第106話 Bランク神戸ダンジョンに
土曜日の朝早く、《桜花の誓い》の六人は美姫が運転する車で岡山へと帰っていった。美姫は橘父さんに魔物肉を届けるために一旦帰って、明日の夜にはこちらに戻って来るらしい。お疲れさんである。
僕は《桜花の誓い》を見送った後に悩んでいた。
「リーダー、何をしてるっすか?」
「詩音、皐月はどうしたんだ?」
「皐月はまた寝るって言って部屋へ戻ったっす」
「見送りするために起きただけでも奇跡かも知れないな。今日はこの後どうしようかと思っててね。赤穂のDランクダンジョンに行くか、それとも神戸の………」
「神戸のBランクダンジョンに行くっすか?リーダーはAランカーだからBランクダンジョンを完全攻略してるっすよね。何処のBランクダンジョンを完全攻略したっすか」
「神戸と大阪と京都の三ヶ所を完全攻略しているけど、道案内と荷物持ちが主な役割だったから、今度は自分も戦力として完全攻略したいよね」
「ソロはきついっすよね。私がお供して、頑張るっす」
「いや、神戸には………」
「このままソロで行かせては、美姫に怒られるっす」
詩音が物凄くやる気になっているんだけどどうしようか?僕は神戸の中華街にランチを食べに行こうと思ってただけなんだが………今更やる気を削いでも良いのだろうか?
「詩音は神戸ダンジョンに行きたいの?」
「ええ、絶対にお供するっす」
「皐月はどうするんだ?起きたときに誰もいないと心配するだろ」
「声をかけて来るっす。起きなければ書き置きをしておくっす」
成り行きでBランクダンジョンに挑戦することになってしまった。まあ、低階層なら大丈夫だと思うよ。いきなり強い相手がバンバン出てくる訳ではないし、詩音も福岡ダンジョンの二十九階層までは攻略出来るんだもんね。
以前は自衛しながら皆のサポートをしていただけだったから、本当の意味でBランクダンジョンがどれくらいの難易度なのか分かっていないと思う。実際にBランクダンジョンがどんなものかを試してみるのも良いかも知れないな。低階層だけの探索しかしないけどね。
「皐月もダンジョンに行くって用意を始めたっす。ダンジョンに関することなら、眠気が吹っ飛ぶみたいっす」
皐月らしい行動がおかしくて笑ってしまったよ。ダンジョンに向けての準備は収納の腕輪にすべて入っている。二人もマジックポーチにほとんど収納しているはずなのですぐに用意は出来るだろう。
「よし、じゃあ出かけるか。朝御飯を皐月は食べてないよな、駅へ行く途中でパンでも買っていくか?」
「おう、頼むぜ。腹が減っては戦ができないからな。初めてのBランクダンジョンだ。ワクワクするぜ」
パンを多めに購入して駅に向かう。電車で四十分かからずに神戸駅に到着して、バスに乗り換えて三十分で神戸ダンジョンに着いた。
やはりBランクダンジョンだと雰囲気が違ってくる。プロはBランクダンジョンからと言われるだけあって、装備がCランク以下のダンジョンとは違う人が多くなっている。
「リーダー、バトルスーツの人が多いっすね。福岡ダンジョンにはこれ程いなかったっす」
「ああ、強そうに見えるな。オレも本気で買おうと思うぞ」
身近にバトルスーツを着ている探索者が二人もいるんだが、僕と美姫は強そうには見えないのだろうか?少しへこみながら探索者センターへと移動する。
「麟瞳、なんでここにいるんだよ!」
探索者センターの中に入っていきなり声をかけられた。《百花繚乱》のリーダーの奈倉正輝がそこにいた。
「正輝こそなんでここにいるんだよ。京都にもBランクダンジョンがあるだろう。僕よりも変だよね」
「ああ、新メンバー候補の人とここで月曜日にお試し探索をするんだよ。その下調べの為に今日は来たんだ。麟瞳はどうしてここにいるんだ?」
「え、悠希達もいるのか?会いたくないんだけど」
「今日はオレだけだ。三人は明日の夜に合流するんだ」
「なんだ、メンバーは増えてないのか?結構時間が経っているよね。人気ありそうなパーティに思えるけどな」
「ああ、例の求人票でお試し探索をしたり、実際にパーティを組んで探索してもなかなか続かなくてな。新しいパーティメンバーを見つけるのは難しいな。そちらの二人は麟瞳のパーティメンバーなのか?」
「そうだよ。紹介するね。こちらが原田詩音でアタッカーだ」
「どうも、原田詩音っす。よろしくお願いしまっす」
「俺は奈倉正輝、麟瞳とは高校以来の付き合いで、元パーティメンバーだ。よろしく」
「で、こちらが神楽皐月でタンクだ」
「よろしくお願いするぜ!」
「おう、元気が良いな。こちらこそよろしく」
「もう一人、パーティメンバーがいるんだけど今日は休みの日だから岡山に用事で帰っているよ。僕達は休みの日の暇つぶしだね。今はCランクの姫路ダンジョンを完全攻略するために姫路に拠点を構えているんだ。休みに何をしようかと悩んでいたらここに来ることになったんだよ」
「暇つぶしなのか?じゃあ、一緒に探索しないか?俺も一人だと面白くないと思っていたんだ」
「じゃあ、パーティメンバーを誘えば良いのに?………ちょっと待ってね。三人で話し合うよ」
正輝から少し離れて三人で話し合う。
「リーダーを追放したパーティメンバーっすよね。リーダーはよく普通に話していられるっすね」
「ああ、正輝とは脱退した後も友達なんだよ。僕が前のパーティを辞めた後に、正輝が僕の家に泊まって一緒に探索も何回かしたこともあるんだ。綾芽とも仲良いし、一緒に探索もしている。信用できるし、何より今まで僕が見た中で最高の強さを持つ奴だ。火魔法の剣を持っているのは詩音と一緒だね」
「リーダーがべた褒めするほど凄いのか?」
まあ、二人の良い経験になるだろう。特に詩音は同じ火魔法の剣だ。何か勉強になるかもしれない。
「じゃあ、お願いするよ。十階層までで良いかな?こっちの皐月はBランクダンジョンは初めてなんだ」
「了解だ。配分は四等分でいいかな?麟瞳がいると凄そうだけど」
「ああ、それで頼むよ。正輝が思ったよりも実入りが良かったら、晩御飯でも奢ってくれると嬉しいよ」
「了解だ」
以前ここで一度情報を買ったことはあるが、その頃はヘルメットは装備していなかった。とりあえず、十階層までの情報を買い、ヘルメットに情報を取り込んだ。全員が揃い、いよいよダンジョンに入るための手続きを行った。ダンジョン前の転移の柱の前でパーティ登録をして、皆で柱に手を触れる。一階層に転移した。
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