第170話 三つの宝箱の中身とその行方
新しくスキルを得たメンバーの興奮はしばらく収まることはなかった。興奮しているところに水を差すようなことはしないよ。皆の喜んでいる姿を眺めていると美紅さんが話しかけてきた。
「龍泉さん、実際にはどうやって盾を使わずにレアモンスターを倒したんだ。一瞬で近づいて斬るか、遠方から魔法攻撃をすることぐらいしか私には考えられないんだが………先ほど恵梨花が実をキャッチしていたと言っていたから、私が考えてる方法ではないのだろう。今後の参考にさせてほしい、どのような方法を使ったんだ?」
「いや、普通に投げて来る金色の実をグローブでキャッチして、打ち止めになったところで近づいて刀で斬りましたよ。途中でグローブがダメになって、一発もらってしまいました。追撃があったらやばかったかもしれません」
「打ち止めになった?私達の時にはずっと投げ続けてきたが、何が違うのだろうか?」
「ん、僕の時には六個、最初にかわしたのを入れても七個しか投げて来ませんでしたよ。段々投げてくる金色の実のスピードが上がってくるから、キャッチするのも大変でした」
「スピードが上がるのか?龍泉さんは新しい討伐方法を見つけたのかもしれないな。情報を探索者協会に伝えれば情報に対しての報奨金が貰えるかもしれない。しかし、今の話だと十一個も金色の実は手に入らないと思うが………」
「五個はグローブで取ってから収納して、一個は肩に一撃もらった後に収納しました。残りの五個は討伐後のドロップアイテムです」
「えっ、五個もドロップしたのか?普通は一個しかドロップしないぞ。龍泉さんだから五個ドロップしたのか、討伐方法が違うから五個ドロップしたのかは分からないな。五個ドロップしたことも報告した方が良いかもしれないな」
「今の美紅さんなら、【短転移】のスキルで接近してあっという間に倒すことが出来ますね」
「確かにそうだな、まあスーパートレントモドキにはそうそう出会うことは無いだろうが、運良く出会ったらその方法で討伐してみるよ。ドロップアイテムも増えればラッキーだ」
今回スーパートレントモドキに接敵したのも、【豪運】スキルのお陰だろうか?流石にもう一度とはいかないだろうね。
「美紅さんは、今までに両手に短剣を持って戦闘をしたことはあるんですか?」
「いや、勿論無い。恵梨花に以前に使っていた短剣を渡さなくて良かったよ。明日からスキルの練習をするためにも、後で武器ケースの封印解除をしてもらいに受付に行かないといけないな」
「えっ、サブマスは私に短剣をくれる気だったんですか?」
「ああ、龍泉さんがプレゼントしてくれた短剣が手に馴染んできたから、そろそろ恵梨花に以前使っていた短剣を譲ろうと思っていたんだ。危ないところだったよ」
「そんな~」
恵梨花、残念だったね。今度マジックアイテムの短剣を手に入れたらプレゼントするよ。因みに世那さんは静かにしている訳もなく、正輝をつかまえて新しく取得した【サイクロン】のスキルで、現在一位の自衛隊員をすぐに抜かすと話しているからね。声が大きいからよく聞こえるよ。
「皆も落ち着いたようだし、休日について話し合いをしよう。携帯ハウスは登録をしていない人には見えないから、一日中携帯ハウスで休憩しても大丈夫だ。毎日探索して疲れを溜めても良いことは何も無い。僕は二日探索して一日休むか、三日探索して一日休むかのどちらかが良いと思う」
「二日探索して一日休むというのは、今までの休みの取り方と似てますから、良いと思います」
「リーダー、休みの日に希望するメンバーで探索しても良いのか?」
「休みの日の使い方は個人個人の判断に任せるよ。翌日の探索に支障が出ない限りは自由にしようと考えている」
「世那様と美紅様はどう思っているっすか?」
「ウチ等か?麟瞳には話しとるけど、ウチと美紅は二回の休みの内の一回はここのダンジョンを完全攻略する為に使うわ。麟瞳と正輝には付きおうてもらうで」
「だったら、二日に一日の案が良いと思うっす。七日探索して一日休みはしんどいっすよ」
「クラマス、私も完全攻略のメンバーに入れてください。お願いします」
「麟瞳と正輝は恵梨花もおってええか?」
「僕は良いと思いますよ」
「住之江ダンジョンは中途半端になってしまいました。小桜さんも麟瞳と探索したいと思っているでしょうから、俺も良いと思います」
「正輝、小桜さんはあかんわ。同じパーティメンバーになるんや、これからは恵梨花やで」
「えっ、それはちょっと………美紅さんも麟瞳や俺のことを苗字で呼びますから………」
「美紅もこれからは麟瞳や正輝を名前で呼ぶわ。勿論恵梨花も正輝を名前で呼ぶんやで」
正輝は渋々了承したよ。世那さんから言われて反論出来るのなんて、美紅さんぐらいしかいないよね。休みも多数決を取って二勤一休に決まった。明日はスキルも使いたいだろうから探索日にして、明後日を最初の休みにした。正輝と僕は明後日も世那さん達と探索をすることになった。
「では、今日のメインイベントに行こうか。宝箱から出てきたものを順番にテーブルの上に出していこう。最初はどのパーティからにしようか?」
「龍泉さんは………いや、麟瞳さんは最後にしないと盛り上がらないな。到着順で良いだろう」
「そやなー、ウチ等からがええやろうな。真琴、頼むで」
