第71話 レアモンスター討伐とCランカー
土曜日と日曜日は朝の鍛練を一人でおこなった。綾芽は月曜日に完全攻略出来るようにと《桜花の誓い》のメンバーと倉敷ダンジョンで練習をすると言って、両日とも朝早く家を出て行った。
僕は土曜日は自動車教習所に行って説明を受けて、そのまま入所の手続きをした。九月から通うことにして、早ければ一ヶ月と少しぐらいで免許を取ることが出来るらしい。
日曜日にはポーション類のストックを増やすため岡山ダンジョンの探索に向かった。狙い通り宝箱からいつもの二種類の中級ポーションをゲットして、更にマジックアイテムも得ることが出来た。僕だけで探索するときには何故か銀色の宝箱が出てくる。パーティで探索するときには銅色の宝箱なのに不思議だね。
マジックアイテムは自動マッピングツールというもので名前の通りの性能らしい。完全攻略されているCランクダンジョンでは、ほとんどのダンジョンの地図情報は無料で取ることが出来る。不人気ダンジョンがサービスしないと誰も人が来ないダンジョンになってしまうからね。
Bランクダンジョンからは情報にもお金がかかる。プロの探索者はBランクからと言われるだけあって、収入も大きく変わって来る。だから情報にもお金をかけるし、情報を売ることが出来るようになる。Bランクダンジョンに行くまでは収納しておこう。いずれ役立つアイテムである事は間違いない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
今日は月曜日、倉敷ダンジョンの二十六階層のセーフティーゾーンに転移してきた。
「今日で倉敷ダンジョンを完全攻略するよ!」
《桜花の誓い》のメンバーの気合いが凄いことになっている。もっと肩の力を抜いて普段通りの力が出せれば結果はついて来るだろう。探索を開始した。
探索は至って順調に進んだ。土日の練習が活きているのか、魔物によってフォーメーションを変えながら討伐していく。ゆっくりとだが、確実にゴールへと向かって行った。
異変が起きたのは三十階層、このダンジョンの最終階層だ。この階層も途中までは順調に探索できていた。だが、一気にダンジョンの様子が変わった。魔物がざわめきだし、大きな移動が始まった。
ダンジョンの奥から階段の方へ、つまり僕達の方へと魔物が殺到して来た。とても相手に出来るような数ではない、慌てて魔物の進路を横切るように移動した。その移動する途中に見えた。黒いとてつもなく大きな魔物がこちらに向かってきている。その魔物から逃れるために他の魔物の移動が始まったのだろう。
階段の方に逃げても他の魔物でいっぱいだ。そのまま魔物の進路を横切るように進んでいく。幸い大きな魔物の進路は階段の方に向かっている。やり過ごした後にボス部屋の方に向かって行くのが良い選択になりそうだ。
「黒くて大きい魔物が通った後に、ボス部屋の方に全力で走るぞ。他の魔物はいないだろう。とにかくなにも考えずに全力を尽くして走るんだぞ。今の僕達に相手が出来るような魔物ではない」
なんか金曜日の探索の時に綾芽がフラグを立てたっぽい事を言ってたんだよな。まさかこんなことが起こるとは思わなかった。フラグが回収されないように全力を尽くすのみだ。最低この五人娘を無事に帰さないと、保護者として失格だよね。
魔物が通過するのを待っていると、突然魔物の進路が大きく変わった。何故か僕達の方に向かって来たのだ。
よく見ると魔物の前を走る人がいる。そいつが僕達に魔物を擦り付けに向かって来た。
「やばいぞ、あいつが僕達に魔物を擦り付けに来る。考えている時間はない。僕が時間を稼ぐから、皆は予定通りボス部屋目掛けて全力で走れよ。なにも気にせずに全力で走るんだぞ」
「お兄ちゃん一人を置いていけないよ」
「僕はAランカーなんだよ。それに皆がいたら足手まといなんだ。他のことが気になって戦えないんだよ。綾芽は皆のリーダーなんだ、ちゃんと皆をリードしていけよ。ボス部屋の前で集合しよう」
ご丁寧に擦り付けに来た奴は、通りすがりに口角を上げやがった。
