第28話 説明会2





バスに乗せられた人たちは皆困惑していた。


「皆さんには今から体力測定を行ってもらいます」


体力測定?


そもそも政府が募集した探索者の試験には、もともと学力テスト、体力テスト、面接とあった。

そこですでに持久力や握力、瞬発力と言った普通のテストは行っている。

それなのにまた体力測定とは?


一同疑問に思ってると、先ほどまで教壇に立っていたスーツの男性がこう言った。


「これから皆さんには限界まで走っていただきます。 試験の時のように手を抜かないよう、、よろしくお願いいたします」


その言葉でその場の人たちは皆息をのんだ。


……バレてる。 

体力テストで手を抜いたことが。


だって、すでにレベルが上がった状態で本気でテストを受けたら悪目立ちしてしまう。

それを避けるために他の人の様子を見つつ、一般人の中で優秀ぐらいに手を抜いていた。


え、待って。 ……と言う事は……?


他の合格者の顔を見る。

どうやら皆同じ気持ちのようだ。 いろんな人たちと目が合った。


つまりこの合格者たちは私と同じ職持ちと言う事になる。

この人達全員? 嘘でしょ?!

それを理解した私は国の本気を肌で感じ鳥肌がたった。






「えっと……えーミイラ取りがミイラになるって……こういうことを言うんだっけ?」


「笑いたきゃ笑えー!!」


「一網打尽だね。 あはははは……」


「苦笑はいらん!!!!」


政府によるダンジョンを餌にした職持ち一本釣り。 この場合地引網? その手腕見事である。


「それでどうなったの?」


「どうもしないよ、限界まで走らされて、駅まで送ってもらって解散になった」


冷やし中華をすすりながらそう言う姉。


「守秘義務はいいの?」


「今日の内容自体は良いってさ。 どうせ……ほら発表されてる」


箸でテレビを指す姉。 行儀が悪いと思う。


テレビにはリポーターが映っており、姉の前に連れてこられた人たちが駐屯地で走る様子が映されていた。

どうやらダンジョンに入る前に訓練しますよ、と言うアピールらしい。


「講義の内容は?」


「それも記者会見で発表するって。 政府が予想していた以上にダンジョンに関する国民の関心が高いみたい。 このダンジョンの探索募集で支持率がえらい上がったからダンジョンに関して定期的に発信するみたいだよ」


「それはそれは良かった……のか?」


「もうえらいとこに入ってしまったよー、この暑い中延々と走らされたんだよ。 5時間だよ5時間!! 信じらんないよね」


「休憩とかは? よく熱中症にならなかったね」


「着いてそうそう着替えさせられた。 飲み物に関しては補給スペースまで配置されてた。 駐屯地でフルマラソン2周も走らされると思わなかったよ」


「付いていけるお姉ちゃんも凄いね」


「優奈よ、もっと褒めたたえたまえ」


「だが断る」


「酷い。 褒めてよ、付いて行った結果補習になったんだから」


「補習?」


「3分の1が補習、というか限界に達しなかった人達は補習になった」


「お姉ちゃん……」


「皆まで言うな!!」


「……好物用意しておくね」


「優しさが沁みるよ、不意打ちは卑怯だ!!」



それから姉は度々訓練に行くようになった。

体力測定の結果を見た教官がお客様用の仮面を取っ払って鬼になったらしい。

日々増していく過酷さ故か、姉の口癖がしばらく「イエッサー」 になった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る