第4話
公爵家に帰ってきているという事実にエレナは最初目を丸くした。目を覚ますと、いつものように侍女が世話をしてくれて、そして、いつものように美しいドレスに着替えさせられた。
何時間自分は寝ていたのかというくらいに、ぐっすり寝て、気づけば朝だったのだ。
そしてお腹いっぱいに美味しいご飯を食べながら、牢屋のごはんは美味しくなかったと、思わず泣いてしまった。
「ふぐぅ……ふぐぅ……」
エレナがふぐふぐと泣きながら朝食を食事を食べているという知らせは、エレナの両親とルカにも伝えられ、三人は慌ててエレナが朝食をとっている席に集まった。
「エレナ！？ 大丈夫かい？」
「エレナちゃん？ 大丈夫？」
「大丈夫ですか？」
両親の前だとちゃんと敬語で話をするルカを、エレナは涙目で見つめると言った。
「なんで、公爵家に帰ってきたのぉ？」
その言葉に、ピシっとエレナの両親が固まった。
昨日の時点でエレナの異変と、そしてエレナの話していた未来に起こることについてもすでにルカはエレナの両親に話をしていた。
エレナの話からして、時間がないと判断したのである。
「エレナ様。ご両親にも話をしてあります。勝手に話をしてしまい申し訳ありません。ですが、今は時間がないと判断して話をさせていただきました」
その言葉に、エレナは唇を噛むと、小さな声で言った。
「お父様とお母様に、迷惑をかけたくなかったの……だから、ルカと一緒にアーティスト王国へと逃げようと思ったのに……」
瞳を潤ませながらそう言ったエレナを、両親はぎゅっと抱きしめた。
「迷惑なんて、そんなの関係ない。お前は私たちの大切な娘なんだぞ？」
「そうよ。辛い思いをしたわね」
その言葉に、エレナは瞳から滝のような涙を流し始めるとおぇおぇと泣き声を上げた。
「わ、私の言ったこと、信じてくれるの？」
「当り前だ。エレナは嘘をつかない子だろ」
「そうよ。私たちはエレナの味方よ」
二人にぎゅっと抱きしめられて、エレナは泣きながら二人にしがみついた。
「ありがとう……でも、迷惑かけちゃうから……」
「大丈夫。アーティスト王国に、父はつてがある。領地は安定している土地であるし、他の貴族が納めても問題はあるまい」
「そうよ。どうせだったら家族みんなで行きましょう？」
「へ？」
エレナは呆然としていたのだが、ふと気付けば侍女や執事たちは世話しなく働いて荷物を次々に運んでいく姿が目に写る。
屋敷の中の物が、どんどんと纏められていっているのである。
「え？」
「さぁ、エレナ。使用人たちもみんな一緒に行きたいという者たちは連れていくぞ」
「ふふふ。旅行みたいね！ いつぶりかしらぁ」
「アーティスト王国への馬車も用意しますから、エレナお嬢様、皆で行きましょう」
ルカのその言葉に、エレナの両親はにっこりと微笑むと言った。
「ルカ。もうエレナに対して敬語はいらないわ。だって、貴方王族なんでしょう？」
「ははは。まさか第四王子だとはなぁ！ こりゃびっくりだ！ だが、エレナを守ってくれる男が君ならば安心だ。いやぁ、エレナが惚れたから第一王子との婚約を認めていたというのに、本当にこんなことになるとはなぁ」
「えぇ。こんなことならば最初からルカに任せればよかったですわねぇ」
「ははは」
「ふふふ」
エレナは両親の言葉に小首をかしげ、ルカへと視線を移すと、ルカは耳まで真っ赤に染まっていた。
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