第47話 夏休み中の《桜花の誓い》と倉敷ダンジョンへ

 高梁ダンジョンからの帰りの電車の中でダンジョンカードを見ながら考え込んでいた。因みに向かいに座っている綾芽は、「お兄ちゃん、本当に貰って良いの?」を連発しながら、先ほどの買取り金額の多さに一人で興奮している。


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ランク:A


名 前:龍泉 麟瞳


スキル:点滴穿石 剣刀術 豪運 罠探知   罠解除 火魔法




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 最後にダンジョンカードを見たのは【火魔法】のスキルを得た日だ。正輝と岡山ダンジョンに行ったのは先週の水曜日、ということはこの一週間の間に【幸運】スキルが【豪運】スキルへと変化したことになる。何か変化する引き金があったのだろうか?更に【幸運】スキルを得たのもその二週間くらい前だ。五年間以上新しいスキルを得ることが無かった僕が久しぶりに取得したのが【幸運】スキルだった。たった三週間の間にスキルの成長が起こるのも聞いたことがない。何が切っ掛けなのだろうか?イメージでは【幸運】スキルの次は【強運】スキルになるような気もするが、いきなり【豪運】スキルに変わったことも気になる。


「お兄ちゃん、聞いてる?」

「いやスマン、考え事をしていたよ。何の話だ」

「今日初級魔力ポーションを三本とも使っちゃったから何本か欲しいなって言ってたの」

「僕もあんまり持ってないからな。じゃあ二本渡しておくけど、普通に倒せる相手に氷魔法は使うなよ。特に明日と明後日はチーム戦だから、連携を大事に考えて動かないと意味がないからな」

「分かったよ。明日は使わないよ」

「使うなとは言ってないぞ。連携して倒せと言ってるんだ。例えばビッグボアに止めを刺す時なんかは使えば良いんだよ」


 家には八時半過ぎに着いた。温め直してくれた晩御飯を食べて、風呂に入った後に速攻で眠った。


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 倉敷ダンジョンに行く日は朝が早い。四時半に起きて台所に向かう。


「母さん、おはよう。何の食材を出しておこうか?」

「おはよう、麟瞳。何か晩御飯で食べたいものはあるかい?」

「魔物の肉で餃子とか作ったら美味しいのかな?」

「考えたことないね、面白いかもしれない。よし、今日の晩御飯は餃子にしよう。オークとボアとウルフの肉を出しとくれ」


 何となく言ったことで晩御飯が決まってしまった。餃子を楽しみに今日の一日を頑張っていこう。


起きてきた綾芽と一緒に朝御飯を食べて、お弁当を貰い時間通り五時半に家を出た。


 電車の中で綾芽のパーティメンバーの三人と会い、倉敷ダンジョンで最後のメンバーと合流して更衣室へと向かう。


 先に着替えて受付の側で五人が来るのを待っていると、一之瀬さんが僕のところにやって来た。岡山ダンジョンでの事件をとても心配していたようで、こうしてダンジョンに来て姿を見ると安心したらしい。少し話をして仕事へと戻って行った。


 やっと五人が着替えを終えて戻って来た。綾芽の装備が変わっているので、いろいろと聞いていたようだ。


 入場の受付を済ませてから練習場へと移動し、ストレッチで身体をほぐす。


「皆には心配をかけたようで申し訳ない。見た通りどこにも異常はないので安心して欲しい。このダンジョンでの戦闘は基本的に《桜花の誓い》がおこない、気になる事には口を出させてもらう。目標は夏休み中の完全攻略だ」


 それぞれのメンバーの課題の確認をしてダンジョンへと向かった。


 ダンジョンゲートの前でパーティ登録をして六階層に転移する。ここから攻略を開始する。


 前回も《桜花の誓い》は十五階層までは攻略している。六、七階層のラビット系の魔物は盾と槍の組み合わせで問題なく進む。前回と違うのは弓の真琴が積極的に攻撃に参加していることだ。ハンドサインを決めているのか前衛との息が戦闘を重ねる度に合って来る。


 八階層から十五階層まではウルフ系の魔物が出て来る不人気エリアだ。稼ぐならこのエリアと僕は思うが、収納道具を持っていない人にとって、集団で襲ってくるウルフはただの厄介な相手のようだ。


 このエリアも経験している《桜花の誓い》は新しいフォーメーションも取り入れながら戦闘を行っていく。弓術士の真琴を盾職の桃か山吹の一人が守り、三人で攻撃をしていく。盾でいなして槍で仕留めたり、そのままウルフに突っ込んで倒したり、真琴との連携で弓で仕留める。バリエーションが増えているのは、学校でかなり練習をしたのだろう。更に戦闘を重ねる内に練度が上がり戦略も洗練されて来る。これって僕要らないよね。


 十六階層のセーフティーゾーンで遅い昼御飯を食べる。食べながらも先ほどのウルフ戦について感想を言い合う。いつも思うがこのパーティは良い。これからもきっと伸びていくだろう。水分補給とトイレを済ませてボア戦に臨む。


「前回も言ったと思うけど、ワイルドボアとビッグボアには要注意だ。盾で正面から受け止めないように、それからアタッカーも突進して来るボアを正面から刺突で一撃とか思わないようにしよう。盾でいなして、脚を攻撃して動けないようにするのがポイントだと思う。決して無理はしないようにな」


 見晴らしの良い草原である。まずはスモールボアを選んで倒す。盾で受け止めて槍で突く。真琴の弓でも長距離から狙い撃つ。ラッシュボアは盾で受け止めると衝撃が激しい。盾でいなして槍で脚を狙う練習台になってもらう。問題なく討伐できるようになったところで、ワイルドボア戦に臨む。