「皆、全力で走れ!」
近くに来て分かった。相手はビッグボアの変異種のようだ。二トントラック程の大きさがある。僕はファイヤーボールを黒いボアの目に向かって撃っていく。タゲを取ったようだ。綾芽達とは逆方向に向かって走った。
ここまで来れば綾芽達を追いかけることはないだろう。後はどれだけ時間稼ぎが出来るかが勝負だ。
ボアと向き合い刀を構える。勝負は一瞬、すれ違いざまにボアの足元に向けて全力で刀を振り切る。
刀が折れて、僕は吹き飛ばされた。何度も地面に打ち付けられた。体中が悲鳴を上げている。このバトルスーツを着ていないと一発でやられていたな。白いジャケットはもうボロボロになっている。このままだとヤバいな、武器もなくなってしまった。
諦めるわけにはいかない。まず高級ポーションを飲んで体力を回復する。一気に飲み干した。正輝に一本貰っておいて助かった。まだ戦うことが出来そうだ。
予備の武器の封印を解いてもらっていない。まさか棍棒で戦うことは出来ない。まずは出来ることをしよう。
靴を風魔法の付与されたものに変えた。かなりスピードが速くなるはずだ。こんな事なら履いて慣らしておけば良かったと思うが後の祭りだ。
方向転換したボアが向かってきた。直前で回避する。あまり上手に使えているとは思えないが、動き自体は速くなったのを実感した。もしかしたら、この靴ならデカいボアから逃げきれるかもしれない。でも、まだダメだ。綾芽達が目視出来る。もうちょっとボアを引き付ける必要がありそうだ。
また向かってきたボアを回避した。そして、もう一度向かってきたボアを回避したときにボアがそのまま通り抜けて綾芽達の方へと向かった。まずいぞ!この距離でなんで追いかけていくんだよ。見立てが甘かった。
封印されて今は使えない武器を取り出し、恨めしく見る。またあの心が感じる感覚が襲ってくる。僕は武器ケースの封印を解いた。
手にしたのは不壊と風魔法が付与された刀だ。
全力で魔力を靴へと流しボアを追い越し、ボアと向き合う。
刀を上段に構えて全力で振り下ろす。大きな風の刃がボアを正面から襲う。
すれ違いざまに刀で足元を全力で払う。ボアの突進がようやく止まった。
最後にボアの目に向かい刀を全力で突き刺した。切先から放たれた風の槍が目から脳天まで貫いた。
僕は大の字に倒れ込み叫んだ。
「やったぞー!」
………ここはもうちょっとカッコイイ言葉を言えば良かったと反省する。
全力でマジックアイテムを使ったせいか気持ち悪い。完全に魔力枯渇になっている。中級魔力ポーションを飲んでからドロップアイテムを収納した。
銀色の宝箱もドロップしている。中からはまたまた指輪が出て来た。前に正輝とレッドワイルドボアを倒したときも指輪だったなと思いながら回収する。
水分補給をしてからボス部屋を目指す。魔物にはエンカウントすることなく到着することが出来た。
皆が泣きながら迎えてくれた。更に魔物を討伐したことを告げるとビックリしていた。あの大きさはないよね。本当によく倒せたものだと思う。
ひとしきり泣いて驚いた後は、今日の目標を達成してもらわないといけない。最後にボス部屋を《桜花の誓い》に攻略してもらおう。
ボス部屋に六人で入り、扉が閉まる。相手は三匹のオークだ。僕は後から見守ることにする。
一匹は綾芽が速攻で倒した。残りの二匹を桃と山吹の二人で攻撃を防ぎながら遥と真琴で攻撃を加える。一匹討伐した綾芽も参戦して勝負がついた。ドロップアイテムを回収していると銀色の宝箱が現れた。
「お兄さんが開けてください。夏休みの間ありがとうございました。最後にハプニングがあったけど、私達の力で完全攻略してプレゼントしたかったです」
代表で真琴が言葉をかけてくれたが、皆の心意気を汲んで素直にもらうことにする。中からは本が出てきた。下手に本を開いてなにかが起こっては大変だ。すぐに収納しておいた。
「宝箱ありがとうな。これで皆もCランカーだ。夏休みの間、良く頑張ったよ。おめでとう」
