第十四話 前途多難
それからしばらくはなつのと篠宮は図書室に籠りきりになった。
仕事の合間に朝倉も手伝ってくれているが、出てくる情報はルーヴェンハイト自体や文化についてなど、生活に関する歴史の記述ばかりだった。
魔法と魔術については差し当たってめぼしい情報は出てこない。
いい加減スマホを持っているのも疲れて来て、なつのと朝倉はばたりと机に倒れた。
「篠宮さん……これ意味あるんですかね……」
「最初のやる気はどこ行った」
「気持ちは分かるよ。どれも同じことしか書いてないもんね」
「それも不自然だよな。普通口伝えとか伝承で何かしら残るだろ」
「語り継がれないほど昔に衰退したのかもしれないですよ」
「衰退はおかしいだろ。普通衰退するのは新しい技術が出たとか、進化した結果不要になったからだ。でも魔法より魔術の方が圧倒的に凄い。衰退するなら魔法の方だ」
「分かんないですよ。私たちが知らないだけで魔法にはもっと凄い何かがあるのかも!」
「違う側面から見たらってこと? 例えば?」
「え、いや、分かんないけど。何か」
なつとと朝倉はそんなわけないかと笑ったが、篠宮は眉をひそめた。
口元に手を当て少し考え込むと、そうか、と小さく呟きなつの達を見上げた。
「葛西先生が言ってたとこ覚えてるか? 魔力が足りなきゃ血液があっても死ぬって」
「はあ。それがどうしたんですか?」
「血中の魔力珠を使いすぎると死ぬってことだよな。けど魔法という形にする技術は別になってるから魔力珠は減らない。これは『リスクを分散させることで死を防ぐ』って進化かもしれない」
「そっか。魔術師は血液だけで奇跡を起こすなら、知らず知らずのうちに寿命を縮める可能性が高いですね。その結果衰退し滅びた――とか」
「ああ。きっと魔術に必要な何かが血中にあり、進化した結果それが魔力珠に置き換えられた」
「じゃあ結局同じじゃない?」
「処理能力が違うんだよ。けどそれならシンプルですよ! 物質なら元素記号と化学式が増えるだけですし!」
「え? けど化学式が百万個必要だったらどうするの?」
「化学式ってのは一定の規則がある。規則さえ見付ければエクセルで関数組めばいいよ」
「……えーっと。でも魔法とか魔術とか、形にするにはプログラムが必要なんでしょ?」
「それは管理画面だけ作ればcsvインポートで終わるだろ」
「そうですね。魔力珠の元素は葛西先生に調べてもらいましょうか。月城さんは元々地球人だから今と比較できます」
急に篠宮と朝倉は盛り上がり、きっとこれがこうで、あれがああで、と語り始めた。
それは文系のなつのにはロシア語以上に異世界の話で、とても口を挟める内容ではない。
しかし魔法ですらスマホがあってようやくだというのに、プログラムだのcsvだので魔術が実装できるとは到底思えなかった。
分からないからというのもあるが、そんな簡単じゃない気がするのだ。
(それに開発できても地球へ戻るには人体実験が必要なことに変わりはない。それじゃシウテクトリと同じだ)
魔法アプリが楽しいのは所詮アプリだからだ。こちらがタップしなければ何も起きない。つまり安全なのだ。
盛り上がっている篠宮と朝倉には悪いが、自分の身体を使わなければできないことを再現したいとは思えなかった。
地球へ帰るための開発で人体実験が必要。けれど二人は悪意があるわけではない。
(……そうか。シウテクトリも地球へ戻ろうとしてるだけなのかもしれない)
悪者に見えるのはノアとルイを正義とするからだ。
よくよく考えれば本当に奴隷や人体実験などという恐ろしいことがあるとは限らない。
なつのはまだ何も見ていないのだ。
そう思うと自分がやろうとしていることは、本当に取り組むべき事なのか不安に感じる。
「向坂? どうした、変な顔して」
「……いえ」
止めよう、とは言えない。
けれどこれ以上本を読み進めることもできず、なつのは話が難しいから、と誤魔化してその場を逃げた。
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