第86話 オークション

「リーダー、試験は出来ましたか?合格できそうですか?」

「多分、大丈夫だと思うけど………」


 今日は仮免を取るために自動車教習所にやって来た。午前中に技能終了検定に合格しているので、この仮免許学科試験に無事に合格すれば、仮運転免許証が発行され路上教習が始まる。僕が落ちて、美姫だけが合格すれば何を言われるか分かったもんじゃない。勉強は苦手ではあるが、一生懸命教本を見直し練習問題を解いて試験を受けた。大丈夫であってほしい。


「美姫は大丈夫なのか?」

「勉強は苦手ですが、リーダーには負けたくありませんから頑張りました。何とか合格点には届いていると思います」


 美姫も僕と同じように思っていたようだ。お互いに負けたくないと思って勉強したのなら、二人で教習所に来て良かったのだろう。後は結果がついて来れば何もいうことはないのだが。


 しばらくして合格発表があった。二人とも合格していてホッとした。窓口で仮運転免許証を受け取り嬉しくなる。今日は倉敷ダンジョンに行くことなく、そのまま家に帰った。


 岡山ダンジョンの探索も順調に進んでいる。三十五階層のボス部屋が一つの山だと思っていた。美姫と詩音と僕はCランクダンジョンは完全攻略している。マジックアイテムや魔法の使い方に悩みながら探索しているが実力で劣ることはない。真姫が武器持ちのホブゴブリンを相手に怯まずに戦えたことが大きかった。皐月の存在があってのことだろうが、三十五階層のボス部屋をクリアして自信もついたようだ。あの戦いで完全攻略に一歩近づいたのは確かだろう。


 四十階層のボス部屋は新しくゴブリンヒーラーが入ってきた。仲間の回復をされて戦闘が長引けば危なくなることもあるかもしれないが、《千紫万紅》ではゴブリンヒーラーは最初の遠距離攻撃の標的になる。美姫の矢が貫いた時点で勝負はあった。


 四十五階層のボス部屋は今までのボス部屋より広くなり、ゴブリンの数が多くなったが、出てくるゴブリンの種類は変わらない。最初に前衛には僕の風魔法の風の刃を、後衛には美姫の爆裂の矢をお見舞いして戦闘を開始した。今のところこの二つの攻撃が《千紫万紅》の最大火力の攻撃だと思っている。爆炎魔法のスクロールの方が当然破壊力は大きいだろうが、これは一回きりの切り札である。


 数を減らした後に戦闘を開始するが、今までと変わったことが一つある。前日までのボス部屋の攻略で土魔法のスキルオーブを手に入れた。このスキルオーブを皐月が使い、チームの全員が魔法攻撃を手に入れている。まだまだ威力が足りないところもあるが、使わないと威力が上がらないことは分かっている。戦闘開始と同時に魔法が乱れ飛ぶ。魔法攻撃の後はいつもの近接戦闘で倒していく。皐月と真姫のコンビで最後のホブゴブリンを仕留めて攻略を終えた。


 皆のハイタッチで喜びを共有し、次の最終階層のボス部屋への挑戦に胸を踊らせる。十月の第一金曜日に照準を絞り、全員が成長出来るように攻略を進めよう。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「麟瞳さん、いくらで落札されると思う?」


 30日のダンジョン探索中のセーフティーゾーンで真姫が聞いてきた。


 《千紫万紅》にとっての九月最大のイベントが、29日と30日の探索者協会主催のオークションサイトへの特級ポーションの出品である。探索者協会も力を入れて告知、宣伝をしたようで世の中の関心を集めている。29日は五千万円の開始価格から少しずつ値段が上がっていった。30日に僕達がダンジョンに入る前には九千万円を超えていた。


「ダンジョンに入る前には九千万円は超えていたから、最終的には一億円に届くのかな?」

「真姫、一億円ならオレにはいくら入るんだ?」

「そうねー、手数料で8パーセントと税金で15パーセント引かれるから合計23パーセントでしょ。七千七百万円になるから、その半分の三分の一で千三百万円に少し足りないくらいかしら」

「凄い金額っすね。その時にいなかったのが残念っす」

「詩音、また次回チャンスがあると思います。それにいつもの探索の報酬でも十分過ぎるくらい貰っています。リーダーには本当に感謝しています」

「そうっすよね。Cランクダンジョンで十分な報酬が貰えるだけでおかしいっすよね。私もリーダーには感謝してるっす」


 探索を終えて、探索者センターの部屋で買取りをしてもらった時にもこの話題になる。


「麟瞳さん、い、い、一億円を超えてるよ!」

「今日の何時までやっているんだ?」


 常盤さんが戻って来て会話に加わる。


「今日の21時が最終です。まだ本気の方は参加してないようですし、最後の30分からが勝負ではないのでしょうか」

 

 常盤さん、あんまり怖いことは言わないでね。もう一億円で僕達ビビってますから。


 買取り金額は結構な金額になり、それぞれのカードに入金して貰った。明日から大学も始まるので、真姫と皐月は月金の参加になる。そして次の金曜日がこの岡山ダンジョンを完全攻略する日になることを皆で願っている。


 オークションの行方も気になるが、金曜日の方がもっと気になる。家に帰り、晩御飯を食べて風呂にはいった。あとは寝るだけという状態で、最後のボス部屋のオーガの情報を見ていた。


「麟瞳さん、二億三千万円だよ!」


 電話で真姫が落札価格を教えてくれた。




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