第67話 僕の価値
僕がお試し探索の後に岡山ダンジョンから家に帰って来た時には、既に綾芽も帰宅していて母さんの手伝いをしていた。
「お兄ちゃん、お帰り。今日は二十五階層まで攻略してきたよ。頑張ったでしょ」
「ああ、よく頑張ったな。《桜花の誓い》には、もうDランクダンジョンを完全攻略する力は十分あると思うよ。ただ、変に褒めると油断してしまうと思って皆には言ってないけどね。二十六階層を見てきたか?草丈が長いのが厄介だからな」
「ちゃんと見てきたよ。確かに見た目が二十五階層までと違っているよね。あと二日で完全攻略できるかな?」
「まあ頑張ってもらうさ。夏休みの最初に掲げた目標だからな、クリアしてもらわないと僕が困るよ」
今日はお魚中心の和食だ。皆生温泉ダンジョンで出てきたトビウーオのドロップアイテムを塩焼きにしたものに、坂出ダンジョンで手に入れたカボチャの煮付けと五重ダンジョンで手に入れた茄子の揚げ浸しそれにお吸い物とご飯で完成だ。父さんも仕事から帰ってきたので皆で晩御飯をいただきます。
ダンジョン産の食材は美味しい、更に母さんが料理すると美味しさが倍増するように感じる。母さんも食費が安くなって大助かりだと喜んでいる。ダンジョンさまさまだね。
「お兄ちゃん、今日は求人票で募集した人とダンジョンに入ったんでしょ。どうなったの?」
「パーティを組むことに決まったよ。これでボッチから脱出出来て嬉しいね」
「ねえ、どんな人なの教えてよ」
「綾芽にマジックポーチを渡した時の探索映像を覚えているか?あの時にボス部屋の前で話しかけてきた女の子がいただろ。その人の双子の妹だよ。優秀な弓術士だ」
それからもいろいろと聞いてくるが適当に答えておいた。個人情報は漏らさないようにしましょう。
「母さんの弁当は誰が食べても絶賛するよ。いつも美味しいもの作ってくれてありがとう。岡山ダンジョンを完全攻略した後には、県外に遠征すると思うからこれからもよろしくね」
母さんも褒められて嬉しいのだろう。二つ返事で任せておけと言ってくれた。
今日の晩御飯も美味しくいただきました。ごちそうさまでした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
次の日も朝の鍛練の後に約束通り岡山ダンジョンにやって来た。ダンジョンに入る手続きを終えて練習場に移動する。
ストレッチをしながら今後の活動について話し合う。
「美姫さん、週に何回ダンジョンに入るのかある程度決めておこうと思うんだけど、どうしましょうか?」
「その前に時々出てくる変な丁寧な言葉とかを直してほしいんですけど。それに呼ぶときにさん付けは要りません。私もこれからはリーダーって呼ぶようにします」
「あのー、いきなり名前の呼び捨てはハードル高いんだけど」
美姫さんがこちらを睨んで来る。
「分かったよ。お互い遠慮せずにいこう。で、美姫、週に何回ダンジョンに入るか決めようか?」
「なんでそこで私の名前が入ってないんですか!そこは真姫、美姫、週に何回ダンジョンに入るか決めようか?キリッ、でしょうが!」
相変わらずの真姫である。相手はしなくて良いだろう。
「週に四回、月火木金が良いと思います。あんまり連続も良くないと思いますし、水土日は個人練習をしたいと思います。パーティでの課題が見えたときはその時に考えましょう」
「了解だよ。今度運転免許を取ろうかと思っててね、水土日が休みならそこで集中して時間も取れそうだし、都合が良いよ」
「運転免許証ですか?良いですね。どこで取るか決めていますか?」
「倉敷駅の側に教習所があるんだよ。そこに行こうかと思っている。帰りについでに倉敷ダンジョンに寄って、魔法の練習プラス肉の確保も出来るし一石二鳥?一石三鳥になるからね。それから明日の木曜日と来週の月曜日は申し訳ないけど変えて欲しいんだ。先約があって外せないんだ」
「先約って?」
「高校生が夏休みの間、妹達のパーティに付き添って倉敷ダンジョンに行ってるんだよ。後二回で完全攻略出来そうだし、約束もしているしね」
