第62話 ダンジョン旅行・四日目(最終日)

 ダンジョン旅行の最終日だ。最初に予定していた行程とはだいぶ変わってしまったが、最後まで気を抜くことなくやり遂げよう。


 朝早くにホテルをチェックアウトして、丸亀駅の側にある朝うどんをやっているお店を目指す。この旅行で朝うどんだけは計画通り毎日食べることが出来た。今日は初心にかえってかけうどんを食べる。出汁の美味しさを味わいながらトッピングのゲソ天の弾力を楽しんだ。これだけだとお腹が持たないのでおにぎりを二個付けて食べたよ。流石に本場で長年生き残っているだけあって、どのお店に入っても美味しい。四日とも大満足の朝食だったな。


 丸亀駅から坂出駅に普通電車で行き、坂出駅で岡山駅行きの快速電車に乗り換えた。更に岡山駅で倉敷駅行きの普通電車に乗り換えて《桜花の誓い》のホームダンジョンがある倉敷駅に着いた。


 これだけ電車を乗り継いできたのでいつもよりもだいぶ遅い到着となった。こんなに人が多いダンジョンは久しぶりで、順番待ちをして着替えをしてから受付に向かった。昨日の宝箱から出た指輪も血液登録をして既に指に嵌めている。スキルがもっと魔法の練習を頑張れと言っているように思えるのは気のせいではないのだろう。


 しばらく待つと五人娘がやって来た。五人の指にもしっかりと指輪が嵌められている。今日の探索でその効果を見せてもらいましょう。更に遥の靴、真琴のゴーグル、桃のヘルメット、そして山吹の盾に貼られたお札の効果も楽しみである。


 手続きをすべて終わらせた後、練習場に移動してストレッチで身体をほぐしながら今日の課題を確認する。


「皆の装備も変わったので最初にウルフエリアで使いながら効果の確認をしよう。その後で攻略階層を更新していこう」


 ダンジョンの十一階層に転移した。セーフティーゾーンでフォーメーションを確認してウルフを討伐していく。此処では僕は別行動で、火魔法を使ってウルフに攻撃を加える。魔力回復の指輪に魔力消費軽減の指輪のお陰なのか、かなりの数のファイヤーボールを撃っても魔力枯渇は起きない。討ち漏らしたウルフは刀を使って討伐したが、出来るだけ魔法で仕留めるように何度も何度もファイヤーボールを撃ち込んだ。十六階層のセーフティーゾーンに到着した。


「今日のお昼は、お弁当だよ。早い者勝ちだからね出していくよ」


 ウルフの香草焼き弁当は桃が選んだ。オークカツ弁当は山吹、ワイルドボアのステーキ弁当は綾芽、スモールボアのカレー弁当は遥、ビッグラビットの唐揚げ弁当は真琴が選んだよ。僕はラッシュボア丼になった。どの弁当も熱々だ、皆が美味しいと言いながらお弁当を満喫した。


「新しい装備の確認はしっかり出来たかな?」


 皆が頷き効果に満足したようだ。五人とも腕力強化の効果のあるものを身につけている。ワイルドボアとビッグボア戦で僕も確認させてもらおう。もう一度フォーメーションを確認して探索を再開する。


 十六階層からはボア系のエリアに切り替わる。スモールボアとラッシュボアは問題なくクリアした。いよいよワイルドボアと接敵した、桃と山吹が突っ込んでいく。


 猛烈な勢いで迫り来るワイルドボアは、山吹をターゲットにしたようだ。山吹は大盾を構えて待ち受ける。するとワイルドボアの突進を山吹が受け止めてしまった。そこに遥がとどめを刺した。


「なんとな〜く出来る気がしました」


 山吹が軽く言った言葉だ。今の僕には絶対に出来ない自信がある。綾芽で腕力強化は有効だと思っていたが、【身体強化】のスキルがなくてもかなり有用な効果を発揮する。今度は強化系の指輪が欲しいな、どこかで手に入れることは出来ないだろうかとショウモナイ事を考えていると二十一階層に到着した。ビッグボアは流石に受け止める事は出来ないが、盾でいなし槍で機動力を削いでとどめを刺す。更に真琴が一撃で目を射抜く事もあった。命中率アップの効果のある弓も上手く機能しているようだ。


 今日の探索は此処までにしておく。この調子なら本当に夏休み中に完全攻略出来るかもしれない。この一ヶ月で五人娘が大きく成長したのを感じた一日になった。


 ダンジョンを出て武具店で用事を済ませて、久しぶりの倉敷ダンジョンでの買取りだ。一之瀬さんに案内されて部屋に入り、カゴの中にドロップアイテムを入れていく。この作業も久しぶりで、どんどんカゴが埋まり交換されていく。


 買取り金額はこのダンジョン旅行の費用を超えてくれた。宿をビジネスホテルにしたこともあり、なんとか黒字で終わることが出来てホッと一息だ。最終日に倉敷ダンジョンに来て正解だったかもしれないな。


 武器の封印をしてもらい、預けていた手荷物を受け取り着替えをしてダンジョンを後にする。旅行の最後にいつものファミレスで打ち上げと今日の反省をする。


「「「「「お兄さん(ちゃん)、ありがとうございました!」」」」」


 皆から感謝されたよ。目的の宝箱のお宝もしっかりとゲットすることが出来て、旅行費用以上の収入を得ることが出来て満足していた。一人だけ帰還のスクロールに文句を言っている奴がいたけど無視しておこう。高ランクダンジョンに行くと必要になる物で、しかも買ったら百万円もするから何を贅沢を言っているんだと思ったよ。


 次は来週の木曜日まで僕の出番はない。五人だけで二十五階層までは攻略しておいて良い事を伝えてお開きとなった。家に帰るまでが旅行だから気をつけて帰りましょう。ファミレスで真琴と別れ、五人で電車に乗って僕達の最寄りの駅で三人と別れた。駅から徒歩十分で我が家に帰ってきた。


「「ただいま!」」


 わざわざ母さんが玄関まで迎えに来てくれた。


「この前、境港で買った刺身を出しておくれ」


 ………旅行から帰ってきた子供達を迎える最初の言葉がこれだった。

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