第186話 美紅と探索者省との話し合い・後編

「ちょ、ちょっと待ってください。《花鳥風月》様には、自衛隊員がSランクダンジョンの探索をするのを楽に出来るように、携帯ハウスの売却または貸出をお願いしましたが、断られたという報告を受けています。断られたからといって、ダンジョンを入れなくすることは法律上無理があります。何かの勘違いではないでしょうか?携帯ハウスの件も《Black-Red ワルキューレ》様に口添えをお願いしたいのですが、《花鳥風月》様には是非自衛隊員の探索の為に携帯ハウスを売却していただきたいと思っています」

「安達さんはどんな報告を受けたんだ?《花鳥風月》さんはきっぱりと拒否した筈だ。携帯ハウスを売却することも貸し出すことも絶対にないと《花鳥風月》のクランマスターの龍泉さんが言った時に、藤林さんが《花鳥風月》さんをダンジョンに入れなくすると言ったんだ。それが探索者省の意見だと間違いなく言っていたが違うのか?」


 安達さんが驚いているのを見ると、藤林の独断で言ったことで報告はしていないようだな。


「そんなことは言ってないです。国の為に是非貸し出してほしいとお願いして断られたのは事実ですが、赤峯様は何か勘違いしているのではないですか?」

「また嘘だ。もう話し合うことはない、お帰りください」


 《花鳥風月》さんの処分が無いのが分かったことで、今日の話し合いの結果としては良しとしておこう。これ以上不快な話し合いはしたくない。Sランクダンジョンから魔物が溢れるのかどうかは気になるが、まあ私達に責任がある訳でもないし、もしもに備えて実力をつけるだけだな。


「藤林、ここから出て行きなさい」

「課長、私は決して嘘など話していません。信じてください」


 当然の退場劇に開いた口が塞がらないが、ついでに安達さんにも早く帰ってもらいたいな。


「では、話し合いを終わりにしよう。大切な話し合いにはもう少し誠実な人を出すべきだな。はっきり言って、私達はダンジョンの探索で長く貢献してきたと思っていたが、探索者省からその程度の扱いしか受けていない事には失望している。探索者省のランキングでここ半年ほど、常に上位にランクしている《花鳥風月》さんのことをぞんざいに扱うことにも呆れているよ。あのランキングは何の為に出しているんだ?《花鳥風月》さんは探索者省の依頼は、今後一切受けないと言っていたよ。私達もそうしたいところだが、《Black-Red ワルキューレ》は大きくなり過ぎてしまった。本当に残念だよ」

「本当に申し訳ありませんでした。しかし《Black-Red ワルキューレ》様には、住之江ダンジョンを探索していただかないと困るんです」

「探索者省が困っても、私達はもう一年後までの予定を決めたばかりだ。自衛隊か他のクランにでも話を持っていった方が良い。《Black-Red ワルキューレ》が住之江ダンジョンに戻ることはない」


 既に私は明日福岡ダンジョンで、どう麟瞳さんに智美を紹介すれば良いのかを考えていた。


「赤峯様、全てのAランクダンジョンを四年以内に完全攻略しないと、魔物が溢れてきます。どうか日本を助けてください。お願いします」

「前回の話し合いではSランクダンジョンから魔物が溢れると言っていたが、今回はAランクダンジョンに変更したんだな。それを私に信じろというのか」

 

 夕風から合図がないので、安達さんは嘘を言っていないようだな。


「Sランクダンジョンからもいずれ魔物が溢れますが、切羽詰まっているのはAランクダンジョンの方です。期限は四年後の年末です。それまでに五つのAランクダンジョンを完全攻略しないと駄目なんです。信じてください、お願いします」

「どうやってその情報を得たんだ?その情報に信憑性はあるのか?」


 安達さんは言おうか、言うまいか悩んでいるようだな。


「あっ、そういうことか。大阪のSランクダンジョンの本か?それで閲覧させてもらえなかったのか、なるほどだな」


 思わず声に出してしまったが、流石に日本の滅亡の日が記された本は読ませてもらえないか。


「えっ、何故本のことを知っているんですか?本の存在は極秘情報なんですが」

「私が言うのもなんだが、もっと組織で情報を共有した方が良いぞ。大阪のSランクダンジョンの本は《花鳥風月》のクランマスターが探索して得たものだ。それをたった百万円で国が取り上げたんだ。その後、岡山の探索者センターから、本の取得者の《花鳥風月》のクランマスターが閲覧出来るように嘆願されている筈だ。この前も《Black-Red ワルキューレ》と《東京騎士団》の連名で本の閲覧を《花鳥風月》さんと共にさせてもらうように頼んだんだが、貴方は知らないのか?」

「申し訳ありませんが、知りませんでした」

「まあ猶予が四年あると聞いて安心したよ。そんなに切羽詰まっているなら、自衛隊を使えば良いだろう。Sランクダンジョンの方は後回しで良いんだろ」

「そういう訳にはいかないんです。Sランクダンジョンの探索を止めてしまうと、すぐに魔物が溢れてきます。本当に自衛隊は二つのSランクダンジョンで手一杯なんです」


 大阪のSランクダンジョンの本の話をしてから、やけに口が軽くなったな。四年で五つのAランクダンジョンの完全攻略、いや実質は三年か?


「Sランクダンジョンからは、いつ魔物が溢れて来るんだ?」

「いや、それは言えないです」

「今更何を言ってるんだ。ここまで話しておいて、Sランクダンジョンのことは話せないとは、全く笑わせてくれるものだな」

「しかし、こればかりは言う訳にはいきません。勘弁してください」

「まあ八年後から十年後といったところか」


 反応を見ると、ほぼ当たっているようだな。


「《Black-Red ワルキューレ》は一年後に、京都のAランクダンジョンの完全攻略を目指してトップチームが探索を始める。住之江ダンジョンは他を当たってもらおう。Aランクダンジョンの完全攻略に成功したら、大阪のSランクダンジョンの本は必ず見せてもらう。それと携帯ハウスはもう諦めた方が良い。先ほども言ったが、《花鳥風月》さんは前回の話し合いで断っているし、探索者省と自衛隊には今後協力することはないだろう。自業自得だと諦めるんだな」


 四年後にAランクダンジョンを完全攻略出来るようなクランがいくつあるだろうか?うちと《東京騎士団》は届くかもしれないが、五つ全てを完全攻略というのは、時間が許さないかもしれないな。やはり《花鳥風月》さんの成長を急ぐ必要がありそうだ。











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