第49話 それぞれの決断と不穏なつぶやき

「そろそろ探索者協会に求人票を出さないと、いつまでもBランクダンジョンしか探索できないぞ」


 俺が岡山から帰ってきてから既に二週間が過ぎたが、どんな条件で求人をするのか決まらない。《百花繚乱》のパーティメンバーが四人のままではとてもAランクダンジョンの探索なんて出来ないことは最初の攻略失敗で痛感した。四人とも早くAランクダンジョンの探索をしたいという気持ちは同じなのだが、意見はなかなか一致しない。 


「絶対に斥候が必要やろ。マップを読めて罠の解除もできる奴な」

「私が安全に攻撃できるようにタンクが必要よ」

「正輝さんに並ぶような高火力のアタッカーが必要だわ」


 岡山に行く前から新メンバーについては何回も話し合ってきたが、誰も引かないから同じ話を繰り返すだけだ。今までリーダーらしい言動はしたことないが、ここは俺が決断するしかない。


「なあ、このままだといつまでたってもAランクダンジョンに行けないぞ。もう決めてしまおう」

「決めるってどうやるんや?ワイの斥候案は採用してくれるんやろな」

「いや、それだと同じことの繰り返しだ。俺はこのパーティのリーダーだ。俺が求人票の内容を決めさせてもらう」

「確かにそれが良いかもしれませんわ。このままだといつまでも決まりそうにありませんもの」

「私もそれで良いよ。で、正輝どうするの?」

「四人の意見を全部入れて求人票を出す。良い人を二人先着順で採用する。誰の意見が通るかは運次第だがこれでいこうと思う」


 悠希の斥候、心春のタンク、和泉のアタッカー、そして俺のユニークギフト所持者の四人の意見を全て入れた求人票を出すために探索者協会に行こう。



○●○●○●○●○●○●


 福岡を拠点にしてBランクダンジョンを探索していた私は、不承不承この春に岡山に帰ってきました。


 探索者にとって羨ましがられるようなギフトを得た私は、母方の祖父母の家から通えるという理由で国立福岡ダンジョン高校に入学しました。入学後何度かメンバーを入れ替えながらも、卒業前にDランクダンジョンを完全攻略することができ、その時のメンバー六人でプロの探索者になることを約束しました。そして卒業と同時にCランクへと昇格してプロの探索者になりました。


 プロはBランクからと言われるこの世界で、普通Cランクダンジョンの探索だけで生活するのは無理があります。卒業後も祖父母の家からダンジョンに通わせてもらうことにより、何とかダンジョンの探索だけで生計を立てていました。


 Cランクダンジョンの探索は収入を抜きにすれば順調でした。週に四日Cランクダンジョンを探索し、少しずつ攻略階層を進めて一年とかからず完全攻略を果たしました。パーティメンバー六人が目標にしたBランク探索者になったのです。人生で一番嬉しかった時かもしれません。


 それから一年間は定石通り、いきなりBランクダンジョンに挑戦することなくCランクダンジョンの探索を続け力をつけていきました。


 その後Bランクダンジョンの探索を開始し始めたのですが、流石Bランクダンジョンですね、難易度が桁違いでした。全八十階層の福岡ダンジョンですが、半分にも届かず三十階層のボス部屋で行き詰まりました。帰還石を使い何度かチャレンジしたんですが、超えることは出来ませんでした。


 帰還石って一個で百万円もするんですよ。Bランクダンジョンの探索を始めたとはいっても、百万円は大金です。そう何度もチャレンジすることは出来ませんでした。それに失敗の原因を押し付け合うようになり、パーティの雰囲気もどんどん悪くなっていきます。


 高校生の時に結成したパーティです。メンバーの中には六年間ずっと一緒に活動していた人達もいました。それが最後には人間関係がボロボロになってしまいました。悔しかったです。


 私はギフトが良かったせいか、メンバーを入れ替えてBランクダンジョンに挑戦しないかと誘われました。誘われましたが私はその誘いを受けませんでした。絶対に無理です。もしもまた同じようになるかもしれないと思うと心が拒否します。誘いを断るとすぐに岡山へと帰ってきました。


 岡山に帰ってきても何もする気になれず、ただ時間だけが過ぎて行きました。それを見兼ねたのか、双子の姉が岡山ダンジョンの探索に誘ってきます。姉は地元の大学のサークル仲間とよく岡山ダンジョンに行っているそうです。両親の話によると、大学に行くよりもダンジョンに行く回数の方が多いくらいだそうです。たまには姉の誘いに乗ってダンジョンに行きましたが、気の合うパーティメンバーでないと気持ちが盛り上がって来ませんでした。


 ある日姉が勢い込んで私の部屋に飛び込んで来ました。


「探索者協会に求人票が出てた!遠距離攻撃者を募集しているの。多分私の知っているAランク探索者が募集しているわ。美姫、これはチャンスよ!」


 姉が言うには、そのAランク探索者は高そうなバトルスーツを着込み、ソロで岡山ダンジョンを探索しているそうです。本格的なバトルスーツなんて八桁はする高級品です。流石にBランク探索者とは違いますね、私達は帰還石の百万円を捻出するのも大変でしたもの。ボス部屋の討伐時間も信じられないくらい早かったそうです。そして性格も良さそうということです。姉の人を見る目は信じています。


 この募集にかけてみようと私は決断しました。 


「美姫、明日の用意はちゃんと出来てる?ハンカチとティッシュは持った?緊張し過ぎないようにするのよ。普段の力が出せれば大丈夫だからね」


 アンタは私のオカンか!


 失礼しました。明日の面談に向けて早く寝ることにします。緊張して寝ることが出来るか、いささか不安ではありますが………。



○●○●○●○●○●○●


「スキルノセイチョウガハヤイ。タノシクナッテキタナ」


 Sランクダンジョンの深層で青い魔物からつぶやきが漏れた。

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