転移の柱からダンジョンの外へ転移した。いつものように武具店で用事を済ませて、買取りへと向かう。今日は報告しないといけない事もある。入場受付に向かい部屋へと案内してもらった。
「三十階層でレアモンスターを擦り付けられました。報告したいんですが、支部長の村上さんはいらっしゃいますか?」
村上さんが部屋にやって来た。
「魔物の擦り付け行為があったと聞いたのですが?」
映像を繋がせてもらい、説明をしていく。途中でぐるぐる回転する訳の分からない映像が入ってくるが僕には分かる。一体何回転してるんだよ。良く無事でいられたな。衝撃耐性のあるバトルスーツやヘルメットの装備品は本当に頑丈に出来ている。買ってて良かった。命を助けられたよ。
レアモンスターの討伐まで見て、脅威はなくなっていることを伝えた。ドロップアイテムを見せればここまで見なくても良かったと後で思った。
「映像のコピーをいただけますか。証拠として保管したいと思います。まずは警察に連絡します」
まだ帰ることは出来そうにない。ドロップアイテムの買取りをしてもらい、この部屋でお弁当を食べさせてもらうことにする。お腹が空いたよ。
警察が来てまた同じ説明をする。完全に狙っての行為である。厳しく対処してもらわないと腹が立つ。
警察に言われて気づいたが、あの擦り付け野郎のパーティメンバーはどこに行ったんだ?おそらくパーティメンバーがやられている間に逃げ出したのではないかと予測していたが。あながち間違ってはいないように思う。あくまでも予測なので他では言わないでくれと頼まれた。
警察の事情聴取も終わり買取りの話をしてもらう。今回はレアモンスターのドロップアイテムと宝箱から出てきた物は僕の物になった。ウルフエリアに行っていないので収入はいつもよりかなり少なくなっているが、そんなことを気にする子はいない。僕一人だけが気にしていたようだ。
皆は満足した顔で新しくCランク探索者へと昇格したカードに入金してもらっていた。
レアモンスターのドロップアイテムは大きな魔石と大きなお肉、そしてとてつもなく大きな皮だった。魔石は買い取って貰ったがそれ以外は持ち帰ることにした。
宝箱から出てきた物は、指輪は魔法効果増大のマジックアイテムで、本は大阪のSランクダンジョンについてかかれた書物らしい。なんでここのダンジョンから出てきたのか意味不明である。それぞれのダンジョンに繋がりがあるのだろうか?本は国が買い取るらしい。代金は後日貰えることになった。目標ではあるが、当面Sランクダンジョンに入ることは出来ない。国というか攻略している自衛隊の人達の役に立てるのなら幸いだ。指輪は当然持ち帰ることにする。
もう暗くなった。犯人はまだ捕まっていない。もしかしたらダンジョンから出てくることは一生ないかもしれない。後は警察に任せて、ダンジョンを後にした。
いつものファミレスではなく焼肉屋に移動する。どうも最近の僕はグルメに目覚めたのか美味しい料理を欲している。もう夏の暗くなる時間だ晩御飯を皆で食べて打ち上げにしよう。勿論それぞれの家と寮には連絡を入れて事情は話している。
焼肉を食べ終わり、家に帰る時には真琴と遥の親御さんが心配して迎えに来てくれた。桃と山吹も遥の父親に送ってもらうことになり一安心だ。僕と綾芽も送ってくれると言ってくれたが断って電車で帰ることにする。
電車で二駅、徒歩十分。我が家に帰ってきた。両親共に僕達が顔を見せると抱きしめてくれた。いつも心配かけてゴメンね。綾芽、僕という順番で風呂に入って早めに寝ることにする。今日は本当に疲れた。寝る前にダンジョンカードを確認した。
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ランク:A
名 前:龍泉 麟瞳
スキル:点滴穿石 剣刀術 豪運 全探知 全解除 火魔法
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やっぱりスキルが進化していた。
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