第69話 《桜花の誓い》と倉敷ダンジョンの二十六階層へ
木曜日は《桜花の誓い》と倉敷ダンジョンを探索するため朝が早い。四時半に起きてまずはお弁当を作ってくれている母さんがいる台所へと向かう。
「母さん、おはよう。朝早く起きてもらっていつも悪いね。今日は何か食材で出しておくものない?」
「おはよう。麟瞳は今日の晩御飯で食べたい物は何かあるのかい?」
「そうだな~、皆生温泉ダンジョンで手に入れた貝とエビをまだ食べてないから、それを調理したものが食べてみたいかな」
「貝とエビか。いいね、腕が鳴るよ。楽しみに帰ってきな」
収納から貝とエビを出し、更に坂出ダンジョンの梅を出しておいた。梅酒を作るらしい。うちは梅干しではなく梅酒になるのはしょうがないよね。
綾芽も起きてきたので、朝御飯を食べて忘れ物のないように準備をして家を出た。
いつものように岡山駅から電車に乗って来た三人と合流して倉敷ダンジョンを目指し、最後のメンバーの真琴と探索者センターで落ち合った。皆体調は良さそうで、朝から元気が良い。着替えてから入場手続き等を終わらせ練習場に移動した。
「今日は二十六階層からの草丈の長い場所での戦闘に慣れてもらうことが一番の目的だ。午前中は十一階層からのウルフエリアで身体の調子を整える事と資金稼ぎをして、次に二十一階層からのボアエリアで、このダンジョンの強敵との戦闘訓練をする。昼御飯を食べた後に二十六階層からの探索に取り掛かる予定で良いかな」
ストレッチをしながら、僕の案を提案して了承してもらった。
ダンジョンの十一階層に転移した。見慣れたウルフエリアには他の人は見当たらない。元々不人気エリアであることと、朝の早い時間であることが重なってちょうど良い。いつも通りここでは《桜花の誓い》と離れて自由に討伐させてもらう。
魔法の練習が僕の目的だ。ここのところの戦闘で一発の攻撃力が上がっているのを感じる。更に魔法を使用していれば技が増えると《百花繚乱》のリーダーの正輝が言っていた。すぐにとはいかないだろうが、積み重ねが大事なのは何でも同じである。一発に思いを乗せて今日も戦闘を開始した。
十六階層の転移の柱に到着した。ここから二十一階層に転移し、セーフティーゾーンで水分補給をしながら休憩をする。
「最初にここのダンジョンに来たときはウルフに苦戦していたのに、今では安定して倒せているね。一ヶ月半で変わるもんだ。若いって成長が早くて良いね」
「何を爺臭いことを言ってるの、全部お兄ちゃんのおかげだよ。皆感謝しているからね。何とか夏休み中にお兄ちゃんの前で完全攻略するから、しっかりと見ててね」
綾芽の言葉に皆が頷いている。嬉しいことを言ってくれるもんだ、目標に近づくために探索を再開しよう。
この階層での目標はワイルドボアとビッグボアに対して危なげなく討伐することである。足元の良いこの階層で苦戦している様では、二十六階層以降の草丈の長い場所での戦闘は心許ない。僕は後ろで見守りながらボアとの戦いを見せてもらいましょう。
前回の時にも驚いたが、桃と山吹の二枚盾はワイルドボアの突進をガッチリと受け止め、そこに槍のアタッカー二人で止めを刺す。完全に戦略として確立しているようで安定感がある。ビッグボアは軽トラック程の大きさがあるのでワイルドボアのような戦い方は出来ない。綾芽だと【身体強化】のスキルでスピードとパワーで圧倒できると思うが、チームとして戦うことを重視しているのか、盾でいなし槍と弓矢で少しずつビッグボアの脚を削り動けなくしてから討伐している。大分練習を重ねたのだろう、これなら次の段階に進んでも大丈夫そうだ。
二十一階層の転移の柱に戻り、そこから二十六階層に転移した。セーフティーゾーンでお昼御飯にする。
食後に水分補給をしながら、ここからの階層を攻略する上で以前に僕が感じたことを伝える。
「草丈が長いから小型の魔物を目視出来ないのが一番の難点だ。大型の魔物はすぐに目に入ってくるが、そちらばかりに意識を向けていては見えないところから攻撃を受けてしまうことがある。五人いるんだ分担すれば良い、見えている魔物、前後左右の状況を見落とすなよ。あとはドロップアイテムの回収、特に魔石は見つけにくい。諦めることも必要になるからね。草の動きと音に細心の注意をしながら探索をしていこう」
セーフティーゾーンでフォーメーションを考えて探索を再開した。前衛に左右別れて盾職の二人が位置し、後方に槍のアタッカーが左右に別れる。四人の真ん中に真琴が入り遠方を警戒しているようだ。僕はフォーメーションに関して何も言っていない。五人で考えた結果がこのフォーメーションになったんだ。
僕には魔物が近づいて来るのが分かる。【全探知】スキルの効果である。でも、敢えて何も言わずに五人に任せる。
「左から近づいて来ているよ。桃がブロックして遥が止めを刺して、他は周りにも注意していこう」
左から突進してきたのはホーンラビット、綾芽の指示通りに討伐してドロップアイテムを回収する。五匹のウルフにもエンカウントしたがしっかりと対応出来ていた。二十七階層まで探索してから二十六階層の転移の柱に戻ってきた。ビッグボアも討伐できた。討伐中に他の魔物が割り込んで来ることがなかったこともあり、問題なく終わることが出来た。これなら次の月曜日に完全攻略ができると思う。転移の柱からダンジョンの外へ転移した。
いつものように武具店で武器のメンテナンスと矢の補充を行い、いつもの部屋で買取りをしてもらった。
ダンジョンを出ていつものファミレスで反省会をして帰路につく。あと一回で責任が果たせると思い心が軽くなる。無事に完全攻略出来ますように。
家に帰ると母さんが晩御飯の用意をしていた。綾芽と僕が手伝おうとしたが休んでおけと言われシャワーを浴びてマッタリしていた。父さんも仕事から帰ってきて皆で晩御飯をいただきましょう。
エビとくれば皆は何を思い浮かべるのかな?僕は真っ先にエビフライだ。定番中の定番だが外せない一品だろう。らっきょう入りのタルタルソースを絡めて食べると至福の味がする。エビマヨ、エビチリ、ダンジョン貝の酒蒸し、貝とひじきの炊き込みご飯、食べきれないほどの料理が並んでいる。余っても僕の収納にストックできるので安心なのだろう。お腹いっぱいになるまで食べて、ごちそうさまでした。
「母さん、美味しかったよ。ありがとう」
食べすぎたようだが、風呂に入り幸せな気分で寝たよ。言い忘れていたけれど、毎日安眠三点セットは装着しているよ。これらがないともう安心して眠れない。良い物を貰ったと思っているよ。
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