第55話 先生





ダンジョン攻略室




「……失礼します。 足立先生」


『ん? 亘理君かね、どうした久しぶりだな』


やるべきことが見えてきたが人手が足らない。

まずはそれを解消するべく私の恩人の足立先生へ電話を掛けた。


「ご無沙汰しております。 連絡が出来ずに申し訳ありません」


『いや、聞いてるよ。 ダンジョン攻略室に放り込まれたらしいじゃないか。 出世したな』


「たまたまですよ、これも先生の導きのお陰です。 先生はお身体の方は大丈夫でしょうか?」


『そっちまで聞こえてたか。 ……あぁだいぶ良くなったぞ』


足立先生。

この人は俺が会社勤めしていたころに偶然飲み屋で知り合った人だ。

その頃の俺は上司からの無理難題、いわれのない叱責、責任のなすりつけ、手柄の横取り等で腐っており、飲み屋で同僚と一緒になってカウンターで酒に飲まれながら悪態をついていた。


『知るかっての!! なんでお前のスケジュールをこっちが把握してしりぬぐいしなきゃなんねーんだよ』


『あーあの人なんもやんないからね』


『そのしりぬぐいが俺だぜ? なんで部長から課長の補佐してやってくれって言われんだ? 俺一平社員だぜ? なんで役職上の奴のフォローしなきゃなんねーんだ』


『頑張れー、部長に信頼されてんだろ? 良かったじゃん』


『ふつう逆だろうが、いや、上に行きたいわけじゃないが……上司はその分給料貰ってんだから働けよ!! 補佐って知らんわ!! お前が俺らのフォローしろよ!! 逆だろ逆!! あーもうイラつくわ。 しかも休みもだ。 こっちは交代で休日出勤してんのにあいつは毎度休むんだぜ? 休んで当然の考えが俺としては無い。 んで、たまに1時間くらいフラッと顔出すんだぞ。 それで休日出勤の手当て貰ったらしい。 そう話してた。 ……なら仕事しろ!!!!』


『溜まってんな―亘理』


『変わるか? 変わってくれるか? そのくせ自分の仕事俺に俺に振っていつの間にか俺の仕事にしてんだ。 この間現場の取りまとめ出てないぞって軽く言われて、はあ?! ってなったぞ。 血管ブチ切れそうだ』


『いや遠慮するわーあの人の下無理だわー』


『変わってくれよー頼むよー』


『大変ですね』


『あ……うるさくしてすみません』


『いや構わないですよ』


いつの間にか俺の隣に人が来たらしい。

大声出してた自覚はあったので素直に謝罪した。

その人は俺よりもだいぶ年上の人らしく質の良いスーツを身に着けた老齢の男性だった。

白髪だが老け込んだ様子はなく、品が良い。

そんな男性が静かに刺身を充てに日本酒を嗜んでいた。



『どこの世界も上の者には苦労させられますねぇ』


『そうなんですよ』


同僚よりも親身になって話を聞いてくれた。

この日心が軽くなったのを覚えている。


それからちょくちょくこのお店で顔を合わせるようになり、この店の常連で、まわりから『先生』 と呼ばれ慕われている人だと知った。

俺も、愚痴を親身になって聞いてもらっているうちに、いつの間にか自然と先生と呼ぶようになっていた。





「先生、人材を紹介してもらえませんか?」


今回どうにも人が足らなくなったので信頼のおける先生を頼ることにした。


『人材か? どういった人が欲しいんだ?』


「まず、頭の回転が速く、地ならし出来る人が欲しいです。 そしてそれを翻訳して手順書を作製出来る人。 さらにそれを下に割り振れる人、他には交渉で破壊力がある人と口が上手いのが欲しいです。 他にも欲しいのは一杯ありますが今のところは最優先の人材はそんなところです。 あとは事務員で何人か……」


『随分と欲張るの』


電話の向こうの先生の声は楽しそうだった。


『分かった。 つてを使って探しておくよ』


「ありがとうございます。 よろしく頼みます」


そうして久しぶりの足立先生との会話を終えた。


「これで後はサラリーマン組を訓練以外でこっちの作業に回せば形になるだろう」


サラリーマン組をこっちの事務方に回せれば、職持ちの今後の雇用の仕方を増やすことが出来る。

ダンジョンでトラウマを持ったものをそのまま解雇せずに済むだろう。


こちらもダンジョン以外で職持ちが必要になってくるだろうしな。

治安の維持や悪事を働いた職持ちの対処等。

その場合の給与体系も考えなければならないな。

いっそのこと外部団体の立ち上げが必要か?

特別機関は国の機関としては都合が良いがその分お金に関して厳しい。

外部団体を立ち上げて利益を上げる事業運営をし、ここに手数料名目で少しお金を落として他の団体へ商品を売りつける。 その方が財務上良いのか? どうなんだろう?


そう考えてふと疑問が過ぎる。


俺……自分で仕事作ってるんじゃないか?


その事実に気づいてガックリと肩を落とした。


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