第116話 誘う

 オークションが終わり、入金されたカードの残高はとんでもない金額になっていた。


 五月上旬にクラン《花鳥風月》の皆でバトルスーツを購入するために、僕と美姫が購入したメーカーの京都本店を訪ねた。


「お久しぶりっす」

「また会えて嬉しいぜ」


 詩音と皐月が正輝に挨拶をしている。正輝は、オークションに出品した特級ポーションは僕と詩音と皐月と一緒に得たものだから、全額はもらいすぎだと言ってきかない。繋ぐ札を貰ったから気にしなくて良いと言うけどダメである。本当に頑固な奴だな。バトルスーツを買うために京都に行くと言ったら、その日に合わせて正輝もお店に行くと言う。そして今、詩音と皐月が挨拶をしたところだ。

 

「電話では何度か話したけど、会うのは久しぶりだね。元気そうで良かったよ」

「麟瞳、クランを作ったなら俺にも報告しろよ。まさか麟瞳がクランマスターになっているとは思わなかったぞ」

「二百人くらいの報道陣を集めて記者会見をしたんだよ。全国ニュースにもなったんだよ。気付けよ!」

「ハハハ、まあこの前の電話で教えてもらってから、クラン《花鳥風月》の記事が載ってる雑誌を読んだよ。凄いな、結成してすぐに月間ランキング一位だろ。流石だな」


 電話でクランに所属するメンバー全員のバトルスーツを買うと言ったら、クランって何だという話になったんだ。


「今日はパーティでの探索はなかったのか?」

「この前、試しで神戸ダンジョンを探索するって言っただろ。あれも結局ダメになってな。四人だとAランクダンジョンには行けないし、Bランクダンジョンだとテンションが上がらないらしい。麟瞳が《百花繚乱》を辞めた日より、《百花繚乱》は弱くなってるよ。スマン、お前にこんなこと言ってもしょうがないのにな。忘れてくれ」


 いろいろと不満があるみたいだね。後でゆっくり話を聞いてあげよう。


 僕と美姫と正輝はバトルスーツを買わないので暇である。お店の人も気を利かせてくれて、商談席を借りてアイスコーヒーをいただく。


「正輝以外の三人は今日何をしているんだ?」

「さあな、俺が出かけるときはまだ寝ているようだったよ」

「ダンジョンを探索しないと食っていけないだろ。どうやって稼いでいるんだよ」

「麟瞳が《百花繚乱》にいたときの蓄えが残っているんだよ。どうしてこうなったんだろうな、俺達は」

「正輝は今の《百花繚乱》に不満があるようだけど、皆にその不満を言わないの?伝えないの?多分、言わないといつまでも変わらないよ」

「そうだよな。分かっているんだけどね。一度言ったんだよ。上を目指して頑張ろうって。それで、四人でBランクダンジョンを探索したんだ。でも、ダメだったよ。報酬が少ないとやる気が起きないって言ってね。《百花繚乱》は結局、麟瞳が中心のパーティだったんだと思う。麟瞳を追放したら《百花繚乱》はなくなったよ」


 そんなことを言われても………あの日僕は全員一致で追放させられたんだよ。悲しかったんだよ。それを今更報酬が少ないとやる気が起きないって。何だよそれは。僕は皆の強さに憧れていたんだ。僕も強くなりたいって、一生懸命頑張っていたんだ。ガッカリだよ。


「なあ正輝、《花鳥風月》いや、《千紫万紅》に入らないか?一緒にダンジョンを探索しないか?僕はこの前の神戸ダンジョンの探索が楽しかったよ。詩音も皐月も楽しかったって言ってたよ。一緒にハイタッチしただろ、正輝は楽しくなかったか?僕達はいずれSランク探索者になるよ。正輝も一緒にSランク探索者を目指さないか?良く考えてみてよ」


 正輝は僕の言葉が意外だったのか、ビックリした後に深く考えだした。隣にいる美姫はテーブルの下で親指を立ててウインクしてくる。言うつもりはなかったんだけど、勢いで言ってしまった。正輝は責任感が強いから大いに悩むことだろう。


 クランメンバーはどのバトルスーツにするか決めたようで、採寸に入ったようだ。もう少し時間がかかりそうだ。


「正輝は何でここに来たんだ。話をするためではないだろ」

「ああ、皐月ちゃんは今月誕生日だろ」

「さあー、知らないな」

「リーダー、それはないです。大体、名前を聞いただけで普通わかると思います」

「そうか。皐月は花の名前だし、五月の別名だよな」

「それでこの前の報酬はもらいすぎだから、プレゼントを贈ろうと思ってな。一人だけだと悪いし、詩音ちゃんにも何ヶ月か早い誕生日プレゼントを贈るよ。麟瞳にも誕生日プレゼントを贈ろうか?」

「僕はいいよ。高校入学から一度も貰ってないのに、今更貰っても違和感しかないよ。皐月と詩音は喜ぶと思うよ」

「何が良いと思う?」

「美姫、何が良いと思う?」

「そうですね~、あの二人はダンジョンに入ること以外に趣味はありませんから、ヤッパリ探索者に必要なものでしょうか?」

「そうだよな。《千紫万紅》は僕以外は全員戦闘狂だもんな」

「リーダーが一番戦闘狂ですよ。帰還石も使わずレアモンスターと戦うのは相当な戦闘狂だからです」

「麟瞳はまたレアモンスターと戦ったのか?凄い確率だよな」

「ヤバかったよ。二トン車ぐらいの大きさのビッグボアの変異種で自動修復の刀が修復が追い付かず折れて、僕は吹き飛ばされたんだ。それこそ、ここのバトルスーツとヘルメットがなかったら死んでいたよ」


 装備品は充実しているから、美姫も何がプレゼントに良いか分からないらしい。本人に直接聞くのが一番ということで、戻って来るのを待った。


「プレゼント?じゃあ、今度一緒に神戸ダンジョンに行って欲しいぜ。Bランクダンジョンは最高だったぞ」


 同じBランクダンジョンを探索するのに、報酬が少なくてやる気が起きない奴もいれば、最高だったと喜ぶ奴もいる。まあ報酬も最高だったけどね。


「神戸ダンジョン最高っす」


 ここにもいたよ。二人とも同じプレゼントで良いみたいだ。正輝、簡単で良かったな。お金は逆に増えそうだけどね。











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