 ワイルドボアは突進から鋭い牙でのかちあげ攻撃が特徴だ。ラッシュボアとは迫力が全然違う。桃と山吹が先行してワイルドボアに近づくと戦闘開始だ。


 猪突猛進の言葉通り、真っ直ぐに突っ込んで来る。今回は黒盾の桃がターゲットになった。気圧されたのか、いなしきれず吹き飛ばされる。他の四人は動揺したのか対処出来ていない。


 僕は慌ててワイルドボアに向かいタゲを取る。向かって来るところを寸前で躱し脚を水平に斬る。左の前脚にダメージを与えることが出来たようだ。勢いを失った突進を仕掛けてきたところを同じように躱し、もう一度脚を狙う。これで動かなくなったところで、遥に止めを刺してもらった。


「ワイルドボアの迫力満点の突進も経験出来たし、今日の攻略はここまでにしよう。落ち込んでてもしょうがないからな。この後しっかり反省会で話し合って、明日リベンジすれば良い。セーフティーゾーンまで戻るぞ。桃はこれを飲んでからしっかり盾の役割を果たせよ」


 桃に初級体力ポーションを飲ませ、数度の戦闘をこなして無事にセーフティーゾーンまで戻った。転移の柱からダンジョンの外へ出て武具店に向かった。


 武具店で皆の武器を見てもらい、矢の補充を行った。


「前も思ったが、矢の代金などはどこから出してるんだ。確か前回は適当に多めに渡したと思うんだが」

「収入が多い時に真琴に渡す感じ」

「ダメだよそれじゃあ。長くやって行くのなら消耗品に関してはパーティで負担しないといずれ不満が出て来るよ。今日からパーティ費として買取り金額の一部を分けて管理するようにした方が良い。そこから精算するように、当然領収書を貰うようにな」


 買取りの受付に行く途中に、どれぐらいパーティ費として分けるのかを話し合っていた。


「お兄ちゃん、悪いんだけど今日の買取りから一人の取り分を七等分にさせてもらえないかな」

「別に僕は取り分がなくても良いぞ。ほとんど何もしてないしな」

「そんなことないよ。すごく助かっているからね」

「じゃあ僕は七等分で問題ない。パーティ費を管理する人もちゃんと決めるんだぞ」


 買取りは一之瀬さんが部屋で行ってくれた。


「パーティ用のカードを作りたいんですが、手続きをお願いします」

「龍泉様はやっとパーティに入られるんですか?」

「いえいえ、僕のパーティじゃないですよ。こちらの《桜花の誓い》のパーティカードを作って欲しいんです。この子達は高校卒業後にプロの探索者になりますからね」


 買取り金額は《桜花の誓い》の五人と僕とパーティのカードに七等分して入金された。因みに端数はパーティカードに入れた。


 前回は六等分して一人五万円だったが、今回は七等分しても五万円を少し超えていた。僕はほとんど何もしてないので、パーティの成長のおかげだろう。


 ダンジョンですべてを終えて、反省会をおこなうためにいつものファミレスへ移動する。ビッグボア戦で暗くなっていた雰囲気も、買取り金額の分配で持ち直した。今日の課題に対する結果と反省、そして明日への課題とパーティ費の管理者を決めてお開きになった。


 倉敷在住の真琴とはファミレスで別れ、岡山行きの電車に乗る三人とは駅で別れた。綾芽と僕は倉敷駅側のショッピングモールで買い物をする。両親へのお酒のお土産とお小遣帳を買い、気になる店を見て回った。綾芽は前日の高梁ダンジョンの収入があったので洋服を買い込んでいた。


 お小遣帳はパーティ費を綾芽が管理することになったのでその為に買った。探索者の税金は買取りの時に引かれるので収入と支出が分かれば良い。まずパーティで何にどのくらいお金を使っているのかを把握できれば良いと思う。パーティ費からの今日の支出は矢の代金とファミレスの飲食代とお小遣帳代だ。

 

 家に帰り両親にお土産のお酒を渡す。いつも通りのビールと缶チューハイだ。


「ありがとね。お父さんには箱で買ってきたこと黙っておいてね。調子に乗って飲みすぎても困るから」


 母さんはよく分かっているようだ。父さんはいつもビールを飲んでるイメージしか湧かない。体には気をつけてもらわないとね。


 今日の晩御飯は予告通り三種の餃子、それに野菜炒めとタマゴスープがついて僕のご飯は大盛りだ。


 ウルフ肉は脂身が少なくあっさりとしている。オーク餃子はまずい訳がない。そして意外にもボアの餃子が一番気に入ってしまった。野趣に富んだ癖のある肉をキャベツとニラと調味料で上手くまとめている。何個でも食べられる。流石うちのグランドシェフである。お腹いっぱい食べて、ごちそうさまでした。


 食後はいつも通りリビングへ移動し、家族で飲み物を飲みながらマッタリする。


「麟瞳、綾芽、お盆休みはどうなっているんだい」

「私は何もないよ。パーティメンバーが帰省するからお休みなんだ」

「僕も何もないよ。お盆で人が少ないならダンジョンに行こうかなと思ってたぐらいだよ」

「久しぶりに家族揃って旅行に行こうかと思ってね。旅行先は二人で決めてくれて良いよ。私とお父さんは宿でゆっくり出来れば文句ないよ。まあ今からでも予約できるところがあればだけどね」

「そうそう、ビールと美味しい食べ物があれば何も言うことない」


 相変わらず父さんは平常通りだが、僕が七年間家に帰っていなかったので家族旅行に行けていない。親孝行は出来るときにしておかないとね。全力で良いところを探させていただきます。


 順番に風呂に入りそれぞれの部屋に入った後に、旅行の情報を探しながらいつの間にか眠っていた。

 




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