「分かりました。今週は金曜日の一回と来週は火木金でよろしいですか?」
「無理言ってゴメンね、助かるよ」
「なんで私を無視して話を進めるんですか!」
当面の予定も決まったし、もう一つのことも提案しよう。
「この矢筒はマジックアイテムなんだけど、無限に矢がコピーされて出てくるらしいんだ。美姫が使ってみないか?」
「何ですかそのとんでもない性能のマジックアイテムは。買取り価格はいくらなんですか?」
「確か、一千万円だったかな。ここのボス部屋で手に入れたんだよ。これを使えば矢の代金も節約できるだろ?」
「使わせてもらいますけど、買取り金額の分配を考え直しましょう。昨日もCランクダンジョンを五階層探索しただけで八万円も貰えるなんておかしいです。麟瞳さんの【豪運】スキルが無いとありえません。他にどんなマジックアイテムを手に入れたのか分配の参考にしますから全部教えて下さい」
「教えないとダメなの?」
「あくまでも参考にするだけですから。他の人には絶対に言いませんから安心して下さい」
「岡山に帰って来てからの物で良いよね。まず少し素早くなる靴で五万円、健康の効果が付与されたイヤリングで十五万円、容量が三十立方メートルのマジックポーチで五百万円、僕の身につけている収納の腕輪で三億円、それから………」
「ちょっと待って下さい!三億円っておかしいですよね。全部聞いたら頭がおかしくなりそうです。マジックアイテムの総額はいくらぐらいになるのか、大体でいいので教えて下さい」
「ちょっと待ってね。ウ~ン、大体八億円を超えるぐらいかな~?」
「は、八億って、その腕輪級のマジックアイテムがポンポン出てくるんですか?」
「流石に三億円は一回だけだよ。一億円ぐらいの物が三個と三千万円ぐらいのものが四個かな?他にもまだあるから、まあ八億は超えていると思うよ」
「マジックアイテムを買取りしてもらえば、一生食べていけるのではないでしょうか?」
「僕の目標はSランクの探索者になることなんだ。ここで得たマジックアイテムは全部売っていないよ」
「分かりました。リーダーが全体の半分で残りの半分を他のメンバーで分けるようにしましょう。何人メンバーが増えてもです。それにマジックアイテムはパーティで使えるものは残しておいて、貸し出すという形にしましょう。メンバーが脱退するときにはパーティに返却するように決めておいた方が良いでしょう。何か意見はありますか?リーダー」
「僕が貰いすぎのように思うんだけど………人数で等分するではダメなの?」
「いいですか、昨日のたった五階層の探索だけで十六万円を超えているんです。マジックアイテムを入れたら、ほとんど百万円にもなるんですよ。一昨日ダンジョンで会いましたよね。その時の私達の買取り金額の合計が四万円を少し超えたぐらいです。六人のパーティでですよ。リーダーは一昨日の買取り金額はいくらでしたか?」
「二十四万円ぐらいかな」
「宝箱の中身も入れてですか?」
「いや、マジックアイテムは入れずにだよ」
「私達は宝箱も含めてですよ。リーダーの宝箱からは何が出たんですか?」
「中級体力ポーションと中級魔力ポーションが五本ずつと黒い大盾が出てきたよ」
「大盾の買取り価格はいくらでしたか?」
「………五千万円だったよ」
「ほら、リーダーがいないとマジックアイテムを入れなくても六分の一に収入が変わるんですよ。マジックアイテムを入れたらもう笑うしかないですよね。昨日の八万円も真姫と二人で等分したとしても四万円ですよ。一昨日の六人パーティの総収入と同じだけ個人で貰えるんです。十分な報酬を得ることが出来ます。もうちょっと自分の価値に気付いて下さい。リーダーは唯一無二の存在なんですよ」
これはきつい言葉を貰ったな。もうちょっと自覚しろか?参ったな。………美姫の隣で口をパクパクさせている真姫の顔にも参ったな。こんなシリアスな場面なのに笑えてくる。………本当に参ったな。
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