ん?、じゃな……おい、と言う事は……」
注意書きになってないって事じゃないか?
レベル2が現れたのはどこだ? というかどういう順に出してるんだ?
地図……場所どこだ。
アイテムボックスから世界地図を取り出す。
「ミーリアダンジョンの出現場所教えろ」
「ミーリア注意書き書いタ。 仕事しタ。 ミーリア悪くなイ」
メ―爺と私が焦っているのがミーリアにもなんとなく分かったらしい。
フルフルと頭を左右に振り自分の否をを認めようとしない。
そして次第に、何かは分からないがやらかした、っていう事実が理解できたみたいだ。
「ミーリア仕事しタ。 魔王様の為の仕事しタ。 こうしろって言われてタ」
口をへの字にしてそう言うミーリア。
その目には薄っすら涙が溜まっていた。
「あーはいはい、ミーリア悪くない。 私が何とかするから場所を教えてくれますか?」
起こった物はしょうがないと、冷静になるべくゆっくりと息を吐く。
ミーリアはミーリアでしょうがない。
これはあれだ。
ミーリアを先に復活させたあいつが悪いんだ。
ミーリア自体は頑張ってた。
他の幹部達が寝ている中、誰にも頼れず復活させるための行動をとらなきゃいけなかったんだからな。
だからとて。
このままほったらかしていたらこっちの世界に被害が出る。
取りあえず私が何とかするしかない。
「うー……」
「ほらほら、涙拭いて。 メー爺飲み物あるかな?」
「かしこまりました。 ただいまお持ち致しますめー」
不承不承ながら魔族たちに手を貸すことになってしまった。
その後ミーリアに出現する魔物を聞いたら思わずアホか死ぬわ!! と突っ込みを入れてしまったのはご愛敬だ。
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