第65話 お試し探索(後編)

 ゴブリンパーティとエンカウントすると、美姫さんが弓矢でゴブリンアーチャーを一射で仕留める。二匹いても同じで、面談の時の連射速度が実践でも発揮される。後は念話で会話しながら残りのゴブリンを殲滅していく。階層をクリアする度に息も合って来た。


「真姫さんもゴブリンに攻撃をしますか?」


 ドロップアイテム回収マシーンになっている真姫さんに尋ねる。


「私が攻撃しても良いんですか?でも、美姫を護るのが私の仕事だからいいですよ」

「じゃあ一匹だけ残しますから、それを真姫さんが倒してください。ボス部屋は魔物の数が多いから討ち漏らしも出るかもしれません。少し慣れておいた方が良いと思いますよ」


 それからは一匹だけ残してゴブリンを倒し、最後の一匹を真姫さんが槍で討伐する。真姫さんはスピード重視で相手の攻撃を躱しカウンターで攻撃を加えて倒している。


 かなりの数のゴブリンパーティと戦ったが、危ない場面なしで二十階層のボス部屋に到着した。順番待ちは二組いる。


「美姫さん、ゴブリンメイジは最初に仕留めてくださいね。次にゴブリンアーチャーをお願いします。あとは数が増えるだけだから今までと同じで指示を出してくれれば良いですよ」


 二組の順番待ちは結構時間がかかった。お腹がかなり空いているが、今食べるわけにはいかない。やっと順番が回ってきたよ。


 ボス部屋に三人で入り扉が閉まった。戦闘の開始だ。ゴブリンメイジとゴブリンアーチャーの位置を確認して、僕はゴブリンソードマン目掛けて突っ込んでいく。ここで今日初めて棍棒の投擲を使い、複数いるゴブリンソードマンの武器を使えないようにしてから倒していく。美姫さんも後衛ゴブリンを倒した後に前衛のゴブリンにも攻撃を加えて仕留める。今回もお約束の一匹を残して真姫さんに任せた。最後のゴブリンも黒い靄になり消えていった。ボス部屋の攻略完了だ。ドロップアイテムを拾っていると銅色の宝箱が現れた。


「なんで銅の宝箱が出てくるんですか?これも麟瞳さんのスキルの効果なんですか?反則過ぎますよ!」


 真姫さんが熱くなっているが、逆に僕はここ三回の宝箱に比べるとグレードダウンしているので、そちらの方にビックリしていた。


「罠もないようだから安心して開けていいけど、誰が宝箱を開けますか?」

「ハイハイ、私に開けさせて!銅の宝箱なんて今まで自分で開けたことないから、是非私に開けさせて!」


 真姫さんが立候補したので開けてもらうことにした。宝箱の中からは中級体力ポーションが五本と帰還石が出てきた。この前、綾芽の鉄の宝箱から出てきた帰還のスクロールと同じ効果を持つもので、ダンジョンの中ならどこからでもダンジョンの外へ転移出来るアイテムだ。ボス部屋の中からも転移出来るので、高ランクダンジョンの攻略には欠かすことの出来ない物である。


 では、二十一階層の転移の柱からダンジョンの外に転移して探索者センターに戻るとしましょう。


 外へ転移して、武具店で矢の補充をしてから探索者センターに戻り、常盤さんの案内で最初に話をした部屋へと移動した。


「すみませんが、お弁当を食べながら話をしませんか?お腹が空いて物凄い音が鳴りそうですよ」


 僕は大分前から腹が空きすぎていたので、耐えられずに提案させてもらった。橘姉妹は携帯食料を出してきたので僕のストックしてある弁当を食べてもらうことにした。収納袋を持ってなければダンジョン内での食事は携帯食料になり、水の持ち運びも大変だから、どれだけ持って入るか考えないといけないんだよね。


「なんですか、この美味しいお肉は。しかも熱々じゃあないですか!」

「真姫さんのはスモールボアのステーキ弁当で、美姫さんのはオークの生姜焼き弁当だよ。僕の母さんが作ってくれた物なんだ。熱々なのはマジックアイテムのおかげだね」


 橘家は食べ物屋兼飲み屋を経営しているようで、魔物の肉に興味津々のご様子だ。真姫さんは夜によくお店の手伝いをしているらしい。食後にアイスコーヒーを常盤さんが用意してくれた。


