第18話 五人目の攻略ヒーロー(前編)

その日の最後の講義である政治学の授業が終わった時……


「ルイーズ、ちょっといいかい?」


そう声を掛けていたきたのは、青銀髪と金色の瞳の優しい感じのするイケメンだ。


「なにかしら、エドワード」


私は割と気軽に返事をした。

なぜなら彼・エドワード・ロックウェルは隣国ドレンスランドの公爵家の長男にして、私の母方のイトコなのだ。

当然、小さい頃から交流がある幼馴染でもある。

彼はちょっと突き放したような言い方をするが、実はけっこう相手を思いやる事ができる人間だ。

小さい頃からワガママ放題のルイーズにも、根気よく付き合ってくれた。


私はゲームをやっていて、実はエドワードはルイーズに恋心を抱いていたんじゃないかと思っている。

そうは言っても、結局はヒロインであるシャーロットのものになってしまうのだが。

ただエドワード・ルートはゲームの中でも難易度が高い方だった。

彼はけっこうルイーズを庇うためだ。


エドワードは一緒にいたエルマ・アリス・サーラの三人に、チラッと目をやった。


「ここではちょっと……二人で話したいんだ」


私もエルマたちの方を見た。

すると彼女たちは「全て承知した」と言わんばかりにニコリと笑い


「じゃあ私たちは先に寮に戻っていますね」


と言ってその場を去っていく。

エルマはルイーズとエドワードの関係を知っているためだろう。

去り際に片手を挙げてウインクしたのは、「頑張って」という見当違いの応援の意味だろう。


エドワードは黙って歩き出す。

私も彼の後についていった。

校舎を出て裏手に回り、大きな古代杉のある場所に来た。

周囲に人はいない。そして誰かが近寄ってくれば、すぐに解る場所だ。

エドワードは緊張した顔付きで口を開いた。


「ルイーズ、みんなが噂している事は本当なのか?」


彼が尋ねている『噂』が何を指すか、私も解ってはいたが、一旦はとぼけてみた。


「みんなが噂してるって、何のことなの?」


「君は知らないのか?」


エドワードは驚いたようだ。


「さぁ、誰も私に何も言わないもの」


エドワードは首を左右に振った。


「みんなが君に言わないのは、君の権力を恐れているからだよ。だけど噂は確実に広まっている」


「だからその噂って何なの?」


エドワードは恐いような目で私を見つめた。


「ルイーズがシャーロットを殺そうとしている、って話だよ」


(エドワードがこう言って来ると言う事は、相当に噂は広まっているのね)


私は内心はそう思ったが、表面では何事もないような顔をした。


「私がシャーロットを殺そうとしているですって? 何を根拠に?」


「根拠は十分にあるだろ。君は以前からシャーロットを嫌っていた。そして一度は魔法でシャーロットが崖から落ちそうになった。次はこの前の特級呪具倉庫での事件だ」


そう強く言って来るエドワードに、私は段々腹が立って来た。

どちらの事件も私が起こそうとして起こした事件ではない。

偶然の事故なのだ。


「その件は両方とも先生方に事情を聞かれたわ。それで私が故意に起こしたという事実はない、って結論が出てるわよね?」


「だが逆に『故意に起こした事件じゃない』という証拠もない」


それを聞いて私は頭にカッと血が昇った。


「そんなの『悪魔の証明』じゃない! やってない事の証明なんて、誰にもできないわ!」


「ルイーズ、落ち着いてくれ。僕はなにも『君がシャーロットを殺そうとしてる』なんて思っていない」


「当ったり前よ! だいたい、なんでそこまでして私がシャーロットを殺さなくちゃならないのよ! 理由がないじゃない」


私に問いに、エドワードは苦い顔をした。


「それは……アーチーとシャーロットの仲がいいからだと……君は婚約者に奪われそうになっている事の焦りと、プライドを傷つけられた事で、シャーロットが邪魔でしょうがないのだろうと……」


「バカな!」


私は思わず大声を出した。

そもそも『ここに来るまで会った事もない、形式上の婚約者』を取り戻すために、殺人まで計画する訳がない。


(とは言ってもゲーム上では、ルイーズがシャーロットを目の敵にする理由も、確かそれだったな)


「僕だってルイーズがそんな事をする人間だとは思っていない。君はワガママで相手の気持ちを考えないが、誇り高い人だ。だから君にこうして話をしているんだ」


そうしてエドワードは私の両方の二の腕を掴んだ。


「だけどこういう噂を、みんなが事実として信じてしまう事が問題なんだ。既に噂はかなり一人歩きしている。噂が人を殺す事もあるんだ。アーチーも、ガブリエルも、ハリーも、みんな君を危険視している。彼らは君からシャーロットを守るための組織を作ろうと考えているんだ」


私は下唇を噛んだ。

そこまで周囲は固められているのか?


「ルイーズ、しばらくはシャーロットとは関わらない方がいい。まずはほとぼりを冷ますんだ。時間が経てば噂も静まるだろうし、誤解も解けるチャンスがあるかもしれない」


エドワードがそこまで言った時だ。

私は再び首筋にピリピリ来るような視線を感じた。

すぐに後ろを振り返る。

だが誰もいない。

それどころかこの古代杉の周囲に人の姿は全くなかった。

そして隠れられるような場所は一切ない。


「どうしたんだ?」


エドワードが不思議そうな表情でそう聞いた。


「ううん、なんでもない。どうやら気のせいだったみたい」


私はそう言った後、エドワードの目を見つめた。


「わかったわ。私はしばらく彼女には近づかないようにする」


それを聞いてエドワードはホッとしたような顔をした。



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この続きは、明日朝8時過ぎに公開予定です。

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