第3話 心閉ざした瞳

エコバッグに購入した飲み物を入れ、店外に出るとあの男の子がナナの頭を撫でていた。

ナナは顔をすり寄せ、しっぽを振って目を細め、喜ぶ仕草を見せた。

すると暗い表情の口元に、かすかに笑みがこぼれた。

「犬、好きなの?」

男の子の側で座り込み、同じ目線でそっと尋ねる。

「この犬…おにいさんが飼ってるの?」

「うん、ナナって言うんだ。僕の大事な家族なんだよ」

「そうなんだ…ナナちゃん、かわいいね」

動物とのふれあいは、人の心を癒す効果があると言われている。

介護施設でお年寄りに寄り添うセラピードッグや、障がい児の発語や心の平安を助けるホースセラピーなど、その活躍は多岐にわたる。

男の子は悲しみを湛えた瞳をしていた。

生気や感情が感じられず、心を閉ざしているようだと、光は思った。

一言でいえば、子供らしからぬこども。

無邪気さや元気といった、子供らしさが見当たらなかった。

そのうえ薄汚れた制服や、誰かに頼まれて食べ物を買い物する様子など、家庭環境で気になる点がありすぎた。

「僕今日この街に引っ越してきたんだ。君は?家はこの近くなの?」

…コクッ

小さくうなずくと、公園の奥のほうを指さした。

大通りからひとつ入ったその辺りは、昔からの建物が並ぶ古い住宅街だった。

「あっちのほう」

「そっか。じゃあご近所さんだからまた会うかもしれないね。僕公園通りのマンションに住んでるから、これから毎日あの公園を散歩する予定なんだ」

「そうなの?じゃあまたナナにも会える?」

「会えると思うよ。ナナは君のこともう友達だと思ってる。また遊ぼうって」

「ともだち…やったぁ」

男の子の瞳に、少し明るさが灯った。

「ナナは犬だから人間の言葉を話せないから、僕が代わりに聞くね。お友達になった記念に、君の名前を聞いていいかい?」

「…まこと。大山誠」

「まことくんか。いい名前だね」

「そうかな?」

よくわかんない、と首をかしげる様は、子供っぽさが垣間見えた。

ナナの側では少しづつ年相応あるがままの姿を出してくれることに、多少なりとも安心感を得た。

まことは名残惜しそうにもう一度ナナの首元を抱きしめ、手を振って帰っていった。

そっと見送りながら、ナナは鼻をピスピス鳴らした。

「…悲しみのにおいを感じるのかい?」

「クゥン…」

冷たくなってきた秋風が、頬にふれる。

「さて、飲み物も買ったし、ちょっと公園の中を散歩してみようね」



公園の中は、遊具エリアと森林エリアがある。

西側には大きなラクウショウの木が並ぶ落葉樹の森があり、ベンチがたくさん用意され、季節問わず多くの人々に憩いのひとときを提供している。

その中でもひときわ大きな二本のラクウショウの下には、アンティーク調のちょっといいベンチがあった。肘掛けにはドリンク置き場が設置され、映画館のいすのように便利だ。

「ナナ、ここで休憩しようか」

お散歩用のお皿に常温のミネラルウォーターを入れ、水分補給。

光もカフェオレにストローを差し、まったりタイム。

ベンチに腰かけ天を見上げると、やわらかな午後の日差しが、樹々の間から降りそそぐ。

「木漏れ日が気持ちいいね」

ふたりは心地良い場所を見つけた。

太陽が傾くまで、しばし無心の時を過ごした。

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