「今後はどうするかお決めになられましたか?」


 常盤さんが話を主導してくれる。


「僕は今後もパーティを組んでもらえるとありがたいですね」

「私もお願いしたいです。Cランクダンジョンだけでなく、Bランクダンジョンにも一緒に行きたいと思います」


 お互いに納得してパーティを組むことになった。常盤さんに今日のドロップアイテムの買取りをお願いした。


 常盤さんが買取りの処理のために退出したときに、お互いのスキルを確認することにした。まず僕のダンジョンカードを見てもらう。


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ランク:A


名 前:龍泉 麟瞳


スキル:点滴穿石 剣刀術 豪運 全探知 罠解除 火魔法



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「えっ、麟瞳さんはユニークギフト所持者なんですか?」

「そうなんですよ。訳の分からない四字熟語でしょう」


 美姫さんが僕にダンジョンカードを見せてきた。


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ランク:B


名 前:橘 美姫


スキル:以心伝心 弓術 的中 連射 遠見




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 美姫さんのダンジョンカードのスキル欄にも四字熟語が書かれていた。


「美姫さんもユニークギフト所持者だったんですね。念話は【以心伝心】のスキルの効果ですか?」

「そうです。後は小学生から習っていた弓道のおかげで得たスキルだと思います」


 それからは僕のスキルの説明に時間が掛かった。僕自身まだよく分かっていないスキルが多いからね。


「六個もスキルがあるのは凄いです。しかも優秀なスキルばかりで、その上魔法も使えるって反則です」

「二ヶ月前までは二つしかスキルが無かったんだけどね。七、八月でスキルの数が三倍になったんだよ」


 美姫さんと二人でスキルについて話していると真姫さんが割り込んできた。


「私のダンジョンカードも見てくださいよ」


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ランク:C


名 前:橘 真姫


スキル:並列思考 槍術 回避 話術



  

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 いろいろと聞きたいことはあるが、まず一番大事なことを確認しよう。


「真姫さんも僕のパーティに入るんですか?」

「当たり前じゃあないですか。美姫は誰が護るんですか?美姫を傷つけたら私が許しませんからね」


 妹思いの良いお姉さんなんだろうね。でも、Bランクダンジョンからは通用しないと思う。


「Bランクダンジョンからは厳しいと思うよ。Cランクダンジョンでも深層は危ないかも知れない」

「そんなことは分かっています。でも、Cランクダンジョンの間だけでも美姫を護らせてよ。お願いだから」

「大学はどうするんですか?僕達は平日に活動しますよ」

「ここで前期の単位が取れたら後は卒論だけだから、なんとかするからお願い!」


 ………ん、この会話はしたことがあるぞ。


「そうだ!今週の金曜日にパーティに入れてほしいと言う女の子と一緒に岡山ダンジョンを探索するんだった。美姫さんも一緒に探索する?生意気だけど自信だけはあるようで、タンク志望なんだよ」 


 パーティメンバーになるかも知れないので、美姫さんも一緒に試してもらうことにした。


「私の希望はどうなったの?」

「美姫さんに任せるよ。Cランクダンジョンならね。でも、Bランクダンジョンには絶対に連れていかないよ。責任が持てないからね」


 美姫さんもCランクダンジョンを攻略する間だけ、パーティに入れてあげてほしいと言ってきたのでそうすることにした。


 常盤さんが戻ってきた。わざわざ時間をかけてくれたんだろうな。


 今回は帰還石以外を買取りしてもらった。二等分して八万円位の収入になった。矢の代金を渡そうとしたら魔物肉の現物支給でお願いしますと言われた。両親に食べさせたいらしい。


「常盤さん、いろいろとありがとうございました。これでボッチ探索から卒業出来ました」

「ソロだと心配でしたから、龍泉様に仲間が出来て良かったです。これからも当ダンジョンをよろしくお願いします」

 

 明日も九時にここに来ることを約束してダンジョンを後にした。



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