第53話 橘優介
「ユースケ。 ここって何? 光ってるナ。 魔法か?」
「それよりも説明を。 理解が追いつかないのだが」
突如この世界に出現したダンジョン。
それは私が高校時代に赴いた、あちらの世界でよく見た、なじみ深い物だった。
それはレベルを上げるために潜り、アイテム集めるために潜り、技の練習をするために潜る。
そんな場所だった。
それが突如こちらの世界に現れた。
私は何が起こってるのか理解が出来なかった。
ダンジョンを知っている私でさえそれだ。
こちらの世界の人々は、初めて見るダンジョンの出現に戸惑い、出現したアイテムを見ては熱狂した。
そのころの私は仕事でアメリカに来ており、丁度商談の通訳をしていた。
異世界から帰還後、私はあちらに行く時にもらった言語理解を活用し言語学のある大学へと進学を果たした。
この言語理解はこちらの世界でも有用なチートスキルだった。
何せその言語を思い浮かべるだけでその言語で書けるし話せる。
大学教授達を驚かせるには十分なスキルだ。
ゼミを選ぶ時なんか教授達の勧誘合戦が酷かった。
その後の就職に強い教授のゼミに入り卒論もローカルで癖のある言語を選び期待に応えた。
卒業後は数年間は通訳会社に勤め、仕事の受け方や、やり方請求の仕方を学びその後開業しフリーの通訳になった。
最初の頃は営業をかけ飛び込みもした。
料金は最初から高めの設定、なんでも通訳できるからな。
始めは断られたりもした。
教授からの斡旋も受けた。
色んな所の仕事を受けるうちに、些細なニュアンスの違いも完璧に通訳出来ると評判が上がり、あちこちから引っ張りだこになった。
それだけでも収入は豊かになったのだが、ある日海外でいつも通りに通訳を行っていたら乱入者が現れた。
どうやら同行していた会長に恨みを持つやつの仕業らしい。
魔法も使えない、スキルもない、レベルも低いこちらの一般人など俺にかなうはずもない。
雇い主である、会長を背後にかばい、さっさと制圧すると今度はボディーガードの腕も買われた。
となると今度は四六時中一緒に居なければいけない。
このころの私は通訳として軌道に乗っており、結婚もし、娘が二人いた。
しかもその頃の優奈は生まれたてだった。
遥も可愛い盛り、優奈も生まれたばかり。
それで提案に迷っていたら、額に不満を持っていると勘違いされ会長に倍額を提示された。
これから習い事や進路、進学によってはお金の使い道はいくらでもある。
お金はいくらあっても良い。
旦那元気で留守がいい。
そんな言葉を真に受け、愛する家族の為にお金稼ぎに精をだす決断を下した。
幸いにも会長には何人かボディーガードは居た。
交代で休みを取り、海外の治安が怪しい場所には俺が行く。
逆に日本にいる時は優先して休みを貰うようにしていた。
日本にいる時は遥や優奈と沢山遊んだ。
魔法で水を出したり浮かせたり、すごいすごいとはしゃぐ2人はとても可愛らしかった。
日本に戻ってから使い道が無かった魔法まで楽しんでくれた。
家族で過ごす時間は、ほんとうに……癒しだった。
小さい二人は目に入れても居たくないほど愛らしい。
そんな思いから、何があっても身を守れるように精魂込めてお守りを量産した。
一度、妻に渡していたお守りが誤って発動した際、緊急車両が出動する騒ぎになった。
妻からは遥や優奈が危険だから威力を控えめにしてと注意されたのもいい思い出だ。
「ユースケ、ユースケ? 聞こえているカ?」
「んで、どういうことだ。 理由を話せ理由を」
会長に防御魔法をかけて少しの間席を外させてもらった。
「ユースケに会いに来ちゃっタ」
「ミーリアだけか?」
「ううん。 全員だぞ。 幹部で起きたのがミーリアだけダ。 さっき起きタ。 だからユースケ探してやって来タ。 魔王様あっちの世界に見切りをつけたんダ。 これから宜しく頼むナ」
「……はあ?!」
衝撃発言に固まる私に対し、
頭に角の生やした、背中に翼の生えた魔族はそう言って満面の笑みを浮かべた。
異常事態が発生した。
そう理解すると、会長を即刻日本に帰国させ、私は久しぶりで顔馴染みの魔族たちの下に単身で乗り込むことになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます