第38話 正輝は京都に帰って行った

 吉備路ダンジョン群から帰ってきたのは五時ギリギリになった。手を洗ってから台所へと移動する。早速母さんから声がかかる。


「今オーブンに入っているウサギの丸焼き二種類をこちらの入れ物に入れて収納しな」


 説明を聞きながらメモを取り、入れ物に貼付けて、正輝の収納へと入れていく。ウサギを収納したら天板を洗うのを手伝わされ、今度は大量のハンバーグがオーブンの中へと入っていく。


「今度はこっちの唐揚げだ。どっちもビッグラビットの唐揚げで黒い方が醤油ベースで白い方が塩ベースのタレにつけ込んでから揚げているよ。入れ物に入れて収納しておくれ」


 同じくメモを貼付けて収納していく。ウルフの香草焼き、各種ボアのステーキ、ウルフステーキ、オークステーキ、ボアカレー鍋ごと、ビッグラビットのクリームシチュー鍋ごと、デミグラス煮込みウルフハンバーグ、オークカツ丼、ボア丼、オークキムチ、ボアの野菜炒め、オークしゃぶしゃぶ、オークカツ単品、大量の料理が正輝のポーチに収納された。


 更に今日取ってきた果物を食べやすい大きさに切ってもらってそれもタッパに入れて収納した。


「こんなに沢山の料理、ありがとうございます」

「調理道具を貰ったんだ、まだまだお釣りが残っているよ。また遊びにおいで、その時にはもっと美味しい料理を作れるようにしておくよ」


 料理を収納した後は晩御飯である。大量の料理を見たからそれだけで腹一杯とはならず、しっかりと一人一枚ずつ計五枚残されたオークカツにフライドポテト、野菜サラダ、みそ汁と大盛りのご飯だ。皆でいただきます。


「今日の宝箱競争面白かったね」

「僕の圧勝だったね」

「最初から結果は分かっていたよ」

「今日の記念に交換しようよ。私のクッションは正輝さんにあげるわ。少し癒されるらしいからちょうど良いでしょ。お兄ちゃんはリラックス効果のあるヘアバンドが良いと思うわ。しょうがないから私は残り物にしておくよ」


 言い終わるや、可愛く舌を出してくる。流石綾芽である。


「綾芽は【身体強化】のスキルがあるから、腕力強化は要らないだろ」

「いやいや、部分強化の方が疲れないから、脚力だけの強化とかで済むならそっちの方が楽だからね」

「正輝はそれで良いのか?ヘアバンドは俺の物だとか思わないのか?」

「ああその通り、ヘアバンドだけは絶対に渡せないなって………何だよそれは!クッションなんかソファーに置いておくと役立ちそうだしな、それで良いよ」

「僕も良いけど、綾芽は吉備路ダンジョン群で装備品揃ってきてるよなー」

「ブーツとゴーグルと上着にリストバンドだね。二週間前と比べたらポーチも入れて私の装備品凄い変化だね。でも本当に貰って良いの?」


 正輝と二人で了承すると、綾芽はいつもの派手なガッツポーズを決めて喜ぶ。その後、いつも通り食後はリビングへ移動してお茶を楽しむ。


「明日はいつ頃帰る予定なんだい」

「お昼頃の新幹線で帰ろうと思ってます」

「じゃあお昼御飯をうちで食べて帰れば良いんじゃない」

「では最後までお世話になります」


 順番に風呂に入っていったが、風呂から出た後もしばらく正輝と話をした。


「麟瞳、あの日俺は本気でAランクダンジョンは麟瞳には無理だと思ったんだ。だからパーティから追放した」

「うん、分かっているよ、僕は弱いって。でも、いつか肩を並べられるように頑張っていくよ」

「ああ、たった二週間でも大きく変わっていたからな。これからどれだけ成長することか。俺も負けないように頑張るよ」

「これ防御結界の指輪だ。置いて行かれても困るから、今血液登録をしてよ」

「了解だ。麟瞳は疑い深いよな、ちゃんと貰うよ二千万円を」


 目の前で血液登録をして、指輪をはめて結界を張ってもらった。

 

「どうなんだ魔力を込めたら結界が張れるのか、それとも危なくなると自動的に結界が張られるのか」

「そうか自動結界だと凄いアドバンテージを持つことができるな。今のところは魔力を込めれば確実に結界を張ることができることしか分からないな。またダンジョンで使いながら強度や大きさと合わせて確認をしていくよ。ありがとうな本当に」

「こっちこそ岡山ダンジョンの十六階層で行き詰まっていたから助かったよ。ありがとう」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 次の日もいつものように朝の鍛練から始める。いつもと違うのは綾芽が鍛練後に慌てなくて良いことだ。


「夏休みは良いね。朝がこんなにもゆっくりできるよ。シャワーも浴び放題だよ」

「シャワーを浴びすぎたら指とか皺くちゃになるだけだろ」

「お兄ちゃんは分かってないな~。予定表ちゃんとチェックしてよ。来週から入れてるからね」


 おっと、忙しかったせいかすっかり忘れていたよ。申し訳ない。


「おはよう。麟瞳、綾芽ちゃん」

「おはよう。今日は早起きだな、正輝」

「おはようございます」


 今日は休みの日だから母さんと父さんはまだ起きていない。


「これから桃のジュースを大量に作るから、この百均の水筒に入れて収納していってくれ。あとハチミツとスイカも収納しておけよ」


 うちの自慢の魔道具ジューサーをフル稼働させてジュースを作っていく。最後の三杯は今日の朝御飯用だ。ジュースを作っている間に綾芽にはスクランブルエッグを作ってもらった。これにトーストと冷やしたトマトを切って完成だ。いただきます。


「やっぱり美味しいよ、桃のジュース。最高だよ」

「確かに美味いよね。最初に飲んだとき、今までで一番美味いジュースだと思ったよ」

「食材のダンジョンも侮れないよな。ダンジョンの見方がこの五日間で大きく変わったよ」


ワイワイと言いながら、食事が進んでいく。


「正輝は京都に帰ってメンバー集めをするのか?」

「そうだな、この前麟瞳が言ってた求人票の制度を使ってみようかと思っているんだ」

「どんなメンバーを集めるんだ」

「皆と相談だけど、結構難しいよな。斥候やタンクも欲しいし、高火力のアタッカーも欲しいな」

「運が良い人とかね」

「確かに一番必要かもな」


 笑いながら冗談を言えるようになった。


「まあ《百花繚乱》のメンバー条件は一つだけだな。四字熟語ユニークギフト持ちの人、それしかないだろ」


 最後に最高のアドバイスを言ってやったよ。


 昼御飯を家族と一緒に食べて正輝が帰ることになった。


「また遊びに来てね。麟瞳がこんなに楽しそうにするのは久しぶりだったから」

「美味しいもの研究しておくから、またいらっしゃい」

「ダンジョン楽しかったです。今度はもっと高ランクのダンジョンに入れるようになっておきますから、来たときに連れて行って下さいね」

「必ずまた来ます。ありがとうございました」


 別れの挨拶を済ませて、僕だけ岡山駅まで見送りに行く。


 新幹線の改札口でお別れだ。


「麟瞳、退職金の代わりに良いものをリュックに入れておいたからな」


 友は京都に帰って行った。






 

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