左遷されたギルド職員が辺境で地道に活躍する話

みなかみしょう

第1話:パワハラ左遷、辺境行き

「サズ君。すまない。本当にすまない……」


 目の前にいる人が本気で謝るのを初めて見た。

 その事実が、置かれた状況の深刻さを俺に伝えてきていた。


 アストリウム王国、王都ステイラ。

 ダンジョンとそれに関わる冒険者が名産品の国。 

 その片隅にある冒険者ギルドの事務室で、俺は唐突な告知を受けていた。


「あの、謝らないでください。……まさかこんなに早く動かれるとは俺も思いませんでしたから」

「私もだよ、結構頑張ったんで話が通じたと思ったんだけれどねぇ」


 俺が話しているのは直属の上司である課長だ。王都西部にあるギルド支部の所長も兼ねている人物で、穏やかと有能さで評判の人である。


「まさか、サズ君が中心になって進めていた新ダンジョンの攻略計画を乗っ取るだけで無く、人事異動まで強引に突っ込んでくるとは。本当に申し訳ない」


 何度も頭を下げてくる課長。この人がこんなに謝るのを初めてみた。


「言い方が悪かったんでしょうか。少し強めに言っちゃいましたし」

「いや、あのくらいは許されると思うよ。あの場の全員が君に同情的だったし」


 俺と課長が暗い顔をしている原因は、西部ギルドが半年かけて計画した新ダンジョンの攻略計画にある。

 ギルドにとって新ダンジョンの攻略は一大事業だ。用意する人員に資材、攻略にきてくれそうな冒険者に声をかけることもある。

 経済的にも大きな話であるため、これが軌道にのるかどうかは地域にとっても重要になる。

 それが、ある人物にまるごと持っていかれた。


 ヒンナル。アストリウム王国の大臣の遠縁であり、そのコネを使って冒険者ギルドで好き放題している評判の悪い男だ。


 彼の問題は、能力に追いつかない仕事をしようとするところにある。地道に実績を積み上げれば、コネもあって順当に出世するだろうに、階段を一個飛ばしするどころか、空を飛んで山頂に着地するような真似ばかりするのだ。


 そのやり方も悪質で、誰かが途中までやっている仕事を「良さそう」とばかりに横取りすることが多い。

 本人の経験不足から、途中から引き継いだ仕事が上手くいくわけはなく、最後は周りに迷惑をかけまくることになるのが常だった。


 そんな奴がいつまでもギルドにいられるのが不思議だが、大臣のコネは異常に強い。なにせ、アストリウム王国の実権を掌握してるとまで言われる人物なのだ。


 そんなわけで、冒険者ギルドとしてはヒンナルを刺激しないように、必死にフォローしつつ、少しずつ小さな仕事に誘導していた。


 そんな中、奴は俺が進めていた新ダンジョン攻略の仕事に飛びついたわけだ。運が悪いとしかいえない。


 一年前に王都から少し離れた場所で見つかった小規模なダンジョンの攻略。

 元冒険者である俺は、職場の皆に手伝って貰い、そこに冒険者達がアタックする環境を整えた。近隣の村へ物資と金を運び、宿や道具屋などの施設を整え、冒険者にも声をかける。

 もう少しで計画始動。そんな時に横槍をいれられた。


「せめて、こちらでフォローに回れませんか?」

「そう思ったんだけれど、向こうが先に動いてね……本部から異動の辞令がきたよ」


 俺主体で進めていた計画をヒンナルへと引き継ぐことになった。

 その会議の場において、できる限りの説得はしたのだが、届かなかった。

 最悪、俺の手柄はいらない。上手くいかなかったら冒険者に犠牲がでる。それを防ぐため、現地に残りたい。それも伝えたんだけど、無駄だった。

 

 むしろ、懸命に話したのが、悪い結果を引き寄せてしまったのかもしれない。


「……大丈夫なんですか?」

「本人は自信満々だそうだよ。中身はどうあれ、実績だけは立派だからね」


 悲しいことに、周りが大迷惑を被りつつも、どうにかしてしまったため、ヒンナルは実績だけはしっかりついている。足りない能力で仕事を荒らすとんでもない存在を冒険者ギルドは生み出してしまった。


「引き継ぎ書類、できるだけ用意しますね」

「うん……本当に申し訳ない。それで、君の異動先であるピーメイ村だけど……」


 課長が申し訳無さそうな顔を更に深めて、俺に申しつけられた異動先の説明をしようとする。


「ピーメイ村なら知ってます。有名なところですから」


 アストリウム王国の西の端。辺境の中の辺境。

 王国誕生にゆかりある地でありながら、場所が悪すぎて田舎のままの土地。

 殆ど人がいないが、色々と事情があって、そこにはしっかりと冒険者ギルドが存在する。


「そうか。僕達も大変だけど、君も大変だろうな」

「そうですね……」


 最果ての左遷の地。冒険者ギルドの職員にとって、最も所属したくない支部。

 

 俺の異動先は、そんな場所だった。

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