第181話 特級ポーションを渡す

 住み慣れた場所に帰って来て油断したのか、少し寝てしまった。夕方になれば、今日の探索を終えたクランメンバーも帰ってくる。京都に行っているうちの主力戦力にも一旦帰ってきてもらおう。夕風に手配をしてもらい、九時にクラン会議をすることにした。


 夕方になり、続々とメンバーが帰ってきて、パーティ毎に今日の探索の結果を報告している。報告を終えたパーティからお風呂に入り、夕食を各自取っていくのがいつもの流れだ。


 お目当ての智美も報告を終えたようだ、近づき声をかける。


「智美、お疲れ」

「あれ、美紅やん。当分の間はおらんようになるんちゃうんか?」

「ちょっと野暮用で帰って来たんだ。明後日にはまた出ていく予定だ」

「なんや忙しいんやな。アタイに用があって声をかけたんか?」

「ああ、お風呂に入ってサッパリしたら、応接室に来てくれないか?」

「分かったわ。急ぎの用なら今からでもええで」

「いや、そこまで急いでないから、ゆっくりお風呂に入ってきてくれ」


 プレゼントの効果的な渡し方は、福岡へ行く車の中で学んだ。危うく武器ケースで殴られそうになったが、世那がプレゼントを貰ってからはずっとご機嫌だったからな。まあご機嫌だったのも探索者センターの喫茶コーナーまでだったが………いやー、あれはいつ思い出しても笑えるな。あんなに笑ったのは初めてだったな。麟瞳さんと正輝さんはあのように言ってくれたが、私達もおばさんと言われても不思議ない年齢になってしまったのかと思うと寂しいものだ。まだまだ若い者に負ける気はないが、私達を超える探索者がでてきてほしいとは思っている。いつの間にか私も年寄りじみた思考をしているな。


「美紅、風呂に入ってきたで、用事は何なんや?」


 部屋着に着替えた智美が部屋にやって来た。利き腕の右腕が無くなり、普段の生活にも苦労しただろうな。パーティメンバーを助けるために、自分を犠牲にしてくれたあの七十五階層のボス部屋の戦闘を思い出す。もう少しで討伐できると思い、帰還石を使うのを躊躇った私の判断の甘さで今まで苦労をかけた。


「美紅どないしたんや?何で泣いとるんや?アタイが何かしたんか?」

「す、すまない。私があの時に帰還石を使っていればと後悔していたんだ」

「なんや、その話か。前にも言うたやろ。美紅の判断は間違ってない。直後に世那が倒したやんか。紙一重やったんや、少し運が悪かっただけや」


 智美の言葉を聞いてからも、しばらくの間泣いてしまった。


「今日は智美にプレゼントがあるんだ」

「アタイの誕生日はまだ先やで。誕生日プレゼントなんかもろうたことないけどな」

 

 泣き止んだ後にプレゼントの話をした。おどけて言っていられるのもここまでだな。


 私はアイテムボックスから特級ポーションを取り出した。プレゼント包装をしなかったことに少し後悔した。【用意周到】の私としたことが………


「これ何のポーションなんや。今までに見たことないポーションやな」


 私もオークションサイトでしか見たことがなかった。オークションでは二度とも負けてしまった。無理をすれば落札出来たかもしれないが、クランの運営に支障が出ると思い断念した。智美には悪いと思ったが………


「今まで待たせてしまったな。これは特級ポーションだ。これで智美の右腕が再生できるぞ」

「はっ、特級ポーションって、オークションで落札できたんか?いやいや、オークションに特級ポーションは出品されてなかったで。美紅、その冗談は洒落になってないで、からかわれるのは堪忍や」

「これは本物の特級ポーションだ。縁ある人に譲って貰ったんだ」

「譲って貰ったって、そんなアホみたいな奴普通おらんやろ。誰からもろうたんや?」

「いや、それは言えないんだ。智美には黙ってこれを受け取ってほしい」

「あかんわ、何か取り引き条件があるんやろ。美紅や世那に迷惑はかけれんわ。これはそいつに返しとき」

「本当に無料で譲って貰ったんだ。だから気にせず受け取ってくれ」

「あかんわ、信じられへん。誰からもろうたか教えてくれへんと貰うことはできんわ」

 

 性格は昔から良く知っているが、本当に強情な奴だなー。「嬉しい」とか言って、素直に受け取れば良いものを、麟瞳さんには後で謝ろう。


「はーっ、誰にも言わないでくれよ。これは《花鳥風月》のクランマスターの龍泉麟瞳さんから昨日貰ってきた。今、私と世那と恵梨花は《花鳥風月》と一緒に福岡ダンジョンを探索している。その福岡ダンジョンでの探索中に龍泉さんが宝箱から得たものだ。取り引き条件など何もなく譲ってくれたんだ」

「《花鳥風月》のクランマスターか、確かに最近ようここで見かけたなー。ほんまに何もないんか?アタイがもろうてええんか?」

「ああ、少しでも早く智美に渡したくて、今日の朝早くに福岡から帰ってきたんだ」


 特級ポーションを使っていいことに安心したのか、智美の目から涙が溢れてきた。智美の肩に右手を添えた後に、私は応接室を出た。








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