第36話 解決?

 電車の中で話す内容でもないので、口数少なく家に帰ってきた。手を洗って食卓へと向かう。


「どうしたんだい?肉が手に入らなかったのかい?」

「ゴメン、雰囲気を悪くしてるね。マジックアイテムの分配でちょっと揉めてね」

「折角今日は焼肉にしたんだ。楽しく晩御飯を食べよう」

「正輝、一時休戦だ」

「了解。皆さんすみませんでした」


 食卓の上には大型のホットプレートがセットされている。食材は今朝収納から出した各種のお肉だけでなく、牛肉やホルモンなどが追加されている。更にダンジョン産の玉葱をはじめ野菜類も豊富に準備されている。大盛りのご飯と一緒にいただきます。

 

 早速父さんはビール片手にホルモンを焼いている。育てている肉を横から取られたり、タレ皿に大量の野菜を入れられたりしながら楽しく晩御飯をいただいた。犯人はすべて綾芽だな。後でどうなるか分かってやっているんだよな。残った食材はすべて焼いて正輝の収納に納められた。ごちそうさまでした。 


 食後は場所を移してリビングでお茶を飲みながらまったりする。


「正輝さんのパーティは何人なんだい。明日料理するのも人数が分かってないと作りにくいからね」

「僕を入れて四人です。出来れば少し多めでお願いします。お母さんの料理はとても美味しいので」

「嬉しい事を言ってくれるね。おだてても何も出ないよ」


 母さんも上機嫌である。


「母さん、これプレゼント。正輝と僕からだよ」


 今日のマジックアイテムの調理道具を出す。まだケースに入ったままなので何が入っているのか、母さんは分かっていない。


「どうしたんだい急に。貰ってもいいのかい」

「これ調理道具なんだよ。母さんしか使えないからね、中を見てみて」


 母さんがおっかなびっくりでケースを開けて一つ一つの道具を確認する。包丁だけでも五本も入っていて、他にも数点の道具が納められている。


「綺麗な道具だね。包丁も使い分けできるようになるし、ミンサーがあるからハンバーグも作りやすくなる。二人ともありがとね、大切に使うよ。さあ、明日の食材を出しておくれ」

「その前に、その調理道具は自動洗浄と自動修復の効果が付いているから、手入れも楽になると思うよ。肉は出しても良いけど大量だよ。何処に入れておくの」

 

 とりあえず冷蔵庫の中の絶対に明日使わない物を僕の収納に納めておく。それから今日取ってきた肉を一種類一個ずつ説明しながら冷蔵庫に入れていく。大型の冷蔵庫も肉で一杯になった。ついでに正輝にも一種類につき一個ずつ肉の塊を渡して、ポーチに収納させる。


「俺が持ってても料理出来ないぞ」

「お世話になっている人に配っても良いんだよ。探索者らしいお土産になるだろ。きっと喜ばれるぞ」

「それで四個ずつ肉を残したのか。麟瞳は結構考えているんだな」

「結構って、それちょっと酷くない。折角時間経過のない収納道具を持っているんだ有効に使わないとな」


 変なところで感心している。


「お兄ちゃん、ビッグボアとオークの肉って特別でかくない?」

「一つ四キロあるらしいよ。オークカツ何枚できるんだよってことだよな」

「麟瞳、オークって豚なのかい?」

「豚をもっと美味しくした肉って言われているよ」


 初めての食材を見て、母親もいろいろと考えているようだ。


「で、二人は何を揉めていたの?お姉さんに相談してごらんなさい」

 

 誰がお姉さんだよ、綾芽さん。


「今日はマジックアイテムが二つ出たんだよ。僕が調理道具で正輝がもう一つの方って言ったら、正輝が文句を言ってきたんだ」

「文句って、分配金額がおかしいだろ。三十万円と二千万円だぞ。昨日の分配と合わせて考えれば二つとも麟瞳が取ればちょうど良くなるんだよ。それにさっきお母さんに、二人からプレゼントと言ったから調理道具は二人のものというわけだ。指輪だけ浮いちゃったな。どうしようかな〜?」


 人の揚げ足を取って来る。なんて奴だ。


「フフ、私に名案があるわ。二人とも聞いてみる?」

「いや、聞かなくて良いよ。どうせたいしたこと言わないだろ」

「お兄ちゃん酷いよ。一生懸命考えたのに!」


 綾芽よ、これは焼肉の恨みが入っているからな。


「エエーン、エエーン………」


 泣きまねを始めたよ。それも超絶下手な芝居で。


「………ど、どんな案なんだ。聞くから言ってみろ」

「聞きたい。しょうがないな~、じゃあ言うよ。マジックアイテムを増やせば良いんだよ。それからもう一度分配すれば良いんだよ」

「簡単にマジックアイテムを増やすって言うけど、そんなに上手くいかないぞ。たまたま連日手に入れているだけだからな」

「吉備路に行けば良いんだよ。あそこのEランクダンジョンにまだ行ってないでしょ、良いものが出ると思うな~。それに私もEランクダンジョンならついて行けると思うし、仲の悪い二人を仲立ちしてあげるよ」


 それって綾芽がダンジョンに行きたいだけだよな。


「悪くないな、綾芽ちゃん。麟瞳がいれば何か手に入れられそうだし、今日リュックの所有者を移す手続き忘れて来たしな」


 正輝が綾芽の案に乗っちゃったよ。綾芽はいつもの派手なガッツポーズ決めてるし、もうしょうがないな。


「分かったよ、じゃあ明日もダンジョンだな。正輝は来てから毎日ダンジョンだけど良いのか?」

「ああ、難易度は高くないけどドロップアイテムが多い方が楽しいし、宝箱はいつ見ても興奮するよ」

「この前は帰りが遅くなったから明日は早く出発しよう。七時頃家を出るようにするから、六時半には起きるようにな。綾芽、明日の鍛練は中止な。母さんお弁当三人分お願い」


 まんまと綾芽の思惑通り事が運んで少し悔しいが、実質正輝の最終日である。好きなように過ごしてもらおう。


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