第38話 ダンジョン攻略室


ダンジョン攻略室、自衛隊駐屯地内


自衛隊の駐屯地の一部屋を間借りさせてもらう形で、

正しくは防衛省の下部組織、特別機関としてダンジョン攻略室は立ち上がった。


室長は亘理壮一わたりそういち、自分が職持ちと知らされたのはモニュメントと呼ばれるものが登場した辺りだ。

一議員として所属していた会派から突然呼び出しを受け、その場所に赴けば職業を告げられ気が付けばここに放り込まれていた。


そこから自分の意志とは関係なくあれよあれよという間に事態は進み、押し付けられた仕事に忙殺され、気づけばこの一室で責任者をやらせられていた。


「なぜだ!!」



立ち上がったばかりの部署はとにかくやる事が多く、だが、機密保持の観点やダンジョンの内容の不透明さから、人数は必要な分を与えられていなかった。


というかどれくらいの仕事があるのか、必要人数が把握できなかったというのが確かなところだ。


人員は亘理の他に秘書が一人、三波春奈みなみはるなという女性。 他には今日は帰ってしまったが事務員として2名、自衛隊から応援で教官が1名の計5名で構成されている。


だが、人数よりなにより最も問題なことが一つある。

それがとにかく決裁が遅いことだ。


システムで依頼を掛けたものが当日下りることはない。

2、3日で下りれば良いほう。

酷いと1週間くらいかかってしまう。

それもそのはず、必要予算の割り振りが防衛省経由でしかもらえず、しかも、決裁承認者が兼任だからだ。

そちらの決裁承認者ももともとの仕事があるため、どうしてもそちらが優先されてしまった。


そう言ったこんな不遇な待遇で、ダンジョン探索者の募集から合否まで迅速に進んだのは奇跡だと思う。


だが奇跡はそこで打ち切られ、そこから先がまだ進んでいなかった。

出来れば合格した者達をこちらで雇用したいのだが、その雇用に関する予算承認が下りない。

それに対する費用で上が揉めに揉めていたからだ。


亘理は愚痴でも言わないとやってられない心境だった。

それで挙句の果てにはアメリカの先走った情報公開である。



「だからこうなる前に決裁しろって言ってたんだ!!」


「室長、言葉が過ぎます」


「どうすんだアレ、下手に死人が出たら責任取らせられるの俺だぞ!! と言うか俺だけで済むのか?!」


室内に設置されていたテレビを眺めて悪態をつく。



「ああぁああもう……どうすんだ? 一般人を中に入れる? あれにか?! あれにか?!? 無理だろ!! 自殺願望者か!! どうせなら早く決裁承認卸してくれよ……職持ちの奴らを早く雇用させてくれ。 もう……ほんと……情報小出しにし過ぎだバカ、もっと危機感煽れよクソが。 何が『スライムスタンピードひゃっほーい』 じゃこのボケが!!!!」


「……室長」


「いや、そうだろ? あそこに入るにはそれ相応の力が必要だぞ?! 上の連中は社会が混乱するだの、費用が高すぎるだのそんな事しか考えてないじゃないか。 『あのスライムならわしらが行ってもだいじょーぶ』 なんて言ったんだぞ!! んなら一度行ってみ!! 軽く死ねるから!! ってか死んで来い!! 最初の犠牲になれや!!」


そう悪態をつく亘理は、自衛隊のダンジョン探索に同行したことがあった。


その際の初めの気持ちは、今テレビの向こうでこのダンジョンに入りたがる人達と同じ考えだった。

何せスタンピードで足で踏んで倒せるスライムが出てくるくらいだ。 そんなに怖いところじゃないって。


だが入って気づいた。 その認識が間違いだったと。

確かにスライムは踏んで倒せた。

その時は「なんだこんなものか」 とあざける気持ちがあったのは事実だ。

だが、階を降りるごとにあれ? と思うことが増えていった。


決定打になったのは、一緒に入った自衛官の何名かが狼の魔物にやられ重傷を負ったことだ。

その時はなりふり構わず職業を得た時に覚えたスキルを使用し、命からがら隊員たちと何とか地上に戻って来れたのだ。


門から地上に出た時の助かったと思う心からの安堵感は忘れない。


門から離れ、ふいに振り返ってダンジョンを見る。

単なる門のはずなのに、何かが不吉な物が口を大きく開けているような不気味さが感じられた。

そう見えてからは門に対して恐怖感を持ってしまった。


私でさえそうなのだ。 だから一般人の立ち入りは無理だと断言できる。

命の危険性があることは合格者には2度目の訓練の時に伝えた。 離脱者は出なかった。


「室長……メールが届きました。 !! ……お待ちかねの決裁が下りましたよ」


「なに?! よし!! よしよしよしよし……すぐにダンジョン探索者にメールを……雇用契約に関する招集メールを送ってくれ!!」


「かしこまりました」


「頼むからそれまで死人出ないでくれ」


祈るような気持ちでテレビを見つめた。


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