世那さん達のパーティの代表は真琴なんだね。普段は普通に喋るのに、皆の前に出ると緊張するのはなんでだろうか?不思議だなー。
「私達のパーティは銅色の宝箱でした。中からは、このジューサーのようなものが出てきました」
「それは良いなー。僕が欲しいよ」
「麟瞳達はドベやから、残りもんやで」
確かに欲しくても手に入れられないかもしれないが、お願いして使わせてもらおう。でも、売却するなら中古にする訳にはいかないのか。うーん、やっぱり欲しいなー。あの高級そうなフルーツをジュースにしたら美味しそうだよね。
「ボク達のパーティも銅色の宝箱でした。中からはこの指輪が出てきました」
「マジックアイテムの指輪なんか?ええもんが出てきたんちゃうか」
鑑定してもらわないと分からないが、真姫の装備している幸運のミサンガのお陰かもしれないな。効果が気になるね。
「私達は銀色の宝箱でした。宝箱にはこの銀色の球が一個入っていました。なんなのかはさっぱり分かりません」
本当にただの丸い球にしか見えないんだよね。銀色の宝箱だから特殊金属かもしれないが、これも鑑定してもらわないと分からないな。………あれっ、さっき【鑑定】スキルを取得した人がいたよね。
「真琴、【鑑定】スキルを取得したんだよな。三つとも鑑定してみてよ」
「そうでした。私、鑑定出来るんですね。やってみます」
【鑑定】スキルを持っている人は沢山知っているが、鑑定しているところをちゃんと見たことはないなー。どうやるんだろ。
「鑑定」
物を前に置いて、スキル名を言うのか?………普通だね。真琴は、三つのマジックアイテムを次々に鑑定していった。
「私の熟練度が足りないんでしょうか?名前しか分かりません」
「そんなに焦ることはない、最初はそんなものだ。うちの受付の鑑定士も最初は名前しか分からなかった。何度も使えば、詳しいことも分かるようになるさ。私はこの後武器ケースの封印解除をしてもらう為に受付に行くから、詳しい鑑定結果は聞いてくるよ。名前だけでも皆に教えてほしい」
美紅さんって格好良いよね。人への気遣いもサラっと行う。僕も見習いたいものだ。
「はい、魔導ジューサーと幸運の指輪とミスリルの投擲球です」
あの銀の球はミスリルだったのか、見た目よりも軽いとは思っていたけどミスリルとは大当りだね。投擲球って、そのまま投擲で使う球なのかな?詳しい鑑定結果を聞かないと分からないな。それに幸運の指輪も良いマジックアイテムだよね。そして魔導ジューサーも欲しいアイテムだ。どれになってもハズレはないから良かったよ。
「世那さんのパーティが一位ですから一番に選べますが、鑑定結果を聞いてから選びますか?」
「そんなんミスリルに決まっとるやろと言いたいところやけど、ウチのパーティは誰も【投擲】スキル持っとらんから他のにしようか?皐月、選んでな」
「オレですか?じゃあ、幸運の指輪を世那さんにプレゼントします」
「ウチはええわ。他のメンバーが装備した方がええで」
「《千紫万紅》にはリーダーがいるし、《カラフルワールド》には幸運のミサンガを装備した真姫がいるから、世那さんが装備するのが一番良いです」
流石に皐月でも世那さんとしゃべる時には口調が変わるんだな。まあ皐月の考えに賛成だな。明日からは《千紫万紅》と《カラフルワールド》での探索にもどる。あっ、いつパーティメンバーを変更すれば良いんだ?
「ちょっと良いですか。明日からの探索のために、パーティメンバーを変更しないといけないですよね。目立たないように今晩変更しておいた方が良いですよね」
「確かにそうだな。私と世那はソロにならないといけないな。後から全員でダンジョンの外に一旦転移しよう。話が変わるが、私達はミスリルの投擲球にするよ。【投擲】スキルを持っている原田さん………詩音が装備すれば良いと思う」
「………美紅様、ありがとうございまっす」
名前呼びされたのが嬉しかったのか、ミスリルの投擲球を美紅さんから託されたのに感動したのか分からないが、泣きながらお礼を言っているよ。
二つのマジックアイテムの行方が決まったということは………
「やったー!正輝、恵梨花、これでイチゴジュースやマンゴージュースが飲み放題だぞ」
「桃のジュースがあれだけ美味しいんだから、今日のイチゴやマンゴーやメロンをジュースにしたらヤバいかもな。そう言われたら、大当りだぞ。残り物には福があるって本当だったんだな」
「そんなに美味しいんですか?クラマスのドヤ顔を見たときには絶望しましたけど、最下位でラッキーでした。早く飲んでみたいです」
まあどれでも良かったんだけど、ジューサーが一番良かったかもね。正輝も恵梨花も喜んでくれて良かったよ。
「麟瞳、ウチにも作ってくれるやろ」
「私も期待しているよ。フルーツは大好物なんだ」
「クラマス、サブマス、それはあかんわ。これはうちらのもんやで」
恵梨花がドヤ顔で関西弁を使っているよ。よっぽど世那さんのドヤ顔に腹が立っていたんだろうね。
「麟瞳さん、気になっていたんだけど、どうやって携帯ハウスが登録をしていない人から見えないって証明したの?」
真姫からのこの質問には、恵梨花に答えてもらおう。
「通りすがりの探索者に直接聞きました」
皆がズッコケていたよ。
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