神は信じていませんが神官としての役目は出来てるので問題ありません~人々の為にと尽力していたら『聖人様』と呼ばれて神以上に崇められていました~

夏歌 沙流

第1話

 ああ神よ、あなたは何処にいらっしゃるのだろうか?飢餓に苦しみ病気で床に伏せる人々を前に私は思う。


 ああ神よ、あなたは何処にいらっしゃるのだろうか?一人、また一人と死んでいく人を前に私は考える。神に祈り、神に縋っても……死にゆく人々を救うことが出来ない私の無力さを呪いながら。


 ああ神よ、あなたは何処にいらっしゃるのだろうか?野ざらしになっている小さな子の亡骸を抱え、一人歩きながら私は問う。焼け落ちた家を見ながら私は問うのだ。


 名もなき小さい村だった。質素ながらもみんなで手を取り合って必死に生きている素敵な村だった……教会から派遣された神官の私も、よそからの若者でありながら温かく迎えてくれた村だったのだ!


 必死に生きていた、頑張っていた。誰もが豊かな生活を夢見て日々を過していた!!だが、そんな純粋な村人の夢は……無残にも潰されたのだ……ッ!


「ここは本日付けでタナカ伯爵の領土となった!タナカ伯爵からありがたいお言葉を頂戴する、心して聞くように!」


 ある日、豪華絢爛けんらんな馬車に乗って身なりの良い人達がこの村にやってきた。その中の一人……煌びやかな鎧を身に纏っていたお付きの騎士らしき人が村人を集めたと思えば、突如そう宣言したのだ。


 タナカ・ユウト伯爵、私も名前と実績は聞いたことがある。勇者として異界から召喚された少年で、黒髪黒目の美男子だと。


 戦争中の魔族の進行を止め、四天王の1人を打ち破った彼は伯爵となり、この度土地を所有することになったというむねをお付きの騎士から聞かされる。


 その当人の伯爵は、馬車から降りてきては両手に華と言わんばかりに美しい姫達を侍らせ、私たちをそっちのけでイチャイチャとしておられた。


「タナカ様?村人達がまっておられますわよ?」

「ああ、カーラ。続きはあとで、ね?」

「お待ちしておりますわぁ~」

「タナカ殿!わ、私も後で……」

「わかったよサクナ、じゃあ家に帰ってからね」


 英雄にはそれに見合う美姫がつくというのはいつの時代も変わらない……とにこやかにその場を見ていた私は、次のタナカ伯爵の発言に自分の耳を疑った。


「どーもー勇者タナカだよ。必ずこの村を繁栄させて見せよう!まずは金が必要だ、税を50%引き上げよう!」


 50%の増税……それは貯蓄もほとんどないこの村においては死刑と同義だ。当然反発がでる。


「ご。50%ですか!?今でも手一杯なのにそんな重税……誰も払えませんぞ!」

「そうだそうだ!」

「たとえ勇者様といえどそんな横暴……!」


 そう不満を漏らすと騎士様が槍を村人に突きつけてだまらせる。タナカ伯爵は心配ない!とばかりに言葉を続けた。


「みんなが不満になるのは分かる。だから、ボクはこの『ジャガイモ』を持ってきた。これを育てれば50%の増税も楽に払えるよ!」

「『ジャガイモ』……でございますか」

「これは一個の株から何個もとれるものなんだ。生産量は何倍にもなる、これをこの村の名産にする!」

 

 タナカ伯爵が自信に満ちた表情で差し出された黄色の丸いもの、『ジャガイモ』と呼ばれた植物?を私達の前に差し出してきました。


 貴族の言うことは従わざるを得ない、それに既にこの村はタナカ伯爵のものになってしまったので逆らえばどうなるかは火を見るより明らかだ。私達は今植えている野菜のタネを引き抜いては、『ジャガイモ』を植えていった。


 ジャガイモは確かに村を一時的に裕福にしてくれた。だが、これが後々に私たちを苦しめることになろうとはこの時の私たちは知るよしもなかったのである……ッ!


 気がつけば年ごとに土地が痩せて収穫量は減り、50%上がった重税を払えなくなった村人は誰もが苦しみ痩せ細っていった。


 薬も買えず日々悪化していく病気、満たされることの無い飢えと渇き……毎日教会に村人達が集まり、私に救い求める目を向けてくる。


 そんな彼らに私は毎回言うのだ……


「神に祈りましょう……神は見ております、必ずや救っていただけるでしょう」


 そう言うしか……なかったのだ。


 教会から来るわずかな仕送りもほとんど村の人に分け与えた……炊き出しも積極的に行った!

だがそんなものでは儚く散る命を数日延ばしただけ、痩せほそり死んでいった村人を私は……看取ることしか出来なかった。


 私は村を見て回る。家にもたれかかり死んでいる男性、彼は裕福になったら結婚するんだと言っていた……付き合っていた娘は村一番の美人で、村のみんながやっかんでいた。


 我が子の亡骸を抱きながら飢え死にしていった女性、彼女は第二子が産まれるんだと、安産祈願と神の祝福を授かりに、少し小太りな夫の尻をはたきながら教会に毎日参拝していた……


 腕に抱いたこの亡骸だって、とてもかわいらしい笑顔で大きくなったら私のお嫁さんになる!なんて言っていた。今や頬は痩せこけ、もうその笑顔を見ることも出来ない……!


「何が神だ……何が救われるだ……!腕の中のこの子一人でさえ、私は救うことが出来なかった……!」


 私は泣き崩れ、冷たくなった亡骸を抱きしめる。天にいらっしゃる神が私達を見ないように、空には分厚い灰色の雲がかかっていた。


「ああ……あああ……ッ!あああああああああああ!!」


 ああ神よ、何処にいらっしゃるのだろうか?私は慟哭どうこくする。いたら教えてくれ……小さな幸せすらも享受できなかった村人達は、いったいどんな罪を犯したというのか!?


 私はポツポツと振り始めた雨に打たれながら天を仰ぐ。あぁ……心の何処かでは分かっていたのかもしれない。


 神なんて、存在しないと。この日、地図から名も無き村が1つ消えた……

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