第58話 姉と学祭





「お姉ちゃん、今日はよろしくね」


「はい、よろしく頼まれましたー」


週末を迎えた今日はお姉ちゃんと学祭だ。

私も姉も動きやすいラフな格好。

姉はそれプラス帽子を被っている。

どうやら最近、どこに行っても目立つらしい。


今日行く大学は姉も見学に訪れた場所らしく、大学の名前を言ったら案内を自ら買って出てくれた。


二人で家から最寄りの駅へと歩く。


姉の大学入試までの体験談を聞きつつ、道すがらすれ違う人達を鑑定しまくった。


「優奈、ちゃんと前を見ないと危ないよ」


「えへへ、ごめんなさい」


きょろきょろと辺りを見渡しながら歩いていたら前から歩いてくる人にぶつかりかけた。


姉に服の袖を引っ張られ衝突は避けられた。


最寄り駅に着くと電車で20分ほど揺られ、そこからバスへ乗り継ぐべくバス停で待つ。

どうやら私たちが並んだ時は前のバスが出てすぐだったらしく数人しか並んでいなかった。

徐々に人数が増え、バスが到着する頃には私達の後ろだけでも10人を超える人が並んでいた。


バスに乗り込むと、後ろの方の二人用の座席に歩み寄り、窓側に私、通路側に姉が座る。


乗り込んでくる人たちの客層は大学行きの為徐々に若くなる。


高校の制服を着た人や親子で来ている人、大学生っぽい私服の人が多くなっていく。


そんな中で姉がチラチラと視線を集め始めた。


「お姉ちゃん……なんか見られてる?」


「あー……テレビ効果かな? 有名になってごめんね」


「そうだった。 お姉ちゃん有名人の仲間入りしてたんだ」


「忘れてたんかい」


暴動鎮圧の映像はテレビで繰り返し放送され、さらにはインタビューも受けていた。

ネットでも話題になってたのを忘れてた。

そんな中で女子高生のような二人組に声を掛けられた。


「あのー……もしかして『戦乙女』 さんですか?」


「イクサオトメ」


「優奈復唱しなくていい」


私は耳慣れない言葉を聞いて思わず小声で復唱した。

女子高生の耳には届かなかったが、姉の耳には届いたらしく肘で小突かれた。


「……すみません、戦乙女って何ですか?」


「あ、すみません。 あの……勇者イガラシと一緒にテレビに映ってた方ですか?」


「あぁ、はい。 ダンジョンのあれですかね? 確かに五十嵐と映ってました」



姉はどうやらスルーしようとしたらしい。


しかし周りを囲まれてしまった。


姉は素直に認めた。


したら女子高生たちはキャーと黄色い悲鳴を上げた。


「握手してもらっても良いですか? ファンなんです」


「カッコよかったです!! 私も握手してください」


女子高生たちは吊革に捕まっていたので信号で止まった瞬間に握手をした。

だがここはバスの中だ。

目的地に着くまで姉は女子高生たちからの質問攻めにあっていた。


目的地に着くと女子高生たちは名残惜し気に降りて行った。

何なら、一緒に周ってくれませんか? とも言われたが私の付き添いの為断ってくれた。


バスから降りて目の前の大学に目をやる。

今回の大学は街中にある。


だから敷地はそんなに広くなく、大きな建物がギュッと密集しているような感じで圧迫感がある。


建物の大きさに口をあんぐり空けて眺めていたら、姉に袖を引かれて歩き出す。


「優奈、ちょっとこっちに行くよ。 あのまま立ち止まってたらまた捕まりそう」


「人気者は大変だねー」


「他人事か」


飾り付けられている正門をくぐり、パンフレットを受け取らずにずんずん建物に近づいていく。


「お姉ちゃん、パンフレットは?」


「貰ってもらってる」


「誰に?」


私と姉の二人で来ているはずだ。

私は大学生に知り合いなどいない。

って事は姉の知り合いがこの大学に通っているのか?


疑問符が頭の中に浮かぶ。

答えが分からないままどんどん進んでいった。


「お待たせ!!」


「おう」


一番近くの建物に入り、階段を上る。

1階と2階には人気が無い。

3階まで一気に登ると、自販機と長椅子が設置されている踊り場に人が居た。

姉に手を引かれるような形で来たので顔は見えなかったが、姉が声を掛けたのでどうやらここで待ち合わせをしていたみたいだ。


「お姉ちゃん?」


「ん? それが妹か?」


私とその男性が姉に声を掛ける。

姉はこちらを向き、にっこり笑った。


「優奈、紹介するね。 これが噂の勇者だよ」


「おい」


「勇者……イガラシ!!」


「おい。 ちょっと待て、その紹介はやめろ」


姉の言葉を聞き顔を出す。

そこには画面の向こうで何度か見た勇者イガラシの姿があった。


「本物だ!!」


「おい、橘妹……その呼び方はやめろ」


「あ、ごめんなさい」


「素直!! 姉!! 妹を見習え!!」


素直に謝ったら勇者イガラシが姉に怒り出した。


「私はいつでも素直ですが」


「素直の意味が違う!!」


姉と勇者イガラシのやり取りを大人しく見守る。

どうして勇者がここに?


「それは置いておいて、優奈。 今日は五十嵐が案内してくれるからね。 質問があったら質問攻めしたげて」


「言い方」


「五十嵐さんはここの学生なんですか?」


「まぁな」


「なら他のメンバーもここの学生なんですか?」


確か五十嵐さんは動画配信者の撮影してたんだよね。

って事は他の人たちも居るのかな?

そう思い問いかけた。


「俺たちの事?」

「やっぱり気になるよね」

「お前のことは気にしてないと思うぞ」


自販機の影から動画に映っていた3人が顔を出した。


「五十嵐が女子をナンパしてる」

「五十嵐にも春が……」

「五十嵐ズルい」


「おい」


出て来てそうそうからかい始めた。

このノリ動画で見た。

若そうだと思ったけど大学生だったんだね。


「すまん、橘姉。 呼んでも居ないのに後をつけられた」


「いいよいいよ。 案内してくれるなら、ね。 優奈」


「うん。 時間作ってもらってありがとうございます」


わざわざ案内を買って出てくれるなんてありがたいもんね。

お姉ちゃんだってこの大学に通っているわけじゃないし詳しい人が増える分には助かるもん。

そう思ってお礼を言ったら五十嵐さんが呆けたような表情をした。


「……姉みたいになるんじゃないぞ」


「言い方よ」



そう言って6人の団体で大学を回ることになった。


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